33話 「ラブヘイアの実力テスト」


 アンシュラオンたちは移動を開始。



(狩場までは、およそ五百キロ。今が13時過ぎくらいだから、夕方前には着きたいものだな)



「ラブヘイア、時速何キロくらいで走れる?」


「そうですね…百キロくらいなら」


「ほぉ、なかなか速いな」


「速度には少し自信がありますから」


「では、しっかりとついてこい」



 そうしてアンシュラオンは加速。時速百キロで移動する。


 多少地図が詳細になったとはいえ、実際の道はデコボコで起伏もあるので、時速百キロだからといって一時間で百キロメートル進むわけではないが、計算上では五時間で到着ということになる。



(…案外ちゃんとついてきているな。こいつがハンターで一番強いと聞いたときはショックだったが、それなりに実力はあるじゃないか)



 時速百キロは武人にとってさして速いわけではない。


 速い武人となれば百メートルを一秒くらいで普通に走るし、銃弾を軽くよけるだけの脚力があるのだから瞬発力だけならばさらに速い。


 が、ここで重要なのは【持久力】。いかに走り続ける体力があるのかが重要だ。



 それから二時間、時速百キロで走り続ける。



「ラブヘイア、問題ないか?」


「はい。まだ余裕はあります」



 軽く身体が熱くなってきた、という感じだろうか。少し火照っているが、まだまだ問題ない様子である。



「思ったより体力があるな」


「アンシュラオン殿もさすがです。まったく疲れた様子がありません」


「当たり前だ。この速度では軽いジョギングにすらならないからな。しかもほぼ平坦だ。山や森のように走りにくいわけでもない」



 火怨山は深い渓谷だらけなので、そんな最悪な足場を魔獣と戦いながらも駆け抜けねばならない。


 それと比べればこの程度の場所は、綺麗に舗装された道路を走るようなもの。苦にはならない。



「ちなみに最高速度はどれくらいでしょう?」


「さあ? 計ったことなどないからな。この三倍くらいは普通に出るが…わざわざ爆走する理由もないだろう」


「…そうですか。訊いたのはよかったのかよくなかったのか…自信をなくします」


「お前が師匠のところに行ったら、その日に死ぬな。それは保証してやる」



 いきなり第三級の討滅級魔獣がうじゃうじゃいる森に放り込まれる。


 そこは第二級の殲滅級魔獣も出る場所なので、ラブヘイアなら即日殺されて終わりだろう。


 人にはそれぞれの才能に応じて適した場所があるという証拠である。



「これ以上の速度は出せるか?」


「もう少し上げられますが、さすがに体力的には厳しいです。着いた頃には倒れそうです。普通は何日かかけて警戒しながら行く場所ですし…」


「お前はいるだけでもいいんだが、自衛できるくらいの体力は残したいな。あまり関わりたくないし」


「あの、できれば心の声で言ってください。心にグサグサ突き刺さります」


「変態なのに繊細なんだな。どっちかにしろ」


「変態と繊細は別問題だと思うのですが…」



(このままだと日が暮れそうだな…。ラブヘイアを荷台に乗せて少しスピードを上げるか? 二百キロくらい出せばすぐに……と、あれは?)



 アンシュラオンの前方に魔獣が見えた。


 ワイルダーインパスの群れが砂埃を巻き上げながら走っている。



(たまに見かける角が大きいバッファローだな。あれってどれくらいの強さだ?)



―――――――――――――――――――――――

名前  :ワイルダーインパス 〈暴土牛ぼうどぎゅう


レベル:10/20

HP :180/180

BP :30/30


統率:F   体力: D

知力:F   精神: E

魔力:F   攻撃: E

魅力:F   防御: E

工作:F   命中: E

隠密:F   回避: F


☆総合: 第六級 駆除級魔獣


異名:牛突猛進の土牛

種族:魔獣

属性:土

異能:集団突撃

―――――――――――――――――――――――



(ふむ、はっきり言って雑魚だな。だが、数は多い。三十はいるかな? たしか数が増えれば階級も上がったはずだ。それに雑魚とはいえ一般人にとっては脅威となる魔獣。…ちょっと試してみるか)



