27話 「サナ・パム 後編」


(あの子にしよう)



 アンシュラオンは即決。


 一目惚れは買わないと永遠に後悔することを知っているからだ。


 売り切れて後悔したことは一度や二度ではない。そして買ったときは必ず満たされると知っているから。



(どんな地雷でもクソゲーでも、自分で買うと最後までプレイしたりする。買った自分を否定したくないから良いところを見つけようとする。これが貰い物だとまったく逆になるけど…あの子の場合は大丈夫だろう。一目惚れなら外見は気に入ったということだし、惹かれる何かがあるということ。内面は最悪、後から調教すればいいしね)



「あの子にする」


「え? アレ…っすか?」


「アレだと? その反応、自分から何かあるって言っているようなもんだぞ」


「ああ、そうっすね…でも、お客さんに嘘はつけないっす」


「その心がけは立派だな」


「これでも本職っすからね」


「問題とは、処女ではないとかか?」


「それは大丈夫っす。確認済みっす。男はわからないっすけど、女は全部確認しているっす。…こだわるっすね」


「当然だ。重要な問題だ。他人の手垢がついたものには触りたくないからな。で、それより問題なことがあるのか?」


「その……【声】が、出ないんすよ」


「声が? 病気か?」


「わからないっす。医者は問題ないって言うんで、精神的なもんかと。あの娘は南で拾われてきた子なんで、その時に何かあったかもっす」


「南…か」



 頭に浮かぶのは、ダビアの話。


 入植者たちと原住民が争い、多くの原住民たちが敗北してスレイブにされているというものだ。


 あるいは単に両親が死んで身寄りがなかったのかもしれない。どちらにせよ楽しい話ではない。



「声が出ないと駄目なのか?」


「目的によるっすが、値は下がるっすね。養子とかの場合は、っすが」


「買い手が付かなければ、どうなる?」


「成長するのを待って、ラブスレイブのほうに…」


「いくらだ?」


「え?」


「買取で、いくらだ」


「えーと、この子は…三百万っすね」



(これも高いのか安いのかわからないな。声が出ないので安くはなっているんだろうけど…。しかしまあ、あの臭い林檎一個と同じくらいの値段だと思えば安いか)



「会っていいか?」


「もちろんっす」



 男が機器を操作し、扉の術式が解除される。


 視認防止以外にも立ち入り禁止の術式があるらしい。逃げ出さないためと、客が勝手に触らないようにだろう。


 まるでペットショップ。


 来店した客に、お試しで手渡される動物。


 そして動物は、自分が売り物であることを知らない。





「やあ、初めまして。オレはアンシュラオン」



 驚かせないようにゆっくりと身体を現しつつ、精一杯の笑顔と優しい言葉で話しかける。


 このスマイルならば、この街にいるお姉さんだったら、いちころだろう。



「………」



 だが少女の表情は変わらない。


 声がしたので一瞬だけ顔を向けたが、またうつむいてしまった。


 そこに活力というものはなく、ただただ無気力しか見られない。



「君に危害を加えるつもりはないんだ。ただ、お友達になろうと思ってさ。お兄ちゃんに名前を教えてもらえるかな?」


「………」


「駄目かな?」


「………」



 笑顔が通じない。


 そもそもアンシュラオンのスキルは年上女性には圧倒的だが、年下に効果はない。


 その後、何度かアプローチしたが、すべて無意味に終わった。異世界に来てから、このような反応をした存在は初めてである。


 アンシュラオンは目立つので、誰もが目をつける。人間なら惹かれ、魔獣なら警戒する。どこにいても目立つ男なのである。


 それをアウトオブ眼中(死語)


 その新鮮な反応にさらに惹かれる。



(それにしても手ごわいね。オレみたいな美少年が話しかけたら、少しは反応しそうなもんだけど…。だが、それもいい。簡単になびかないのは猫みたいで大好きだ。それがデレたときは最高だしね)



 犬も飼っていたが、次に飼った猫から完全猫派になってしまったアンシュラオンにとっては、猫のツンデレは大好物である。


 どんな猫だって最初は警戒をする。でも、慣れてくれば甘えて無防備な姿を見せてくれる。それがまたよいのだ。



(とはいえ、このままでは埒が明かない。初対面の女の子に、いきなり使うのは嫌だが…仕方ないな)



 アンシュラオンは、情報公開を使用。



―――――――――――――――――――――――

名前 :サナ・パム


レベル:1/20

HP :30/30

BP :0/0


統率:F   体力: F

知力:F   精神: F

魔力:F   攻撃: F

魅力:B   防御: F

工作:F   命中: F

隠密:F   回避: F


【覚醒値】

戦士:0/0 剣士:0/0 術士:0/0


☆総合:評価外


異名:意思無き少女

種族:人間

属性:

異能:

―――――――――――――――――――――――



(サナ・パム。魅力がB以外は、完全なる一般人だな)



