23話 「お姉さんに愛される宿命を背負った少年」


 まず足を運んだのが、門を出ると最初に見える街、【一般街】と呼ばれる区域。


 一般街という名前の通り、一般的な都市に必要な施設のある区域である。そこは今まで見た村とは違い、明らかに進んだ文明がある場所だった。


 形だけみれば西洋の街並みに似ているが、至る所にジュエルを使った機器が存在し、街灯にもジュエルがはめこまれているようだ。


 ジュエルは術式を使っているようなので、魔法文明といってもよいのかもしれない。


 ただ、すべてが便利というわけでもない。



(あれは井戸かな? 一杯五十円? もしかして水は有料なのか?)



「ねえ、あの水は有料なの?」


「そうだよ。あそこにお金を入れると鎖が外れるから、自分で持ってきた容器に入れるんだ」


「へー、そうなんだ。このあたりは水ってないの? 少し行けば森とかあるでしょ?」


「そこまでが危険だからね。ああいう井戸か、商人が持ってくる水が一番安全な水だよ。この都市の内部にも湖…というか貯水池があるけど、あれはまだ浄化していないから飲まないほうがいい。お腹を壊してしまうからね」


「なるほどー。ありがとう!」



 近くにいたおっさんに訊いてみたが、やはり有料だった。


 綺麗なものは飲み水として売りに出され、それ以外は煮沸して生活用水に使っているようである。



(水が制限されるのってきついよね。日本は水がたくさんあったけど…ここでは水も一つの資源か。これをもらっておいてよかったな)



 アンシュラオンは水色の丸い石を取り出す。ダビアがお礼として一個くれたものだ。


 これは【吸水石】といって、五センチ大の球体をしているが、これ一個で水を五十リットルは吸うらしい。そのわりに重さは変わらないという優れもので、水の輸送に大いに役立つ代物だ。


 業務用なので、なかなか一般人に手に入るものではない。その響きが、ちょっと心をくすぐる。


 ただ、水を放出する時は小出しにできないので、それだけが唯一の弱点だという。


 ちなみに、どれだけ水が入っているかは色合いでわかる。水が入ると下から徐々に鮮やかな水色になっていく。


 今はほとんど入っていないので、全体がくすんだ水灰色のような色合いだ。ダビアとの旅で全部使ってしまったのだから仕方がない。



(水はしばらく必要ないかな。それより目的のものだ)



 しばらく一般街をふらふらしてみたが、スレイブ商人というのは見つけられなかった。



(たしかにスレイブは一般的じゃないしね。それなら次だな。ええと次は…下級街? なんだか下町の匂いがする名前じゃないか。そういうところならありそうだよね)



 次に見えた街からは、少しばかり違う空気が流れている。


 下町の匂いというべきか、人々の生活の匂いが広がっている。欲求や勢いのようなものが感じられるのだ。


 ここならば期待できる。



「よし、スレイブ商人を探そう!」







「…酷い目にあった」



 アンシュラオンはぐったりとうなだれて、路地裏の壁に寄りかかる。



「裏街はやばいな。猛獣だらけだ」



 アンシュラオンは、スレイブの店があるとすれば裏通りだと思って入ったのだが、そこは魔窟であった。


 まず、いきなり水商売系のお姉さんに拉致された。


 歩いていたら、いきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。


 そこから逃げ出し歩いていると、違う女性にいきなり路地裏に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と胸を押し付けられる。



「昼間だぞ!? なんだこれ!? ここいらの女性は全員発情期なのか!?」



 商売系の女性ならまだしも、普通にしか見えない女性も襲ってくる。


 その様子に、さすがに恐怖した。まるで見境のない獣である。



「まったく…まともなやつはいないのか」


「………」


「…何か用?」


「あの…ちょっと来て」



 そこには一人の少女がいた。さきほどの女性たちと比べれば、まだまだ幼い蕾といったところだろうか。


 その少女が、こちらに向かって手招きしている。



(しょうがないな…女の子が呼んでいるんだ。行かないわけにはいかないよね)