「ラブヘイア、あいつらを始末してみせろ」


「やはり近場で狩られますか? あれだけの群れはなかなか見かけません」


「お前の腕を見たいだけだ。実際にどれくらいやれるかわからなければ、今後どう扱っていいかわからないからな。お前の命にかかわることだ。雑魚相手でも真剣に戦え」


「なるほど。…わかりました。やりましょう」


「一人でやれるか?」


「もちろんです。アンシュラオン殿に私の腕をお見せいたします」



 ラブヘイアは頷き、躊躇なく剣を抜いた。


 こうして素直に言うことを聞くのは、アンシュラオンが雇い主であるということもそうだがホワイトハンターであることも大きい。


 二つも上となればもう別格である。ハンター業がそれなりに長いラブヘイアにとっては、それだけで尊敬の対象なのである。


 ついでに髪の毛も尊敬対象であるが。



(さて、どれくらいのものかな。おっ、いきなり技を使うつもりか。相手はまだ気がついていない。悪くない判断だ)



 ラブヘイアは気配を殺して群れの後方に移動し、ロングソードに剣気をまとわせる。


 剣気は【風気ふうき】に変質し―――斬るように放出。


 三つに分かれた剣気が群れの後方から迫り、そのままの勢いで六匹のワイルダーインパスを切り裂いた。



風衝ふうしょう・三閃か。三つ出せるとはやるな。あいつの能力値からすれば過剰だから、おそらく『広域剣術強化』スキルの効果だろう)



 剣にまとわせた剣気を、刃の勢いとともに繰り出す遠距離攻撃を【剣衝けんしょう】と呼ぶ。


 剣圧の威力をそのまま繰り出せるので非常に使い勝手がよく、剣士が間合いを測る際にもよく使う技の一つだ。


 その剣気を風気に変えたものを風衝ふうしょうと呼ぶ。雷に変えれば雷衝であり、水に変えれば水衝である。



(風系か。そういえば、こいつの属性は風だったな)



 風の属性は総じて速い。通常の1.5倍の速度を生み出せる。


 速度が上がれば命中率も上がるので、牽制したり間合いを広げたりと使い道は多いだろう。


 その反面、通常よりも威力が三割程度軽減するというデメリットもあるので、どちらかというと手数が重視される属性である。



(今ので相手が気が付いたな。さあ、向かってくるぞ。あいつらのスキルはたしか…)



 集団突撃。


 敵と認識した相手に対して数の力で押し寄せてくる。その迫力はかなりのものである。


 闘牛士でさえ一匹の暴れ牛に殺されることがあるのだ。それが何十匹も襲ってくれば、どれだけの威圧感があるのか想像に難くないだろう。


 だが、ラブヘイアは動じない。即座に移動を開始し、相手の死角へと回り続ける。


 相手が一匹ならばすぐに進路を変更できるが、集団だとどうしても動きが鈍くなる。その習性を利用して巻き込むように移動。


 それから風衝を連続して叩き込む。今度は三つに分けずに一発一発確実に当てて数を減らしていく。



(いい判断だ。あんな相手に無理に突っかかる必要はない。乱戦になれば不意打ちをくらう可能性もあるからな。フットワークも軽いし、剣の威力もなかなか悪くない。あいつ、知力がFのわりに頭を使うな。やっぱり知力が低いのは変態だからなんだろう。戦闘においてはちゃんと考えているぞ)



