32話 「変態と魔獣の狩場へ出立」


 アンシュラオンはラブヘイアと外に出る。



「このへんにはどんな魔獣がいるんだ?」


「第六級の駆除級魔獣では、ヘビーポンプとワイルダーインパスが多く、第五級の抹殺級魔獣ではエジルジャガー、グランタートルでしょうか」



 ヘビーポンプは、身体に巻き付いたポンプのようなものから火炎を放射する蛇型魔獣。


 毒の代わりに火を吹くと思えばわかりやすいだろう。油や燃料などを好むので露店や工場地帯を襲ったりする。


 ワイルダーインパスは荒野に出現するバッファローに似ているが、角が大きく攻撃的で人間をよく襲う。百頭以上の群れになると抹殺級魔獣にランクアップする。


 エジルジャガーは、ワイルダーインパスを食料にする肉食獣だが、これまた人間を襲う。知能が高いので、行商人の馬車などを襲い食料を奪っていくこともある。


 グランタートルは亀型の魔獣だが、やたらでかい。進路をまっすぐに進むので、外壁や家などがあっても破壊して止まらない。


 グラビガーロン〈たゆたいし超重力の虚龍〉の遠い親戚だと思えばいいだろうか。戦闘力はペットの亀とゴジラくらい違うが。



「それで、一匹あたりの値段は? 魔獣討伐はどういう仕組みなんだ?」


「魔獣討伐申請の場合、種類と駆除数に応じて街から一定額の報奨金が支払われます」


「素材は別扱いなのか?」


「はい。その報奨金とは別に素材はハンターのものです。報奨金と素材を売った値段が報酬となるわけです」


「なるほどな。素材だけだと倒し方によっては金にならないこともある。それに弱いやつだと素材を傷つけるのを気にして負けてしまうかもしれない。そういったものに対する保険か。それで、各魔獣の値段のほうは?」


「一般的に素材込みで、エジルジャガーで十万、グランタートルなら二十万くらいです。素材が悪いとその七割弱になりますね」


「ふむ、たかが抹殺級でもそこそこにはなるか」


「ですが、抹殺級自体がこの近辺ではそこまで見かける魔獣ではありません。その下となる駆除級魔獣のワイルダーインパスは安いですし、ヘビーポンプはそれ自体が産業廃棄物になるので、あまり値は…」


