63話 「ガンプドルフの実力 中編」


(底が見えぬな。どうする? やれるのか? これ以上の戦いは、生死をかけたものにならないか? そもそも私は生き残れるのか?)



 そうガンプドルフが思っている間に、アンシュラオンはすでに跳んでいた。


 一瞬で懐に入り込むと、ガンプドルフに蹴りを見舞って、吹っ飛ばす。


 ガンプドルフは木に叩きつけられる。


 ただし、回転して受身を取っていたので足から着地し、その反動を利用して跳躍。反撃を開始。



(迷っている余裕はない! 今は戦わねば死ぬ!)



 再び一気に間合いを詰めると、剣撃によるラッシュを仕掛ける。


 肩、腹、足、首、あらゆるところに鋭い一撃を繰り出していく。



 それをアンシュラオンは素手で打ち払う。



 戦気術、【戦硬気せんこうき】。戦気を硬く物質化させる技で、剣気でこれを行えば、以前アンシュラオンが使っていたような剣硬気になる。


 さきほど張針円の針を叩き落した際も、手を戦硬気でガードしていた。


 ただし現在は、戦刃によって手の戦気を刃状に変化させて、それをさらに硬質化させている状況である。


 ガンプドルフが一本の剣だとすれば、今のアンシュラオンは両手に小さな剣を持った双剣スタイルである。



 この場合、やはり後者のほうが速い。



 徐々にアンシュラオンの攻撃がかするようになり、ガンプドルフのコートがズタボロになっていく。



(剣士の間合いで打ち合うとは! それだけ自信があるのか!)



 アンシュラオンは、平然とガンプドルフの間合いに入ってくる。そのたびに強烈な一撃を見舞うのだが、それを戦刃でいなしていく。


 その動きは舞っているかのように美麗で、まったく無駄がない。すべて紙一重で見切っている。だからこそ、そのまま反撃に移行できるのだ。


 剣気を操る剣士は攻撃力が高い傾向にある。


 普通は打ち合うことはせず、体術でかわしながら間合いを詰めるものだ。


 こうして無造作に接近できるのも、アンシュラオンの肉体能力と戦気の質が高いのと、圧倒的な【戦闘経験値】によるものである。



(なんだこの圧力は! この歳でどうして、ここまでの戦闘経験値を持っているのだ! いったいどれだけ戦ってきたというのだ!)



 熟練の剣士であるガンプドルフが、その深みに恐怖すら覚える。


 目の前の少年から感じるのは、激戦の波動。


 常時戦場に身を置いてきた者だけが放つ【修羅】の波動である。


 戦うことが自然であり、相手を滅することが当然の世界で暮らしている、完全なる戦闘マシーンの圧力。


 まさに武人の闘争本能の結晶とも呼べる、実に実に美しい存在であった。



(このような! このような人材が、こんなところに!! ―――っ!)



 ガンプドルフの注意が一瞬逸れた瞬間、アンシュラオンの戦気の形状が変化。


 巨大な鉤爪状に変化した戦気が、ガンプドルフを切り裂く。


 覇王技、蒸滅禽爪じょうめつきんそう


 戦刃を鉤爪状の刃に変化させて切り裂く技である。しかも爪は酸性を帯びているので、触れたものを溶かしていく。



 ガンプドルフのコートが千切れ、腹に―――激痛。



 灼けつくような痛みが襲い、酸が体内に侵入してくる。


 それを練気によって修復しつつ、ガンプドルフは一旦後退。


 しかし、アンシュラオンは追撃。


 両手を鉤爪に変化させて、素早い攻撃を繰り出してくる。



(防御で手一杯だ! フルプレートならば耐えられるが、この状況では…!)



 普段使っている戦闘用の鎧ならば、なんとか防ぎながら攻撃に転じることができるが、現在は軽装備である。


 それは言い訳にはできない。


 武人とは、常に戦いのことを想定して動くべきなのだ。それを怠ったガンプドルフが悪い。


 ただし、何の考えもなくそうしていたわけではない。


 重装備で領主と会談などできないし、相手国などの公の場では装備を預けることもある。その場合、どうしても軽装になってしまう。


 よって、その弱点を補うための手段も、ガンプドルフほどの武人ならば当然講じているはずだ。



 突如、ガンプドルフの身体が光に包まれる。



 戦気が収束し、物質化し―――鎧が生まれた。




「へぇ、鎧気術がいきじゅつか。あるのは知っていたけど、初めて見たな」



 戦気を鎧気に変化させ、物質化させる技である。


 戦気で生み出しているのでいつでも出し入れが可能で、壊れても即座に修復ができる。さらに特殊な能力を付与したものが多いのが特徴だ。


 ガンプドルフのものは金色に輝く鎧であり、周囲にバリバリと放電していることから、雷気を変質させて生み出したものだと思われる。



(なんか某漫画を思い出すな。黄金の鎧ってのはカッコイイもんだ)



 若干の憧れを抱いて鎧を見つめる。正直、ちょっと欲しい。




「いくぞ、少年! ここからが勝負だ!」




 ガンプドルフは突っ込む。


 アンシュラオンの攻撃能力を見てもなおそうすることから、ガンプドルフの戦闘スタイルがだいたいわかってきた。



(こいつは攻撃系の剣士だ。たぶん、鎧を着てからが本領なんだろう)



