44話 「中級市民になったよ」


「あっ、アンシュラオン様、お待ちください!」



 アンシュラオンが出ていこうとすると、お姉さんに止められた。



「何?」


「デアンカ・ギースを倒されましたので、この都市の貢献ポイントを一気に10000ほど獲得されましたが、いかがいたしましょう?」


「貢献ポイント? 何それ?」


「これは失礼いたしました。貢献ポイントは、街の依頼をこなしたり、特定の魔獣を倒すことで溜まっていきます。一般の方なら街の清掃でも溜まります。要するに街への貢献度ですね」


「なるほど、それは重要だね。どんな色のハンターでも街に益を与えないなら意味はないし、逆に一般人でも街に役立つなら大切な存在だ」


「そういうことです。貢献ポイントは、ハローワーク支部のある都市ごとに規定が違いますので、ご注意ください」


「ここのポイントは、ここだけってことだね。それで、貯まるとどうなるの?」


「お貯めになられた貢献ポイントによって、いろいろな特典がございます」



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〇貢献ポイントの主な使い道


1      良い心がけで賞

10     がんばったで賞

500    食べ放題券セット

1000   冒険者セット、これで今日から君も勇者

2000   低級市民権の獲得

5000   中級市民権の獲得、入出審査免除

10000  上級市民権の獲得、各種優遇措置


※その他、ポイントに応じたアイテム交換

※その都市、その国家によって特典は異なる。

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(へー、こんなのがあるんだ。掃除一回で1だとすると、食べ放題券を得るまでに500回もやるの? けっこうハードル高いな。逆に言うとデアンカ・ギースは掃除一万回分か。それなら倒したほうが楽だな)



 掃除を一万回やってもデアンカ・ギースは倒せないが、アンシュラオンにとっては掃除一万回のほうがつらいので、お掃除の人たちには最敬礼である。



「交換アイテムって、どんなのがあるの?」


「こちらにカタログがございます」



 お姉さんが、よく冠婚葬祭で使われるカタログギフトのようなものを出してきた。


 小物から大きな物までいろいろある。テントが付いているキャンプセットは地味に欲しい。



(吸水玉まである。一般人は簡単に手に入らないから、こういうところで手に入れるのかな? 某ゲームのカジノの景品みたいだな)



「あっ、そうだ。このポイントって、ラブヘイアにも分けてあげられるかな? 一緒に倒したから、あいつにも権利があるよね?」


「はい、同伴者には可能です。ただし最大で半分となります。仮に同伴者が二人いれば、半分を二人で分ける形、四分の一ずつとなります」


「実際に倒したやつが半分。それ以外を分けるのか。今回は二人だからいいけど、もっと多いパーティーだと揉めない?」


「パーティー登録をしておけば、均等に分けることができます。さきほどの傭兵団の方々はそうされています」


「パーティーか…。楽しそうだね」


「ラブヘイア様をパーティーに入れれば、今後も…」


「遠慮する。それは永遠にないから。今回だけ分けてあげて」


「かしこまりました」



 即答である。あんな変態と組むのは一度で十分だ。



 それからいろいろと見比べ、最終的に一つを選ぶ。



(こういう場合、ちょこまかしたものを選んでも後悔する。価値あるものを一つ、どーんと買うか)



「5000だと…この中級市民権ってやつと交換できる?」


「すぐにご用意いたします!!!! お任せください!!」


「えっ? なんでお姉さんが、そんなに張りきるの?」



 すごい熱意だ。カウンターから身を乗り出してきた。



「申し訳ございません。興奮してしまって。市民権を得ることは、単に納税面でもメリットはありますが、自分たちの【身内】になるということなのです。だから嬉しくて、つい…」



 同じ街に暮らす仲間になる。


 この世知辛い世の中において、それはもう身内であり、助け、助けられる間柄となることを意味する。


 認めてもらうための貢献ポイントであり、認められた証の市民権だからだ。



「そっか、思ったより深い意味があるんだね。昨日ここに来たばかりだから、まだ愛着とかないんだけど…こんなオレが市民権を得るってどうなのかな? やっぱり迷惑かな?」


「そんなことはありません! ぜひとも市民になってください!! そうなれば、私といつでも会えますから!! 中級市民になると、中級街に家が持てるのです。私も中級市民なのでお隣だって可能…いえ、いっそのこと一緒に住むこともできますよ!!」


「あ…うん。そうなんだ。それは魅力的だな」



 すごい押しが強い。



「じゃあ、お願いしようかな」


「かしこまりました。すぐにご用意いたします!! 私もアンシュラオン様専用の受付として、日々がんばりたいと思います! よろしくお願いいたします!」



(あれ? いつの間にか専用の受付に…。綺麗なお姉さんだからいいけどね。最初は丁寧だったけど、打ち解けてくると面白い人だな。ちょっと見てみようかな?)



