51話 「【マップ戦:領主城外周】 その3」


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・北に進む → 強制戦闘パネル


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(また衛士がいる。さくっと避けて先に行きたいけど、けっこう数がいるな)



 目の前には八人の衛士が周囲を見張っている。


 他の場所に比べて、このあたりの警備はかなり厳重に思えた。



(裏側に抜けるルートだからか? それとも重要な場所でもあるのかな? …たしか、この近くだったよな。オレの波動円に気がついたやつがいたのは)



 アンシュラオンは尖塔を見上げる。


 波動円に感づいた武人がいたのが、あの尖塔。その人物が出てきたら、普通の衛士のように簡単な戦いにはならないだろうという予感がある。



(尖塔にいたってことは、そいつはやっぱり中にいるんだろう。そして、中にいるってことは外側の連中とは別格ということだ。サナを連れて逃げる場合、そいつが追ってきたらあまり余裕はなさそうだ。少なくとも立ち塞がる雑魚に手加減する余裕はない)



 強い武人と戦いながら、衛士のような雑魚を殺さないでおくのは、なかなかに難しいことである。


 普段ならば問題ないかもしれないが、サナがいることを忘れてはいけない。


 よって、まずは少しでも衛士を減らしておくことを選択。邪魔というより、彼らを殺さないために、である。



(ここにいる衛士のおっちゃんたちは、おそらく公募で集められた者たちだ。今までの様子を見ている限り、城の中には入れさせてもらえない程度の存在。逆にいえば、それだけ関係ない人間だ。さすがに無差別に殺すのはかわいそうだろう)