 変態は害悪しかもたらさないことが立証された。



 ラブヘイアは無理に突っ込まない。常に安全な場所と距離を保ちつつ、相手だけにダメージを与える戦術を採用していた。


 その動きは熟練したハンターのもの。


 生活のために常に魔獣と戦い続け、効率的な戦い方を自然と身につけていった者の実力である。


 彼らはけっして無理をしない。無理をして怪我をすれば、それだけマイナスになってしまうからだ。まさにハンターである。




 そうして確実に数を減らし、十数分でワイルダーインパスは全滅。



「ふぅ…終わりました」



 多少呼吸が荒いが、まだまだ余力は残っているようだ。


 相手が弱いことに加えてラブヘイアが強いのだ。ブルーハンターの名は伊達ではない。


 時間は多少ロスしたが貴重な実力テストになった。



「思ったより使えそうで安心したぞ。剣技は他に何が使える?」


風威斬ふういざんは使えます」



 風威斬は、風気を飛ばさずに剣にまとわせて、斬撃と一緒に切り刻む技だ。


 風衝の威力をすべて剣にとどめるので一撃の威力は数段上がる。剣速も上昇し、当たれば風による追加ダメージも発生する。


 風衝と風威斬はセットで覚えるものなので、まさに基本通りである。



「基本に忠実なようで何よりだ。技は誰かに習ったのか?」


「南のほうの道場で型を習いました。あとは自己流です」


「そうか。ちょっとオレに風威斬を放ってみろ」


「は? 剣で…ですか?」


「当然だ。そもそも剣がないと使えない技だろうが。さっさとこい」



 アンシュラオンが手招きをしている。



「その…危ないのでは?」


「馬鹿が。お前程度の剣で傷つくと思うか? さっさとやれ」


「は、はい!! では…!」



 ラブヘイアの剣に風気が満ち、刀身の周囲に風が吹き荒れる。


 これに触れただけで一般人ならば簡単に指が吹っ飛ぶだろう。寸止めでも腕ごと持っていかれるに違いない。



「はああああああ!」



 ラブヘイアは剣を振り下ろし―――止める。


 アンシュラオンの頭から三十センチの場所で動きを止めた。


 彼が止めたのではない。寸止めではない。


 アンシュラオンの指が止めたのだ。人差し指と中指で、真剣白刃取りのようにぴったりと止めている。


 流れる風の奔流がアンシュラオンの白い髪の毛を揺らすも、それは単なる扇風機にすら及ばない。



(動かない…!)



 たかが指で挟まれているだけなのに、溶接でもされてしまったかのように剣はぴくりとも動かない。


 試しに全力で引っ張ってみたが結果は何一つ変わらなかった。ただ疲れただけだ。


 アンシュラオンは指を離して剣を解放。剣が一気に軽くなった。



「はぁはぁ…!」


「まあ、こんなものか。討滅級魔獣だったら皮膚に傷をつけるくらいはできそうだな。一応合格だが、間違っても魔獣の正面になんて立つなよ。お前程度なら一瞬で殺されるぞ。囮くらいには使ってやるから、それで満足しておけ」


「………」


「どうした? また髪の毛に欲情していたら殴るぞ」


「改めて素晴らしいと思いまし―――ぐべっ!」



 顎を指で弾いた。


 ラブヘイアの頭が面白いように後方に吹っ飛び、それに一瞬遅れて身体も吹っ飛ぶ。


 数十メートル吹っ飛んで岩に当たって止まった。それから血塗れになりながらも、よろよろと戻ってくる。


 ゴキブリ並みにしぶとい。



「ち、違います…! 単純に強さに対して…です」


「本当か? まったく思わなかったか? 風に揺れる髪の毛が素晴らしいとかは?」


「……まさかそんな」



 ちょっと間があった。



「本当にか? 嘘をついていたら髪の毛の話は無しだぞ」


「思いました!! すごく思いまし―――たばっ!?」



 再び制裁。



「近寄るな!! お前は半径五メートル以内に近寄るな!」


「そ、そんな! 三メートル以内ならば、その美しい匂いがわかるのに!」


「やっぱり十メートル以内には近寄るな!!」



 変態は変態だが、少しは使える変態なので安心はした。


 そして、ワイルダーインパスは回収せずに放置。


 ラブヘイアは名残惜しそうだったが、あんな小物を運ぶだけでも手間である。加えて、あれで満足しないようにとの戒めだ。



(オレの目標はあくまで大物。雑魚に興味はない)



 いざ魔獣の狩場へ!


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