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名前  :小百合さゆり・ミナミノ


レベル:12/50

HP :100/100

BP :40/40


統率:E   体力: F

知力:C   精神: F

魔力:F   攻撃: F

魅力:D   防御: F

工作:C   命中: F

隠密:E   回避: F


【覚醒値】

戦士:0/0 剣士:0/0 術士:0/0


☆総合:評価外


異名:ハローワークの名物受付お姉さん(年下の恋人募集中)

種族:人間

属性:

異能:万年笑顔、迅速事務処理、信頼感、年下好き

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(知力と工作が高いな…。事務系ってことなのかな? 異能もそんな感じだしね。って、年下好きなんだ。オレと相性良すぎるな)



 かたや年上キラー、かたや年下好き。もう完全なる一致である。


 年齢もマキと同じくらいなので、アンシュラオンより年上なのだろう。相性ばっちりである。



(うん、改めて見ても綺麗な人だ。マキさんは凛々しい感じで、このお姉さんは少し柔らかい感じで、両方とも好みだな)



 やや黒に近い紺青こんじょうの髪の毛。垂れ目でおっとりした顔付きは童顔で、綺麗と可愛いの中間の印象を与える美人である。


 マキよりも胸は小さいが、十分なサイズはあるように見える。あくまでアンシュラオンセンサーによる査定だが。



「お姉さんの名前を教えてくれる? これから長い付き合いになると思うしさ」


「あっ、はい! 小百合さゆり・ミナミノと申します! 二十七歳、独身です! 恋人募集中です!」



 関係ない情報まで口走った。


 だが、アンシュラオンは違うところに思いを馳せていた。



(小百合・ミナミノ…どう考えても日本人の名前だな。ミナミノは、南野か? しかも名前は漢字を使っている。門番のマキさんも日本名といえなくもない。…ちょっと訊いてみるか)



「ねえ、身内に日本人っている?」


「ニホンジン…ですか?」


「うん、とある島国に住む人のことなんだけど…知ってるかな? お父さんとかお祖父ちゃんとかが、そこの出身とかは?」


「ううん…わかりかねますね。あまり聞いたことはないものでして…大切なことならばお調べいたしましょうか?」


「ああ、そこまではいいんだよ。全然気にしなくていいからね。ほんと、たいしたことじゃないから」


「そうですか?」


「そうそう。ちょっと気になっただけだし」



(そういえば、そもそも人種に対して興味があまりないんだよね、この世界の人って。だから自分のルーツとかも、そこまで気にするわけじゃないんだろうし)



 どこの国の人間でどんな肌の色か、というより、どんな考えでそこにいるのか、ということを重要視する。


 そのほうが建設的だが、少し味気ない思いもある。



(地球にいる時は、国家や人種の違いであれこれ言う人間を愚かだと思ったけど、いざなくなってみると国際試合も盛り上がらないんだろうな。憎しみがパワーになることってのもあるしね。まあ、無いなら無いほうがいいんだけど)



 そうこうしている間に市民証明書が出来た。


 これもまたハンターカードと同じようなジュエル付きのものであるが、この都市のデザインなのか、壁に囲まれた城の絵が描かれている。



「こちらが市民証となります。身分証にも使えますし、依頼をこなした際の報酬額にも優遇がございます。当然、入出審査も免除となります」


「これで楽になるよ。免除ってことは、このリングも取れるの?」


「はい。門番の方に身分証を提示してくだされば、今後は不要となります」


「そっか、そっか。いいこと尽くめだね」


「ただ、都市内で犯罪行為を行いますと、それも記録されていきます。特に殺傷行為、殺人などは追放処分もございますので、ご注意ください」


「この青のジュエルの色が変わるのかな?」


「はい。少しずつ赤くなっていきます。殺人は一度で赤になります」


「正当防衛は?」


「その場合は審議となります。黄色ですね。正当防衛が立証されれば青に戻ります。それまでは多少制限が付くことになりますが…」


「どっちにしても面倒ってわけだね。気をつけるよ」


「ただし、これは同じ市民権を持つ者同士の話ですので、持たない方との間では、いかなるいさかいについても影響されません」


「持たない人もいるもんね。割合はどれくらいかな?」


「そうですね…。現在、グラス・ギースには八万人程度の住民がおりますが、下級市民が三万人、中級が六千人、上級が千人といった程度でしょうか」



(約半数弱くらいか。でも、あの人の流れを見ていると、日々五千人くらいの人が出入りしているはずだ。街の人口密度を考えても、もっといると思ったほうがいいな。あくまで把握している数で、という意味だろう)



 市民権を持たない流浪の民は、安宿で暮らすことになる。あるいは裏街のような場所にたむろすることになるのだろう。


 最初にアンシュラオンが赴いた場所が、そのような区域だったのだ。ボロ屋も多かった記憶がある。



「こちらが都市内部の地図となります。市民権を持つ方だけに与えられるものですので、身内以外には見せないようにしてくださいね」


「うん、わかったよ」


「ちなみに私の家はこのあたりです。昼間はここにいますが、夜ならいつでも来てくれてかまいませんよ」



 印を付けられた。赤で。



https://16509.mitemin.net/i314723/



(地図か…。これは便利だな。当然、全部が描かれているわけじゃないから鵜呑みにはできないけど、中はけっこう広いから簡単な把握には役立つな)



 これは大事なので、しっかりと革袋に入れる。



「ところで、小百合さんって処女?」


「あーもう、なんてこと言うんですかーー! 処女です!! あなたに捧げるために残しておきました!」



 処女だった。ならばよし!



「そうなんだ。そんなに寂しいなら…オレと結婚する?」


「本当ですか!? よ、喜んで!!」


「他にも結婚する人がいるけど…それでいいなら」


「まったく問題ありません!」



 問題なかった。



「では、今後ともよろしくお願いいたします。アンシュラオン様」


「うん、こちらこそよろしくね。それじゃまたね、小百合さん」



 またお姉さんと仲良くなった。


 今日はお姉さんデーである。素晴らしい。



(姉ちゃんも、マキさんや小百合さんくらい普通だったらなぁ…)



 あの姉と一緒に育つと、マキや小百合の言動が普通に見えるのだから、それはそれで恐ろしいことである。


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