46話 「そりゃないだろう、モヒカン野郎 後編」


 引き続きモヒカンを詰問する。



「いくらで売った?」


「そ、それはっ……」


「いくらで売った? 本当に来るかわからないオレより、すぐ手に入る金に目が眩んだのか?」


「…そんなこと…は…ないっすが…」


「いくらだ」


「…二千万…っす」


「ほぉ、すごいな。正直、そこまでとは思わなかった。六倍以上の値を付けるやつなんているんだな。それだけサナの魅力に気がついたやつか、それともただの成金趣味か」



 そんなアンシュラオンは三十倍以上であるが。



「オレが予約していることは言ったんだよな?」


「もちろんっす!! ちゃんと予約されてると言って、一千万までは断ったっす。でも、倍にされて…」


「額が額だ。仕方ない」


「ほっ」


「なんて言うと思ったか、このモヒカンめ!!!!」


「ぎゃっーーー! 髪を引っ張らないでほしいっす!!!」


「ハゲの部分に陰毛を植えてやろうか!! こいつめ!!」



 植毛で、下の毛を頭に植えた人がいたのを見たことがある。



―――見事に【縮れていた】



 このモヒカンのハゲの部分を、全部縮れた毛にしてやりたい衝動に駆られたが、まだ我慢する。


 その前に大切なことを訊かねばならないからだ。



「誰だ? 誰が買った」


「それは言えないっす! 守秘義務ってのがあるっす!!」


「お前にそれが言えた義理か? 自分の権利を主張するなら最初から売るな。言え。誰だ?」


「旦那!! 諦めてくださいっす! その代わり他の白スレイブなら、何人でも持っていって…」




「ふざけるな―――!!!」




 一瞬、世界が揺れた気がした。



 アンシュラオンから、ビリビリとした強烈な戦気が燃え広がっていく。


 その波動に、店全体が揺れているのだ。



「ふざけるな!! あれはオレのものだ!!! オレが買うと決めたんだ!! それをどうしてお前に決められなくちゃいけない!!! オレが、オレが、オレが欲したんだ!! オレのものにするとな!!! あまりなめるなよ!!」



 怒りで戦気が真っ赤になっていく。


 意図的にモヒカンに危害を加えないようにしたが、触れた周囲の物質が消失。


 結果、一部の床と札束とモヒカンを残して、室内全部が消え去ってしまった。大地も抉れ、そこだけ基礎工事を怠ったように何もなくなっている。


 これから入ってくる人間は、ドアを開けた瞬間に硬直するに違いない。もうそこには何もないのだから。


 表で馬鹿騒ぎをしている連中がいなかったら、その揺れで大騒ぎになっていたかもしれない。


 その惨状に、モヒカンが改めてアンシュラオンの恐ろしさを知る。リングなどまったく意味がないのだ。



 死ぬ。本気で殺される。そう思った。



「ひぃっ…ご勘弁を……」


「死にたくなければ全部話せ。いや、死なないようにいたぶってやってもいいぞ。オレは弱いやつをなぶるのも嫌いじゃないからな。特にオレを裏切ったやつなら、さぞや楽しいに違いない。どっちが好みだ? 選べ。オレはどっちでもいいぞ。お前が言わないなら、この店に関わった全員を締め上げるだけだ。どうせ購入者のリストは持っているんだろう? 奥の傭兵やらを拷問して…」


