43話 「ハローワークで懸賞金をもらおう」


 続いてやったきたのは、ハローワーク。


 今日も入り口ではミスター・ハローが挨拶に勤しんでいた。その目はアンシュラオンが健全な労働をしてきたことを見抜いて、いつもより労わりの気持ちが強かった気がする。


 そんな気がする。たぶん。




 中に入ると、同じ受付で同じお姉さんが待っていた。


 明らかに待っていた、という顔である。入ったときからロックオンされていたので間違いない。



「お帰りなさいませ、アンシュラオン様。初仕事、いかがでございましたか?」


「うん、うまくいったよ。倒してきた」


「おめでとうございます!!! 素材のほうは裏の素材置き場に…?」


「ああ、置いてきたよ。それと懸賞金ってさ、すぐにもらえるのかな?」


「はい。傭兵の皆様は移動が多いですからね。即払いとなっております」


「よかった~! すぐに必要だったんだよね。助かるよ。ただ、あの変態の証言だから、ちょっと不安なんだよ。あれが本当にウォンテッドなのか確認してもらえるかな?」


「かしこまりました! 少々お待ちください!」



 アンシュラオンは白いハンターカードを差し出す。


 カードのジュエルは記録型のもので、裏の素材置き場のおっさんに魔獣の生体磁気を記録してもらっていたのだ。


 そして照合。


 同時にお姉さんの目が丸くなる。



「え、ええええ!!! た、たおした……あ、あれを倒されたのですか!? あ、あの悪獣を…デアンカ・ギース〈草原悪獣の象蚯蚓ゾウミミズ〉を!!」



 倒置法を使ってまで驚いた。


 お姉さんが何度も確認するが結果は変わらない。



「四大悪獣ですよ! 何百年も昔からいる、あの超危険種ですよ!?」


「うん、倒したけど…信じてくれるの?」


「しっかりと生体磁気が記録されていますから!! 間違いありません!」


「それって、インチキとかできそうだよね。もちろんオレはやっていないけどさ、倒していないのに倒したとか言えそうじゃない?」


「たしかに万能ではありませんが、最低限の持ち主の状況も記録するので不正はあまりないですね。疑わしい場合はジュエルの色が黄色になります」


「ああ、オレのは青だ」


「はい。青が異常なし、黄色が審議、赤が記録失敗です」


「失敗もあるんだね」


「消耗品ですので致し方ありません。あまりにも損壊が激しくて判別できない場合も失敗することがあります。審議の場合は持ち帰った素材の検証や、同伴した方の証言を参考にしてこちらで調査を進めます。その場合、確認後に懸賞金が支払われます」


「それでインチキだとわかったら罰則があるの?」


「はい。一定期間のハンター資格停止か、最悪は永久追放があります。どちらにせよ魔獣の懸賞金は出なくなります」


「なるほど。勉強になったよ。ありがとう」



(ここでもジュエル技術が発達しているわけね。信頼も厚そうだ)



 やはりこの世界はジュエルという存在に依存している。


 地球も機械に依存していたので、停電になれば都市機能が一気に麻痺したものである。それと同じだと思えばよいだろうか。



「素材はあとで精算いたします。懸賞金のほうは、今すぐお支払いいたしますか?」


「うん、お願い」


「かしこまりました。お待ちください。えーと、デアンカ・ギースが一体、ハブスモーキーが十三体…」



(んー、全部剥ぎ取ったわけじゃないけど、素材込みでハブスモーキーだけでも六百万以上はいくと思うんだよな。デアンカ・ギースにも期待したいけど、こっちはオマケと考えればいいかな)