 アンシュラオンは戦気を放出し―――【人型】に維持。


 それにさきほど倉庫で手に入れた黒い大きな布を巻きつければ、あっという間に不審者の出来上がりである。


 試しに意識を向けて操作してみると、思う通りに動いた。指の一本一本も自在に操れる。


 戦気術の一つ、【分戦子ぶんせんし】という技である。


 自身の戦気に形態を与えて操る術であり、べつに人型である必要性はない。自分の好きな形に変えて自在に操ることができる。


 ただし、遠隔操作系の武人でないと思ったように動かすことはできないので、ほぼ遠隔系専用の技といえる。


 アンシュラオンはすべての因子を持っているので、遠隔操作系の技の修得も可能となっている。



 それを―――遠くにある茂みに飛ばす。



 意図的に跳ねたりさせて、ガサガサと音を立てる。


 それに衛士が反応。



「ん? 何だ? あっちで何か揺れたぞ」


「見てくる」


「俺もいくぞ」


「待て。動くときはグループでいこう。四人ずつだ」


「了解だ」



 アンシュラオンの予想通り、半数の人間が茂みに向かう。


 適度な距離を保ちながら戦気人形を移動させ、遠くにおびき出す。


 その間、残った衛士四人は雑談。



「敵か?」


「そんな馬鹿な。どうせ何かの動物だろう? お嬢様が飼ってるやつとかさ」


「ああ、犬か? この前なんてあれに飽き足らず、もっと珍しいのが欲しいって言って狩りに行ってたな」


「危なくないのか? 外は危険だろう?」


「ファテロナ様がいるから大丈夫だろう。あの人、門番のマキちゃんくらい強いって話だしさ」


「マキちゃんか…。可愛いよな。そろそろ嫁になってくれないかな?」


「そろそろもなにも、お前の顔すら覚えてないだろうさ」


「そんな! 毎日のようにすれ違っているのに!!」



 すれ違っているだけ。


 ものすごくチラ見するので、マキからは不審者だと思われていたりするが、今ここでバラして男心を傷つける必要はないだろう。


 どのみち可能性はゼロなのだから。




「あのー、ちょっとすみません」


「え?」



 そんな会話をしている間に、アンシュラオンが衛士たちに近寄っていった。特に隠れるわけでもなく普通に。



「き、君は…?」


「通りすがりの白仮面です」


「白仮面…? 通りすがり?」


「はい。イタ嬢様に呼ばれて来ました」



 その言葉を受け、衛士たちの表情に「納得」の二文字が見えた気がした。



「また変なことをしてるのか…あの人は」


「しょうがねえよ。領主様が好きにやらせているんだしさ。関わらないほうがいい」


「それで…何か用かい?」


「はい。さっき知らない人にこれを渡されて…」



 アンシュラオンが紙を渡す。



「…ん? 何? 上級街に爆弾を仕掛けた!? どういうことだ!?」


「お、おい、なんだそれ!? やばいじゃねえか!」


「続きがある。こちらの要求を呑むのならば爆弾は解除する。要求は、領主が全裸になって、ケツにキュウリをぶっ刺して土下座をすること…? なんだこれは?」


「さっき黒い服を着た人に渡されて…それ以上はわかりません。でも、大切なものだと思ったので届けに来て…」


「た、大変だぞ! 早く行かないと! あっ、さっきの人影はまさか!!」


「領主様に何の恨みがあるんだ! ケツにキュウリをぶっ刺すなんて、相当な罰ゲームだぞ!!」


「しかも『お前の味噌の味はどうだ?』と言いながら食わすらしいです」


「なんて鬼畜だ!? 信じられない猟奇犯だぞ! おえっ、想像するだけで吐き気がする!」


「お、追うぞ!! 俺たちも合流して探さないと!!」


「わ、わかった! あっ、君は早く戻っていなさい!」


「はーい。気をつけて行ってらっしゃーい」



 アンシュラオンは衛士たちを見送った。


 そして戦気でズタボロになった布だけを木の枝に残し、分戦子を解除。これで衛士たちを撒くことに成功。



(気絶させても処理が面倒だしね。これが一番楽だ。しばらく謎の黒仮面でも探していてくれ。そのほうが安全だよ、きっとね)





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・北に移動 → 何もなし


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・北に移動 → 何もなし


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・北に移動 → アイテム取得


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「大きな革袋が八つ? さっきの衛士たちのものかな?」



 そこには八つの革袋、おそらく荷物入れか何かが置いてあった。



「こういうのを見ると好奇心が湧くよね。特に異世界のものだし、中身が気になるな」



 歳を取ると欲望が減るので、他人の物にはまったく興味がなくなるが、若いうちは何が入っているか気になったものである。


 好奇心に惹かれて少し覗いてみた。



「うーん、ろくなものがないな。使えそうなものは軽食用のパンとナイフくらいだけど……おっと、これは何だ?」



 手帳か何かの中に見覚えのある顔を見つけた。



「これは…マキさんの写真? おお、写真の技術もあるのか。画質はけっこう粗いけど、ちゃんと映っているじゃないか。だが、オレの嫁を勝手に撮るとはけしからん。これは没収だな」



 マキの写真は没収。おそらくマキとすれ違いを繰り返していた男の犯行だろう。


 その行為はストーカーじみているので制裁も加える。



「代わりにモヒカンから引きちぎった髪の毛を入れておこう。突如出現した謎の髪の毛に恐れおののくがいい」



 モヒカンの髪、IN。


 しかもちょっと血が付いている怖い髪の毛である。



「ついでにパンの中にも入れていこう。うん、これくらいでいいか。もう二度とオレの嫁に近寄るなよ。あっ、そこらの土も革袋に入れておこう。おっ、ミミズもいるじゃないか。こいつもINだな。あとはゲジゲジと、そこにいたゴキブリも入れて…よし、OKだ! 出てこないように、しっかりと縛っておこう」



 ドサドサドサ


 鬼畜の所業で制裁終了。





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・東に移動 → 敵と遭遇 → やり過ごす


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 眠そうでフラフラした衛士がいたので、軽くやり過ごした。


 特筆すべきことはないが、背後をすり抜ける時に高速ひざかっくんをお見舞いしたので、ビクッとなった。


 だが、驚いて背後を見た時には、通り過ぎていて誰もいなかった。


 以上である。





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・東に移動 → 敵と遭遇 → やり過ごす


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 再び眠そうにしている衛士を発見。というか、ほぼ完全に寝ている。



(どうやら裏側は衛士たちのサボりスポットらしいな。けしからんやつらめ。罰としてさっき革袋を漁った時に出てきたバターを、たっぷりと塗ってくれるわ)



 置いてあった銃にたっぷりとバターを塗る。


 ついでにズボンを引っ張って股間にも入れておいた。


 あの手についたときの妙にぬるぬるした感じを味わっていただきたい。


 以上である。





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・東に移動 → 何もなし


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・東に移動 → 何もなし


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・東に移動 → 敵と遭遇 → やり過ごす


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(ん? あれは…犬か?)



 前方には、なにやら犬のような生き物が寝そべっていた。


 大きさは地球の大型犬と同じくらいのサイズだが、毛がほとんどない。見た目はドーベルマンに似ている犬種で、フォーナドッグ〈飼育警備犬〉と呼ばれる動物である。


 一応魔獣に属しているが、家畜化可能な第八級の無害級魔獣に相当し、人間とも一緒に生活が可能な種類として、こうした私有地の警備に使われている。


 あまり群れで行動しない点を除けば、単体での戦闘力は第六級のガルドッグに近く、それなりに脅威となる魔獣である。


 このフォーナドッグも警備犬兼イタ嬢のペットとして、領主城の外周で飼われているものである。



(わんころか。犬は嫌いじゃないし、わざわざ殺すこともない。が、鳴かれると面倒だからな。こうしておこう)