「言う、言うっす! 全部話すっす! だから許してほしいっす!!」


「誰が買った? 早く言え。もしあの子が傷物になっていたら、どうなるかわかっているな。お前だけじゃ済まないことは確実だ」


「そ、それは大丈夫っす。買ったのは女性で……」


「女? 女だって同性愛者がいるだろう。傷物にされていないとは言いきれないぞ」


「それも大丈夫っす。買ったのは少女っす」


「少女?? 少女だからって、そういう趣味の…」


「ああああああ!」


「なんだ? 発狂したのか? お楽しみはこれからだぞ。発狂したあとになぶるのも面白いからな。泣き叫ぶお前を水責めで苦しめてやる。寄生虫たっぷりの水でな」


「恐ろしい発言っす!?」


「言っておくが全部本気だぞ。目的のためには手段は選ばないからな」


「わかったっす! 全部話すっす!!」


「最初からそう言っているだろうが。この頭の悪いモヒカンが!! 罰をくらえ!!」


「いたいいたいっすーー! あー、抜けたっす!!! 血がー、血がーーー!」


「どうだ! この中途半端なモヒカンめ!!」



 モヒカンの髪の毛を引っ張って、真ん中あたりを引き抜いてやった。ざまあみろ、である。





 それからモヒカンが事情を話し始める。


 内容は少し意外なものであった。



「領主の娘だと?」


「はいっす。今日の昼前に領主と一緒にやってきたっす。そこであの子がいいと言われて…。断ったっすが、領主の頼みとなると断りきれず…」


「領主だって関係ないだろう」


「さすがに無理っす。この都市は領主の個人都市っすから、怒らせたら商売が危なくなるっす」


「どうせ癒着でもしているんだろう。お前の中級市民権だって、そういうところで融通して手に入れたものじゃないのか? 何が工事で貢献だ。よく言うな」


「しょうがないっす。そこは持ちつ持たれつっす。それに領主はお得意様っす。やっぱり強く言われたら断れないっす」


「ふん、今までもそうやってスレイブを渡してきたのか?」


「はいっす。メイドとか親衛隊の大半は、そういうスレイブで構成されているっす」


「普通の兵はいないのか?」


「公募で集めた一般兵は外側の砦に回されるっすが、自分の周囲はスレイブで固めているっすよ。そのほうが安全だからっす」


「自分以外は信じられないか。領主はクズだな!! それにメイドだと? ゲスだな!!! そいつは!! 恥を知れ!!」


「旦那がそれを言うなんて…いたっ!!」



 三百万ビンタで制裁。



「領主はどんなやつなんだ?」


「ヒゲを生やして少し太ったおっさんっす」


「どんなステレオタイプだ、その領主は。どうせ毎晩、乱交パーティーでも開いて遊んでいるクズなんだろう?」


「どんな偏見っすか!?」


「こういうところの領主といったら、民に重税を課して『年貢が払えないなら、娘をもらおうか!』と力づくで女を集めて、『ぐへへ、今日もヒーヒー楽しませてやろうか。この俺様のブツでな!』とか言うのが一般的だ」