「どれもクズ値ってことか。一日でどれくらい狩ったことがある?」


「最高でワイルダーインパスが二十、それを追っていたエジルジャガーが六くらいでしょうか」


「全然足りないな」


「そうですか…。暮らすには十分なのですが…」



 仮にこれが八十万になり、半額税金になっても四十万の収益だ。個人が一日で稼ぐ金とすればかなりの額だろう。


 毎日こんなおいしい獲物と遭遇するわけではないが、二ヶ月に一度大きな当たりがあれば、毎日ぐーたらしても十分やっていける。


 が、アンシュラオンが求めるのは、そんな小物ではない。



「今日と明日の昼までに最低六百万以上稼ぐぞ。それは理解しておけ」


「ろ、六百! そんな大金をどうするのですか?」


「大金? ふん、あの子の値段だとすれば大金とも思えないな。安い。安すぎる。お前は自分が愛する女神がその値段で売りに出されていたら、どう思う?」


「安いですね!! 借金してでも買います!」


「だろう? 安いんだよ。人の命なんてもんはな。だが、オレがそれを高めてやる。だから六百万だ。それでもはした金だがな」



 あの少女にどれだけの価値があるかと問われると、アンシュラオンも答えられない。


 だが決めたのだ。買うと決めた。自分のものにすると決めた。


 ならば、それがすべてだ。



「第四級の根絶級魔獣は、いくらだ?」


「一匹あたり、百万以上はしますね」


「お前は青毛級狩人ブルーハンターだったな。狩ったことがあるのだろう? いくらだった」


「私のときは百二十万くらいでした」


「第三級の討滅級魔獣は?」


「そこまでくると…最低でも一千万は超えるのでは? 私は見たこともありませんが…」


「ところで、それくらいの額を軽く払ってもらえるのか? あの都市はそんなに金があるのか? たしかに多少栄えてはいるようだが、少し疑問に思ってな」


「それは問題ありません。半分以上はハローワークが出しているはずです」



 金がない都市への救済措置として、ハローワークが積極的に援助を行っている。


 それゆえにハローワークでは、都市の行政代行という役割が与えられているのである。ハローワーク側としても大きなメリットとなる。



「それならば安心だ。ふむ、一千万か。ならば第一目標は討滅級魔獣。続いて根絶級魔獣とする。雑魚は相手にするな。時間の無駄だ」


「で、ですが、高いということはそれだけ強いということです」


「何をびびっている。お前だって第四級の根絶級魔獣を倒したはずだ。ブルーハンターには根絶級を倒さないとなれないのだろう?」


「倒しましたが、それでも相当苦戦をしました。あの時、どれほどの苦痛を味わったか…。おかげでまた髪の毛パワーを補充しなければならなくなり…」


「お前の変態的な性癖のことなど誰も聞いていない。オレの髪の毛が欲しいのだろう? 最初に言っておくが、戦闘面でオレはお前を必要としていない。それは理解したな?」


「はい。身にしみております」


「お前が動物程度の恐怖心を持っていてよかったよ。殴っても理解しない本当の馬鹿ってのがいるもんだしな」



 アンシュラオンの拳を受けて実力差を理解したのだ。


 相当手加減したうえにリングもはめていたが、それをくらっても死ななかったことは評価できるし、こうして実力差を知るだけでもたいしたものだ。


 だが、まったくもって論外。アンシュラオンに比べれば赤子以下だろう。期待するわけがない。



「ここで待っていてもいいぞ。その場合は髪の毛はやらんが」


「いえ!! この命に代えてもお供いたします!! ぜひ、ぜひ、お連れください!」


「…待っていてくれても…いいのだぞ。本当に」


「ご心配には及びません! この剣にかけて誓います!!」


「…そう…か。残念だ」



 心の底から置いていきたいのだが、この男に活躍させないと後でまた面倒になりそうだ。


 なので、本当に嫌々だが連れていくことにする。



「根絶級魔獣以上はどこにいる? やはり北の大森林か?」


「そうですが、距離がありますので近場のほうがよろしいでしょう。アンシュラオン殿の願いは、明日の夕方までに戻ること。ならばあと二十七時間と少々ですから、往復時間を考えてその範囲内ということになります」


「あてがありそうだな」


「ここから西に五百キロほど行くと【魔獣の狩場】という場所があります。そこに最近、大物が出るという話があるのです」


「西…。地図ではかすかに森のようなものがあるが…」


「森もありますが大部分は草原ですね。そこに草食系の魔獣が出るのですが、それを目当てに肉食魔獣が集まります。そして、それを目当てに…」


「より上位の魔獣が出るか?」


「その通りです。あそこは手付かずの魔獣の楽園と言ってもよいでしょう。調査団によって第三級の討滅級魔獣の存在も確認されております」


「食物連鎖の過程で大物が出るようになった、ということか。ならば、なぜ積極的に狩りに行かない? 他のハンターも知っているのだろう?」


「地図の通り、あそこは警戒区域にかかっています。この警戒区域というのはあくまで目安でして、赤いラインを超えて強い魔獣が出ることもあるので、普通はかなり距離を取った場所で狩りをします。討滅級魔獣もあくまで確認されているというだけで、倒しに行く者などそうはいませんし…」


「ハローワークのハンターで一番強いのは誰だ? そいつなら討滅級くらい倒せるだろう?」


「………私です」



 一瞬、間を置いてからラブヘイアが申し訳なさそうに答えた。


 その答えにアンシュラオンの目が点になる。



「…は? 冗談はよせ。お前はブルーだろう。ブラックくらいいるはずだ」



 第三階級の黒爪級狩人ブラックハンターは、同じく魔獣第三級の討滅級魔獣を狩れる者に与えられる称号だ。


 つまり、このブラックハンターがいないということは、討滅級魔獣クラスの敵が出たら対応できないことを意味する。



「それがその…事実なのです。この周辺で駆除をしているのは、それを目当てに大きな魔獣が近寄らないようにですから」


「治安の維持というより、さらに大きな災厄を招かないためか?」


「そうなります。街の周辺に根絶級魔獣が出ただけでも大騒ぎですから」


「なんてこった…あまりに弱すぎる。この都市の防衛力は大丈夫なんだろうな? 心配になってきたそ…」


「アンシュラオン殿が来たので街もハローワークも助かっていると思います。第二階級のホワイトハンターですからね。偉大なことです」


「たかだかホワイト一人が珍しいか。受付のお姉さんが騒ぐわけだ。まあ、それはいい。それで、その魔獣の狩場に行けば大物がいるんだな?」


「この周辺よりは確実に割が良いと思われます」


「よし、そこに行くぞ」


「あの、やはり近場で済ますということも…」


「どっちなんだ、お前は。当たりが大きいほうを選ぶに決まっているだろう。さあ、行くぞ」



 アンシュラオンが大きな荷台を持ち上げる。


 馬のついていない荷車といえばわかりやすいだろうか。ただし、その大きさはやたら大きく、幅十メートル、長さ三十メートルはある。



「ところで、これは…?」


「倒した魔獣を載せる荷台だ。素材を持ち帰るのだろう?」


「は、はい。そうですが…大きすぎませんか?」


「討滅級魔獣はどれも大きいぞ。小さいものでも八メートル以上はざらだからな。剥ぎ取るからそのまま載せるわけじゃないだろうが、それでも何十匹にもなればひと山にはなるだろう。本当はもっと大きいのがいいんだが、倉庫のおっさんがこれが一番大きいというからな…我慢している。最悪は荷台にくっつけて引きずってくればいいし、足りなかったらその場の材料で作ってもいいだろう」



(本気で狩るおつもりだ…)



 ラブヘイアはアンシュラオンが本気であることを知った。


 しかも一匹ではない。確実に数十匹を想定している。



「よし、行くぞ」


「は、はい。生きて帰れるようにがんばります…」


「お前なんか死んでもいいけど一応は守ってやる。気が向いたらな。だから安心しろ」


「いえあの…あまり安心できないのですが…気が向かなかったら死ぬのでしょうか…?」



 そんなラブヘイアの不安をよそに、アンシュラオンは魔獣狩りに出発である。


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