 アンシュラオンの中では、デアンカ・ギースはオマケで倒したようなものである。


 自分の闘争本能を満たすためであり、ほんのちょっぴりラブヘイアを鼓舞するためであったので、値段が付かなくてもあまり気にしないつもりだった。



 だから何一つ気負うことなく待っていたのだが―――お姉さんが何か大きなものを持ってきた。



 そして、ドスンと床に置く。



「ケース? 三つ?」



 それはアタッシュケース。ダビアのクルマに使われていたような素材で出来ており、非常に硬いのに軽いものである。


 ハローワークが全世界的組織なので、西側の技術も独自に導入していることがうかがえる。


 で、中身だが―――



「デアンカ・ギースの懸賞金、【三億円】になります」


「ぶっ!!」



 お姉さんが、ガパッとケースを開けると札束が並んでいた。


 ちなみにこの金だが、どうやら【大陸貨幣】というものがあるようで、これは全世界共通らしい。


 当然各国には独自に通貨もあり、それを管理している中央銀行も存在するが、この世界には何においても必ず世界共通のものが存在するという。


 それは【言語】からもうかがえる。


 今使っている言語は【大陸語】と呼ばれるもので、大陸王が世界を統一した際に言語も紙幣も統一したという。


 地域によって訛りは存在しても、言葉が何一つ通じないという現象はまず起こらない。



 と、現実逃避してみたが、やはり三億円は目の前に存在している。



「それから細かいほうですが、ハブスモーキーが一体百万円で、千三百万円です」



 お辞儀をしている「ミスター・ハロー」のイラストが描かれた大き目の紙袋には、残りの千三百万がドサッと入っていた。


 たしかに三億円からすれば、千三百万円は細かいほうである。


 その光景にアンシュラオンは呆然とする。



(おいおい、三億なんて初めて見るぞ! 宝くじでも当たれば別だけど、一般人じゃまず見られない額だよ!!)



 地球にいたときには札束を見ることさえ稀であったアンシュラオンには、まったく現実感がない額である。さすがに驚いて口が開きっぱなしだ。



「そ、そんなに…するの? あのゾウミミズが?」


「はい!! それはもう! 今までの損害額は、その数十倍以上ですよ。三億円なんて大型輸送船一隻くらいの値段ですし、破壊された船舶の数を考えれば安いくらいです」


「そんなに強くなかったよ?」


「それは白牙級狩人ホワイトハンターのアンシュラオン様だからです! 普通は倒せませんよ! まったくもって偉大で素晴らしいことなのです!! 可愛くて強いなんて無敵すぎます! 思わず結婚したくなりました! ぜひ嫁にもらってほしいです!」



 後半は私情が入っている発言である。


 お姉さんはたしかに驚いたが、アンシュラオンならやれる可能性があることも知っている。だからこそ、まだ反応が薄いのだ。


 これが何も知らない人間なら、驚いて硬直してしまうだろう。



 そう、後ろのほうでこちらを見ている多くの観衆のように。



 夕方なので、そろそろ街に繰り出そうという連中が、ちょうど集まっていたのだ。フロアには何十人という傭兵たちがいた。



「あの、お姉さん、もうちょっと声を小さく…」


「アンシュラオン様がデアンカ・ギースを倒してくださったおかげで、私たちも大助かりです!! アンシュラオン様が!! デアンカ・ギースを!! 倒してくださったおかげで!!!」



 意図的に周囲に聴こえるように言っている。自慢したいのだろう。


 アンシュラオンの目立たない作戦は、少なくともハローワーク内では完全に終焉である。



「そっか…三億円か……」


「はい! 当然の報酬ですよ!」


「じゃあ、これで輸送船とかも買えるんだね」


「多少時間はかかりそうですが、お望みならばご用意いたします」


「い、いや、まだ要らないや。邪魔だし置き場もないしね。そういえば、懸賞金には税金ってかからないの? ほら、半分くらい取られるってやつ」


「ハブスモーキーのほうはすでに引いた額となっておりますが、デアンカ・ギースの懸賞金は特別報酬枠なので対象外となっています」


「そ、そうなんだ」



(宝くじみたいな感じかな? 非課税ってことか)



 日本では、指名手配犯などの懸賞金には税金がかかったが、この世界のものは違うらしい。



「もらえるものなら遠慮なくもらうよ。それと、この街に銀行とかってあるの? こんな大金、持って歩くのはちょっとね」


「あるにはありますが、このグラス・ギースは領主の個人都市です。正式な信用ある国家ではないので、安全性という意味では正規の銀行には劣ります」


「そっか、国じゃないと危ないか…銀行も信用だからね」


「ですが、ハローワークではダマスカス共和国の銀行とも取引があるので、こちらで口座を作ってお預かりすることは可能です。一度口座をお作りになられれば、全世界のハローワークでご利用できます」


「ダマスカス?」


「はい。世界最大の経済国家です。ここから西南西に海を渡っていくと、大きな島国があります。それがダマスカス共和国です」



 この当時は、常任理事国という概念がまだなかった時代であるものの、世界の経済を動かしているダマスカス共和国は外交にも力を入れており、世界で最大の信用を勝ち取っている国といえる。