 さすが美しい容姿をしているので、魅力はBだ。


 まだ子供と呼べる年齢だからこの程度だが、どこか人を惹きつける魅力がある。


 魅力B以上は、身内以外では初めて見た。アンシュラオンがAなので、それに匹敵する魅力である。


 ただ、それ以外はすべてF。最低値だ。



(相変わらず大雑把だよな。子供だろうが大人だろうが、同じF判定だもんな)



 筋力のある男性も、成長していない子供も、同じくF。


 実際は、そこにはかなりの差があるはずだ。されど、Fである。


 一つの数字の範囲が広すぎて、非常に大雑把で困る。


 おそらくこの数値は武人を基準に作られたものなのだろう。だから一般人レベルの差異など感知できないのだ。


 人間にとっては、バッタもカマキリも変わらないのと一緒だ。踏み潰してしまえば、そこに何の違いもない。



(それと、異名が『意思無き少女』…か。声が出ないことと関連がありそうな名だね)



 異名も、本当の一般人ではなかなか見かけないものだ。完全モブには異名はまず存在せず、一般人の三割程度の割合でしか見かけない。


 これがある人間は、良くも悪くも目立つということなのだろうか。



「…綺麗だ。なんて美しい」



 相手が反応しないので、そのまま気にせず髪の毛を撫でる。手に吸い付く感触が実にたまらない。


 年齢はまだ十歳かそこらだろう。まだまだ幼さが残った頬は少しふっくらして愛らしく、思わずつついてみたくなるほど柔らかそうだ。


 顔立ちも日本人に似ている。艶やかな黒い髪の毛も美しく、日本の美を改めて思い出させてくれる。


 アニメの世界でも外国人風の女性は綺麗に見えるが、日本人風のほうがやはり親しみを感じる。


 特にここに来てから、まだそういった風貌の人間を見ていないので、かつての世界への望郷の念を感じさせてくれる。


 そのすべてを総合的に見て、間違いなく(アンシュラオン目線で)超絶に可愛い最高の逸材と思える少女である。



 加えて―――姉とは正反対。



 この時のアンシュラオンは気がついていないが、その少女の容姿も性格も姉とは正反対であった。


 白と黒、まったく違う両者でありながら、どちらもアンシュラオンを惹きつけるもの。


 これが少しでも白に寄っていれば魅力を感じなかったかもしれないが、正反対だからこそ惹かれる。


 遺伝子が、魂が、霊が、黒を求めるのだ。



「いつか君の声が聴きたいな」


「………」


「大丈夫。すべてオレに任せてくれ。君を完璧に育ててあげるよ。幸せだと思わせてあげよう。オレにはその力があるからね。…それじゃ、名残惜しいけどまたね」



 部屋を出て、再び視認防止の術式が張られる。


 こうなれば外の会話は聞かれないが、聞いたところで少女が反応を示すかは謎である。


 だが、決断。



「三百万だな。納金はいつまでにすればいい?」


「予約してもらえれば、一週間以内なら」


「わかった。明日の夜までには持ってくる」


「それはありがたいっす…がっ! な、なんっすか?」



 アンシュラオンがモヒカンの喉元に手をかけ、壁に押しやる。


 その赤い瞳が冷徹に光った。



「金なんていくらだって用意してやる。だからいいか、それまで絶対に誰にも売るなよ。これはオレのものだ。一切のストレスも感じさせるな。丁重に扱え。それと、お前の汚い手では絶対に触るな。触るときは消毒をしてから手袋をはめろ。いいな? わかったか? 理解したか? 返事は?」


「わ、わかったっす…! 理解したっす!!」


「オレを甘く見るなよ。もしこの子に何かあったら殺すぞ。お前だけじゃない。ここにあるすべてを破壊してやる。皆殺しだ」


「うぐっ……わかった…っす…! だから…」


「ふんっ、理解したならいい」



 モヒカンから手を離す。



「げほっ、げほっ。そのリング、全然効いてないっす!!」


「多少は効いているみたいだぞ。ちゃんと抑制されているようだしな。作ったやつはいい腕をしている」


「それでこれっすか!?」


「オレの有り余る意欲を甘く見るなってことだ。たぎった魂の炎は簡単には消えない」


「…お客さんの執着がすごすぎるっす。まだお金を払っていないのに強気すぎるっす」


「約束は守る。その気になればいくらでも金なんて用意できるからな」


「どこから来るっすか、その自信?」


「オレは目的は絶対に成し遂げる。どんな手段を使ってもな」


「暴力は勘弁してもらいたいっす」


「お前みたいな裏の連中はすぐに裏切るから、釘を刺しておいただけだ。こんな世界にいるんだ。死ぬ覚悟くらいできているだろうが、その確認のためだ。裏切ったら殺す。忘れるな」


「恐ろしい人が客になったもんっすよ…。いろんな人を見てきたっすが、相当イカれてるっす…」


「まともな人間が白スレイブなんて欲しがるか。じゃあな、明日の夜くらいにまた来る。ちゃんと用意して待っていろよ」





 店を出たアンシュラオンは、燃えていた。


 今まで感じたことのないエネルギーに満ちている。




(サナ・パム。絶対に手に入れる。あれはオレのものだ!!!)




 これが、サナ・パムとの初めての出会い。



 そして、すべての始まりである。


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