 武人には、攻撃型、バランス型、防御型の大きく分けて三種類のタイプが存在する。


 アンシュラオンは防御寄りのバランス型で、デアンカ・ギースと戦った時のようにまずは防御を優先し、体力を温存しながら相手の隙をうかがうタイプである。


 ゼブラエスもバランスタイプ。攻防に隙がなく、バランスよく何でもできる強みがある。


 彼の場合はやや攻撃寄りで、その恵まれた肉体を前面に押し出し、手数を出しながらあらゆる状況に対応するタイプである。


 防御型はひらすら防御しつつ、仲間を守ったり、特殊な能力でカウンターを仕掛けるタイプが多い。


 陽禅公が防御型であり、実分身などを使ってのらりくらりと防ぎつつ、じわじわと相手を消耗させるいやらしい戦法を得意としていたものだ。



 一方の攻撃型の特徴は、【ひたすら攻撃】である。



 ただただ攻撃に集中し、相手を圧倒し続ける。攻撃こそ最大の防御を体現したかのような存在、それが攻撃型である。


 パミエルキがこのタイプなので、アンシュラオンはその恐ろしさをよく知っている。


 しかもガンプドルフは剣士。ただでさえ強力な剣気を攻撃だけに使うことによって―――



「ぬんっ!」



 雷鳴斬らいめいざん。雷衝を剣にとどめて放つ剣技。相手を感電させる力を持つ。


 因子レベル1の技だが、ガンプドルフが使えば凄まじい威力になる。


 アンシュラオンはバックステップで回避。


 避けた場所が雷撃で爆ぜ、完全に消滅する。



「はあ!」



 続けて雷隆川らいりゅうせん。三叉に分かれた雷気が叩きつけられるように襲う。


 どんな魔獣でも雷に耐性がなければ、この一撃で麻痺するほどの強力な技である。普通の魔獣ならば即死であろう。


 アンシュラオンはそれも回避。注意深く技を見てから堅実にかわしていく。


 しかし、雷気はとどまり続け、周囲に激しい雷場を発生。


 雷に晒された足が―――止まる。



(雷系の技が多いな。しかもこの威力だ。雷属性を持っているのは間違いない)



 戦気でガードしているが、雷撃の威力が強くて足が痺れる。


 技にはそれぞれ属性があるが、使い手がそれに対応する属性を持っていれば威力は倍増する。


 アンシュラオンが水を得意とするように、ガンプドルフは雷を得意としているようだ。



「おおおお! 雷よ! 奔れ!!」



 さらに極め付けで大きな雷系の技が繰り出される。


 雷王らいおう麒戎剣きじゅうけん


 落雷のような爆音を上げて剣に雷気が集まり、それによって生まれる雷獣の残滓が、力を溜めているだけで大気を切り裂いていく。


 剣士因子5かつ、雷属性を持つ者にしか使えない【奥義】である。


 速度、威力ともに上位の技と比べても遜色がなく、中位技とはいえ単体での威力は最高位に匹敵する。



(これを人間相手に使うことになるとは…! だが、それだけの相手だ!)



 これは相手が武人であっても使うのを躊躇うような技である。


 よほどの強敵、全身全霊をもって倒さねばならない相手にしか使わないと決めているもので、最後に使ったのはルシアの雪騎将に対してである。


 その際、見事敵を討ち取っている。


 強力な武人であっても、直撃すればこの一撃には耐えられない。それだけの必殺剣である。


 ただし、技が発動するまでに多少の時間がかかる。そこをアンシュラオンは逃さない。



「羅刹!!」



 貫手の高速の一撃を腹に打ち込む。


 威力、速度、ともに相当なものであり、ガンプドルフはこれをかわせない。


 だが、彼には最初からかわすつもりなどはない。



―――雷撃のカウンター



 アンシュラオンが攻撃した直後、鎧が輝き出し、雷撃のカウンターを見舞う。


 雷鵺らいや公の鎧と呼ばれる、黄金の鎧の特殊能力である。


 攻撃を仕掛けてきた者に対して雷撃で反撃しつつ動きを封じ、そこに大技を叩き込む。


 張針円を使っていたことからも、これがガンプドルフの基本戦術であることがわかる。


 攻撃型の短所である防御を結界術や特殊鎧に任せ、自身は常に攻撃だけを選択し続ける。


 完全なる攻撃型、それがガンプドルフの戦闘スタイルであった。



(さすがにこれは動けまい!! 技の直後で硬直も解けていない!)



 雷撃を受けたアンシュラオンは感電。


 羅刹を放ったので動作は完了しており、そこに一瞬の硬直が発生している。


 完全にガンプドルフの間合い。



「もらった!!」



 そこをガンプドルフは逃さない。


 雷神の如き速度で、剣撃がアンシュラオンに襲いかかる。


 これはよけられない。かろうじて左腕を上げてガードするのが精一杯。



 剣が―――左腕を切り裂く。



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