「一般の情報がおかしいっす。全然違うっす」


「じゃあ、どんなやつだ?」


「愛妻家で娘を溺愛している人っす。見た目は怖いおっさんっすが、街のこともそれなりに気にしているっす」


「そんなやつが白スレイブを買うか?」


「白スレイブを欲しがるのは娘っす。領主じゃないっす。領主は娘のご機嫌取りに買うだけっす」


「なら、その娘がどうして白スレイブ、それもあの子を欲しがる?」


「あの娘は、時々来るっす。その…噂でしか聞いたことはないっすが、【人形】にするとか……」


「は? 人形? 殺して臓器を抜いて、代わりに綿でも詰めるのか? それとも生きたままロウで固めて飾るのか?」


「恐ろしい発想っす!!! そんなこと考えたこともないっす! 夢に見るっす! やめてほしいっす!! おええ!」


「ホラーゲームとかなら、よくある設定なんだが…違うのか?」


「そんなんじゃないっす。なんだか友達がいないらしくて。代わりに女の子のスレイブを買っていくっす」


「は? 友達?」


「そうっす。友達代わりっす。普通のスレイブと違って、白スレイブならば本物に近い設定が入れられるっす」



 その情報に、さすがのアンシュラオンもしばらくフリーズする。



「反吐が出るな。どんだけ根暗だ」


「旦那がそれを言ったら…いたっ! いたっ! いたっ! いたっ!」



 三百万往復ビンタ、二連撃。



「痛いっす。頬が限界っす。口内が血塗れっす」


「これが金の力だ。思い知ったか。気に入ったなら、次は一千万ビンタにするか?」


「それはもう凶器っす。やめてほしいっす!」


「その娘は何歳なんだ?」


「たぶん、14か15くらいっすね」


「終わってるな、そいつ。ただの変態じゃないか」


「変態ってわけじゃないっすが…、たしかに巷では【イタ嬢】って呼ばれることもあるっす」


「イタ嬢?」


「痛いお嬢様の略っす」


「思いきりディスってやがるな。嫌われ者なのか?」


「顔は普通に可愛いっすし、そんなに問題行動を起こすわけじゃないっす。ただ、やっぱりちょっと知能的にいろいろあるっす。考え方も一般人とは違うっす」


「そりゃ、その歳から白スレイブにはまっていれば当然だろうな。人間、なまじ金があるとなかなか成長できないからな…」


「そんなイタ嬢は領主に溺愛されているっす」


「つまるところ、甘やかされたお嬢様ってわけか」


「そうっす」



(早い話、領主の娘に横取りされたってわけか。いや、娘だけじゃない。その背後には領主の権限がある。それを娘のためとはいえ利用したんだ。そいつも同罪だな)



「事情はわかった。それで、あの子はどこだ?」


「まさか、取り戻しに行くなんてことはしないっすよね?」


「逆だろう。行かないなんて言うと思ったのか? あれはオレのものだ。絶対に取り戻す」


「す、すごい独占欲っす。普通、しょうがないから他のスレイブにするとか言うっす。相手は領主っすよ?」


「だからどうした。オレがそう言うと期待していたのか? 残念だったな。あの子の代わりなどいない。わかったら場所を言え」


「うう、場所は…」



 この第二壁よりも内側、高級住宅街が並ぶ上級街の、そのさらに中心地。


 このグラス・ギースの頂上であり心臓部。



 領主城。



 そこが領主の家であり、サナが連れていかれた場所である。



「警備状況は?」


「それ以上は自分たちの立場が…!」


「安心しろ。お前たちに迷惑はかけない。オレが勝手に取り戻しに行くんだ。お前は関係ない」


「ほっ…」


「しかし、この貸しは高くつくぞ。本当ならばお前たちは皆殺しだ。だが、もう一度だけチャンスをやろう。オレも中級市民になった直後にレッドカードは最悪だ。発行してくれたお姉さんに申し訳が立たないからな」



 小百合があんなに嬉しそうに発行してくれたのだ。


 ここでモヒカンを殺せばすっきりするかもしれないが、小百合は残念がるだろう。


 それに、殺したら利用できなくなる。このモヒカンにはまだ利用価値がある。



「今後お前はオレのためにスレイブを用意し続けろ。それでチャラにしてやる」


「弱みを握られたっす」


「自業自得だ。それより相手の出方によっては揉めるかもしれん。極力殺しはやりたくないが…領主や娘が死んだらごめんな。その場合は証拠を消すために領主城ごと吹き飛ばす予定だ」



 覇王流星掌ならば、天災ということで済む可能性も高い。便利な技だ。



「いやいやいや、それは勘弁っす!! どんだけ物騒っすか!?」


「相手の出方次第だ。道理をわきまえるようなやつなら、オレだってそんなことはしない。謝罪して、頭を犬のフンがある地面にこすりつけて、回転させて、死ぬ気で謝るようなやつなら許してやらんこともない」



 許してやらんこともない = 許さないかもしれない



「グラス・ギースがなくならないことを祈るっす…」



 モヒカンにアンシュラオンを止めることはできない。


 女を奪われた恨みは、実に恐ろしいのだ。




(くそっ、いきなりつまづくとは! だが、諦めないぞ! 絶対に取り返すからな!!! サナ、待っていろよ! すぐに行くからな!)




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