 アピュラトリス〈入国不可能な富の塔〉もすでに存在しているので、銀行としての機能も世界一である。



「ご入金なさいますか?」


「手数料はかかるの?」


「ダマスカス銀行の口座開設に十万円、入出金は一回につき五千円となります」


「海外口座だもんね。しょうがないか。じゃあ、一億円くらい預けておくね」


「かしこまりました」


「これで残りは二億か。…少し多いな。じゃあこれ、この余りをあの変態にあげておいてよ。入院費用もかかるだろうし」


「よろしいのですか? すでに報酬は支払ったと聞いておりますが…」


「うん、なかなか面白かったしね。からかったせいで、しばらくハンター業もできないと思うし、餞別代わりかな」



 千三百万は、ラブヘイアにあげる。


 髪の毛をあげただけでも十分だとは思うが、それなりに役立ってくれたし、これくらいはいいだろう。



「このケースの一つは持っていこう。モヒカンを驚かせたいしね。残りの一つは……」



 アンシュラオンが周囲を見回すと、周囲の人間の視線も一斉に集まってくる。


 これだけの大金を持っていたら、当然ながら注目の的だ。


 だから、こうする。



 アンシュラオンは、一億円の入ったケースを滑らせるように投げた。



 傭兵たちがたむろする場所に。



「お大尽だいじんだ。その一億円は、みんなで分けなよ。これから飲みに行くんだろう?」


「お、おい! 嘘だろ! からかっているのか!?」



 傭兵の男が、まじまじと金を見つめる。これも当然の反応だ。



「そんなことはしないって。オレの初仕事だからね。そうしたいと思っただけだよ。よく言うだろう? 初めてのボーナスは親のために使えとか。オレは親がいないからね。その代わりさ」


「だが、額がな…。俺らにもプライドってのがあるしよ」


「オレが子供だから? 大人だったら受けたの?」


「それは…ううむ」


「同じ傭兵なんだ。当たりを引いたらおごる。それだけでしょう?」


「ううむ…そうだが…」



 なかなか律儀な男のようで、しばらく考え込む。


 周囲の傭兵たちも、その男が答えるのを待っているので、おそらく彼が傭兵たちのまとめ役なのだろう。



(傭兵団なのかな? みんな同じ鎧を着ているし)



 黒い革鎧に、なぜか魚のようなマークが付けられた不思議なデザインをしている。


 かなり使い込まれているので、彼らがベテランの傭兵団だということだけはわかる。全員、なかなかの面構えだ。



「じゃあ、条件を付けようか。オールナイトでいいから今晩中に使いきってよ、それ。それが条件」


「一億をか!?」


「豪遊したっていいし、好きなだけ何かを買ってもいい。ただし、明け方までに全部使うこと。それならどう? 面白いでしょう?」


「使いきれなかったら?」


「特に考えてないな。余ったら誰かにあげればいいよ。毎日多くの人が出入りしているんだし、お金を欲しがらない人はいないでしょう?」


「お前にメリットはあるのか?」


「街が盛り上がる。今日は記念日だからね。オレにとってはすごく大事な日なんだ。もしかしたら生涯で一番大切な日かもしれない」





「そう、オレが【男になる日】なんだから」





「っ―――!!」



 ざわざわと傭兵たちがどよめく。



 男になる日。



 嘘ではないが、いろいろと語弊がありそうな言葉に傭兵はぐっときた。



「オレはこれから女の子を迎えに行くんだ。いつかオレの子を産んでくれる大切な、ね。そんな記念の日だからさ、誰かに何かをしてあげたくなったんだ。わかってくれる?」


「おおおおおおおおお! わかったぜ、兄弟! そういうことなら、がんばりな!! 俺たちもやるぜ! やってやる!!」


「ああ、そうするよ。初めてで緊張するけどね」


「そりゃそうだ。誰だって最初は同じだ。優しくしてやりな」


「もちろんだよ!!」



 アンシュラオンと男の間で、何か友情のようなものが芽生えた。



「お前ら、今日からあいつは俺のダチだ!! 俺たちの弟分だ!!! 何か困っていたら手を貸してやれよ!!」


「「「「 オオッス!! 」」」」



(金は使いよう、か。これで目立つことも…いや、目立ったけど敵意を注がれることはないだろう。金ってのはこういうときに使うもんだ。お祝いのときにパーっとな)


 すでに一億貯金しているせいか、彼らにあげた一億が軽いものに思えてくる。


 彼らが楽しんでくれるのならばよいだろう。それが自分へのお祝いにも感じられて、どことなくアンシュラオンも楽しかった。


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