 仕方なくアンシュラオンが行くと、少女は手を握って引っ張る。



「なんだい? どうしたの?」


「あのね、お母さんが大変なの…」


「え? お母さん?」


「うん、だからね…来て」


「金もないし、何ができるとも思えないけど…」


「大丈夫。…ここに入って」


「いや、だからね…オレじゃ…」



 一軒のボロ屋に入ったアンシュラオンは、それを見た。



 ベッドに横たわった―――裸の成人女性を。



 少女の言うことを聞いてやってきたら、いきなり家に連れ込まれ、「お姉さんといいことしようか」と知らない女性に胸を押し付けられる。




「だかぁらぁああああ!! どうなってんだよぉおおおおお!」







 アンシュラオンは慌てて逃げ出すと、安全であろう表通りにまでやってきた。


 さすがに表通りは平和であり、そういった女性たちは見受けられない。



(なんだこの街? そういう街なの!? そういうの専門の街なの!? グラス・ギースって、エロ街とかいう意味じゃないよな!?)



 恐るべき遭遇率に驚く暇もない。出会った女性のほぼ百パーセントが襲ってくる。しかも、少女を使ってすら落とそうとしてくる。


 自分が有名人ならばわかる。権力者かお金持ちならばわかる。


 が、ただの一般人である。



(馬鹿な。たしかにオレは可愛いかもしれんが、そんな魅力なんて―――って、魅力?)



 そこでアンシュラオンは魅力の存在を思い出す。


 そして、周囲を歩く人間を片っ端から情報公開で調べていく。


 結果、ほぼすべての人間が「E」か「F]であった。



(オレの魅力は、A。もしかしてAって貴重なのか? Aだから、そんなに女性を惹きつけるのか!? 馬鹿な。女性限定なんて、そんな説明はなかったぞ。それ以外にスキルだって持っていないし…)



 だが、考えられるのはそれしかない。


 もしかしたら魅力が下位の人間に対して、A以上の人間は何かしらの効果を発揮するのかもしれない。


 実際、ロリコンやダビアもかなり友好的だった。単に好いやつだと思っていたが、それが魅力の効果だったらどうだろう。


 それに村の人間の注意も引いていた。可能性は高い。



(そういえばゼブ兄が街にいくと、なぜか人がたくさん集まってくるとか言っていたな。あの人の魅力はSSS。なら、やっぱりそれが原因か? でも、女性限定なんて言ってなかったよな。待てよ、オレを襲った女性はみんな…大人だった。オレより年上のお姉さんだ。…まさか)



 アンシュラオンを襲った女性はすべて「大人の女性」である。


 ここで一つの仮説に思い至る。



(オレのステータスにある『姉に対してのみ、魅了効果発動』とか、スキルにある『姉の愛情独り占め』というのは、他の女性に対しても通じるのでは? たしかに普通に考えれば姉弟の姉だが、『お姉さん』とも読み取れるわけだしな…)



 アンシュラオンは自分のことを可愛いとは思っているが、それだけでお姉さんたちがあんなに好意的になるだろうか。


 さっきの門番のお姉さんも、初めて出会った子供の言いなりになって同僚を左遷していた。


 もともと嫌いなやつだったという線もあるが、普通そんなことはしないだろう。


 もしこれらのスキルが「お姉さんタイプの女性が、ついつい守りたくなってしまう、ついつい愛情を注ぎたくなってしまう」スキルだとすれば辻褄が合う。


 それに加えて、絹のような白くふわふわとした髪の毛、宝石のような赤い瞳。


 日焼けにも負けない白い肌。筋肉質だけど華奢な身体。まだ声変わりしていないボーイソプラノの声。


 そのどれもが、お姉さんの心を激しくくすぐるのだ。


 そう、アンシュラオンは、生まれながらにお姉さんに愛され補正を持っている人間なのである。


 当然、彼自身がそう願ったせいでもあるが。



(嬉しい悩みだけど、裏路地で生きていける自信がない! ほんと、スレイブ店ってどこだよ、まったく―――って、ええ!? あれか!?)



 疲れきった顔でふと大通りを見つめると、そこの看板に「スレイブ、入荷しています」の文字が、おおっぴらに書かれてあった。


 まったく普通に書いて置いてある。



「普通に大通りかよ!! いいのか、あれ!? ねえ、いいの!?」



 アンシュラオンは完全にロリコンの説明を忘れていた。


 勝手に「スレイブ = アダルト」と思っていたが、半分は職業案内も兼ねているので、表通りにあってもまったく問題ないのだ。


 ともかく、目的の場所は見つかった!!



「よしっ!! 気を取り直して行くぞ!!」



 暗い気持ちが一転、明るく弾むような足取りで店に向かうのであった。


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