42話 「門番のお姉さんと、さよならラブヘイア」


「お姉さん、ただいま!!」



 アンシュラオンは門番のお姉さんに抱きつく。もはや恒例の挨拶である。



「お帰りなさい。早かったのね」


「うん、がんばったよ!」


「心配していたのよ。怪我はない?」


「ほら、大丈夫だよ」


「あら、額に傷があるわ。大変! ほら、見せて」


「平気だって」


「そんなこと言わないの。ほら、ね?」


「うん。じゃあ、お願いします」


「よろしい。見てあげよう。ふふふ、いい子、いい子」



 再び頭を撫でてもらいながら手厚い看護を受ける。


 その気になればすぐに修復もできるのだが、甘えるためにわざと傷を残しておいたのだ。


 作戦、見事に成功である。



「ところで、あいつは大丈夫だった?」


「あいつ? ラブヘイアのこと?」


「そう、彼よ。何か変なことされなかった?」


「うーん、大丈夫かな。それよりあの人、すごい強いんだね。びっくりしたよ」


「そうなの?」


「うん、おかげで大量なんだ」



 アンシュラオンが後ろにある六台の荷車を指差す。



「あれ全部なの!? すごいわね!!」


「うん、そうだよ。ラブヘイアががんばったおかげだよ」


「へー、あの男も少しは役に立つのね」


「ほら、あそこにいるから褒めてあげてよ」


「そうね。君を守ってくれたお礼を…」



 アンシュラオンが指差した場所には、髪の毛をもらって夢中でスーハーしているラブヘイアの姿があった。


 顔を紅潮させ、とても幸せそうだ。



「ふーん…」



 お姉さんの顔が再びアンシュラオンに向く。口は笑っているが、目が笑っていない。


 それから髪の毛を注視。



「…思ったんだけど、君の髪の毛…少し短くなったかしら?」


「うん。あの人にあげたから」


「あげたの?」


「あげないと働かないって言うから…しょうがなくだけど。あーあ、この髪型気に入っていたのに、ちょっと変になっちゃったかな?」



 わざとらしく短くなった場所を触る。


 その言葉を聞いて、お姉さんが立ち上がった。


 アンシュラオンには、処刑用BGMが流れた気がした。



「ちょっと待っててね。【お礼】をしてくるから」


「お手柔らかにね」


「そこのあなた、ちょっと来なさい!!!」


「えっ!? な、何を―――ひぐっ!」



 再び裏に連れて行かれる。



「このクソ野郎が!! 今度という今度は、もう許さないからね!!」


「私は何も…ごばっ―――!」



 ドッゴーーーーンッ!


 お姉さんの拳を受けて、ラブヘイアが城壁に叩きつけられる。その衝撃で門全体が揺れた気がした。



「がっ…はっ……、これはいったい……何事…?」


「その髪の毛が何よりの証拠! あの子から切り取ったわね! ここまで堕ちればもはや鬼畜! 成敗!」


「ご、誤解です! これは謝礼としてもらった正当な…ぶほぉおおっ!? いや! やめて! いやぁああ!」



 ドン、バキ、ドコ、ガス、グッチャッ!



「くたばれ、変態!!!」


「ひっ、ひっーーーー! た、助けてくださ―――ぶばっ! げほっ!」



 ドン、バキ、ドコ、ガス、グッチャッ!

 ドン、バキ、ドコ、ガス、グッチャッ!

 ドン、バキ、ドコ、ガス、グッチャッ!

 ドン、バキ、ドコ、ガス、グッチャッ!

 ドン、バキ、ドコ、ガス、グッチャッ!


 グッチャッ! グッチャッ! グッチャッ!


 グッチャッ! グッチャッ! グッチャッ!


 グッチャッ! グッチャッ! グッチャッ!



 最後のほうはもう濡れた打撃音しか聴こえなくなっていった。



(馬鹿なやつ。髪の毛をあげたからって、ここで吸わなくてもいいのに。やっぱり変態なんだな。まあ、今後は二度と会わない予定だからいいけどさ)



 そう思っていても会ってしまうから世の中は皮肉なのだが。



(それより門番のお姉さん、相当強くないか? ラブヘイアがまったく抵抗できないぞ。…ちょっと見ちゃうか?)



―――――――――――――――――――――――

名前 :マキ・キシィルナ


レベル:40/50

HP :1280/1280

BP :450/450


統率:D   体力: C

知力:D   精神: D

魔力:D   攻撃: B

魅力:D   防御: C

工作:F   命中: D

隠密:F   回避: E


【覚醒値】

戦士:3/4 剣士:0/0 術士:0/0


☆総合:第七階級 達験たつげん級 戦士


異名:グラス・ギースの鉄壁女門番

種族:人間

属性:火

異能:鉄鋼拳、鉄壁門、我慢、低級戦闘指揮、物理耐性、銃耐性、即死耐性、母性本能

―――――――――――――――――――――――



(あっ、ラブヘイアより数段強かった。やっぱり一緒に行くなら、お姉さんのほうがよかったなぁ)



 明らかにラブヘイアより強い。総合評価も、彼の中鳴級より二つ上の達験級である。


 上堵級が一人前の中でも優れた技術を持つ武人を指し、その上の達験級は奥義を身につけた達人クラスの腕前であることを示す。



(鉄鋼拳、鉄壁門はユニークスキルっぽいな。そんな技は聞いたこともないし。どう考えてもラブヘイアより優秀だ。あいつはあくまでハンターとしては一番強いだけであって、領主軍は抜いてなんだな。話を盛りやがって。少しは安心したからいいけどさ)



「ふー、終わった、終わった。これですっきりしたわ」


「ラブヘイア、生きてる?」


「救護班に渡したから大丈夫よ。腕の数本が折れて、ちょっと内臓もやっちゃったから入院だろうけど」



 腕は二本しかないはず。ならば二本ともイッたのだろう。


 うん、大丈夫ではない。入院だし。


 だが、変態なので仕方ない。入院すべきだと思う。主に精神科に。



「そろそろお姉さんの名前が知りたいな! 結婚するためには名前を知る必要があるんだよ! ねえ、教えてよ!」



 ↑ すでに知っている男。



「んふふ、どうしようかなぁ~」


「当ててみせようか! じゃあ、当たったら結婚してくれる?」


「あら、いいわよ! がんばって当ててみて!」


「えっとね…、『あ』からいけばいいかな。あ…あ……アイ。い、い……イエリタ……う、ウメコ…え…」


「大ヒント! 『マ』が付くかも」



 ヒントがやたら具体的。



「ま…マイ……マオ……マキ…」


「そう、マキ! 私の名前はマキよ!」


「マキさん! 素敵な名前だね!!!」



 そこでマキの顔がぱっと輝く。


 だらしなく顔が緩んで、アンシュラオンを抱きしめる。



「当たり!! やーん、当たっちゃったぁ~。お姉さん、君と結婚しないといけないのねぇ~。やだ、どうしましょう。毎日、エッチなことされちゃうのかなぁ~。お姉さん、困っちゃうわ」


「えへへ、結婚だよ、マキお姉ちゃん! 約束ね! 絶対に誰にも身体を触らせちゃ駄目だよ。もうオレのものだからね!」


「うん、わかったわ」


「絶対だよ! ぎゅっ!」


「はぁあ! 可愛い! ぎゅっ~~~」



 お姉さんとラブラブしてみた。


 特に意味はない。姉成分を補充したかっただけである。


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