 アンシュラオンは、すっとフォーナドッグに近寄り、むんずとたるんだ頬肉を持ち上げる。


 そこにさきほど手に入れた大きく長いパンを、口の中に突っ込む。



「っ!? っ?!!??」



 フォーナドッグは、いきなり口内にパンを放り込まれ、びっくりして目をパチパチさせる。



「ふぐーふぐーーーー!(なにこれ!? 口が、口がー!)」


「どうだ。パサパサするだろう? お前の唾液を全部奪ってやるぞ」


「ふーーーふーーーー!!(はふはふっ、口が渇く!! 喉に詰まるぅ!!)」


「水はあっちだぞ。早く行け」


「ふがっ、ふごっ!!(水、水っ!!)」



 パニックに陥ったフォーナドッグは走り去った。





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・東に移動 → 敵と遭遇 → 戦闘


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「イタ嬢様からの差し入れだよ。はい、パン」


「え? お嬢様が?」


「うん、ご苦労様だって」


「珍しいこともあるもんだ…」


「一気飲みしてだって」


「パンを!? 何かの間違いじゃないのか? パンだぞ!?」


「間違いないよ。一気飲みしろって命令だよ」


「また変なことを考えて…!!」


「どうするの? 逆らっていいの?」


「くううう…騒がれると面倒なんだよな。クビにされちまうかもしれない。家には女房と娘がいて、まだまだ金がかかるし…」



 衛士の男は、パンをじっと見つめる。


 しばらく見つめあい、呼吸を荒くしながら覚悟を決める。



「ええい、ままよ!! んぐっ、んぐっ!! 太いっ! 口が乾燥する!! 喉に詰まる!!!」


「はい、バター!」


「バターじゃ駄目だ!?」


「はい、ジャム!!」


「甘くなっただけだ!?」


「はい、水飴!!」


「甘いうえにもっと詰まる!?」


「はい、ハンマー!」


「この場面では、まったくの無力!?」


「じゃあ、水! ドバドバドバッ!!」


「ぶほぁっ―――!? ごほっ! ごほっ!!」


「ほら、駄目だよ。もっと飲み込んで!!」


「ぐうううっ! も、もう無理……がくっ」



 男は失神。


 それを見てアンシュラオンは思った。



「やっぱりパンは飲み物じゃないな」





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・東に移動 → 強制イベントパネル


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 アンシュラオンは領主城の裏側に来ることに成功。



(こういう潜入ってのも楽しいもんだな。まあ、サナの貞操が一応安全だとわかっているからこそのゆとりだけど、領主がロリコンという可能性も否定できない。あれだけ可愛いんだ。他の連中に何かされないとも限らない。さっさと行こう。たしか四階だったな)



 周囲に人影はない。犬もいない。


 あらかた遠ざけた&嫌がらせで排除したので、このあたりを巡回する者はもういないだろう。


 城の裏側には各階にバルコニーがあるようで、そこを足場に一気に登っていく。これだけ突起があれば、山で暮らしていたアンシュラオンにとっては楽勝である。


 まずは二階、三階、四階と登って、さらに一旦屋根に出て周囲を確認。



(特に騒ぎにはなっていないな。イタ嬢が変態でよかったよ。この格好でもまったく疑われないって、普段どんだけ馬鹿やってんだろうな。爆弾の偽手紙のやつらも謎の黒仮面を追っていなくなっているし、帰りは楽そうだな)



 ヤモリのように両手足を壁に密着させながら、四階にあるひと気のない部屋の窓に移動。


 両手足に粘着性を高めた命気を放出し、ぴったりと張り付いているのだ。水気だと攻撃的になるので壁が壊れる可能性があるが、命気ならば問題ない。


 命気も、まさかこんな使われ方をするとは夢にも思わなかったに違いない。


 そして、窓に手をかける。



(罠や警報装置がなければいいんだけど…。おっ、開いた。壊しちゃったけど…大丈夫だよね)



 鍵を壊した時に少し音がしたが許容範囲内だろう。


 アンシュラオンは壊すのは得意だが、解錠作業はあまり得意ではない。本職が戦士なのだから仕方ないことだ。


 それと、警報装置のようなものはないようだ。



(無用心だな。オレが警備担当だったら、もっと厳重にするんだけどな。外側から窓を開けると爆発するとかさ。…まあ、冷静に考えると危ないか。自分の罠にはまって死んだ人もいるし、自宅が常時地雷原だったら落ち着かないよな)



 手慣れた様子で、するりと窓から侵入。


 ついに領主城内部へと侵入を果たす。





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※領主城 外周 マップ全容


https://16509.mitemin.net/i316010/



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