22話 「門番のお姉さん」


 一晩野営し、ようやく東門に到着。


 視界は荒野から一転し、東門は周囲を森に囲まれたような場所にあり、道なりに進むと第二城壁に組み込まれた二階建ての楼門が見えてくる。


 楼門は少しせり出ており、それを土台にやぐらのようなものが設置されている。敵が来た場合、そこから銃撃して迎撃するのだろう。


 門自体は南門よりだいぶ小さくなっているので、馬車程度ならば軽く入れるが、大きな輸送船などは入れないようになっている。


 商人の何人かはここで小さな馬車に乗り換え、商品を積み替えている光景が見受けられた。


 また、門自体の守りも強固となっている。


 衛士の数もだいぶ増えたし、並んでいる列の合間にも監視の目が光っている。本来はそれが普通なのであり、南門の警備が緩いことのほうがおかしいのだが。


 そして、ここでようやく入国審査が行われるようになった。


 まずは身分証有りの人間と、無しの人間で分かれる。



「身分証って何?」



 昨晩、一緒に宴を楽しんだ商人のおっさんに訊いてみる。



「市民権を持っている人に配られるカードとかさ。俺は持ってないけどね」


「オレもないや」


「じゃあ、一緒にあっちだな」



(そういや、ダビアから市民権がうんたらってのは聞いたな。有るやつと無いやつ、ってことか。オレは持ってないから、あっちか)



 アンシュラオンもそのままおっさんと列に並ぶ。


 だが、その商人のおっさんともすぐに別れることになる。アンシュラオンが男の衛士に止められたからだ。



「お前はこっちだ」


「オレ? どうして?」


「そういう決まりなんだ」


「決まりって…大雑把だな。理由を述べよ、五文字以内で」


「五文字!? 短すぎる!!」


「俺は言えるよ。『い・や・だ・か・ら』。はい!」


「はい、じゃない! ちくしょう、見事に五文字に収めやがって!」


「悔しかったら言ってみなよ」


「ええと、『き・ま・り・だ・か・ら』。ああ、くそっ、入らない!」


「はは、残念だね。それじゃ、また」


「待て待て!! 駄目だって!」


「なんで?」


「そうなっているんだから仕方ないんだ! さあ、あっちだ!」


「うっ、持病のしゃくが…」


「おい、大丈夫か?」


「むさいおっさんが近づくと発病するんだ。だからおっさんこそ、向こうに行ってよ」


「どんな持病だ!? そこら中におっさんはいるだろうが!」


「おっさんは特別むさいんだ。自覚してよ」


「こいつは…!」


「助けて! 子供が襲われてるよ!!」


「お、おい、やめろ!」



 アンシュラオンの声で、周囲から衛士に厳しい視線が向けられた。その中に「変態よ」「ロリコンだわ」「ショタコンめ」といった文言も並ぶ。



「お前のせいで評価が下がったじゃないか!」


「事実だろう」


「くそっ! 子供だからって…」


「おいおい、あまり逆らわないほうがいいぞ」



 見かねた商人のおっさんが口添え。



「えー、どうして?」


「普通、逆らわないだろう?」


「だって、ムカついたから」


「入りたいなら、おとなしくしていたほうがいい」


「そうだけどさ…ちぇっ」



 アンシュラオンだって逆らうつもりはなかったが、単純に男の言うことに従うのが嫌だっただけである。



(なんだよ。ムカつくな。いきなりこの街が嫌いになったよ。やっぱり男は駄目だな)



「しょうがないなぁ。それじゃ、バイバイ。またね」


「ああ、気をつけてな」





 商人のおっさんと別れて違う道を進んでいくと、また前で何か揉めている。


 どうやらアンシュラオンの前に【選別】された若い男のようである。



「なんだよ! 前はこんなのなかったぞ!」


「今回から始まったんだ」


「おい、何をするんだ! やめろ!」


「痛くないから、じっとしていろ」



(何やってんだ? ケツでも掘られたか?)



 目の前の男が何やら喚いている。だが結局、言われるがままに腕を差し出す。


 そこに、何かリングのようなものがはめられた。



「ほら、行っていいぞ」


「ちっ、面倒くさい」


「じゃあ、次」



(オレの番か…。だが、あれは何だ? 何か変な感じがしたな)



 アンシュラオンはリングに違和感を感じた。変なものならばあまり付けたくない。


 が、ここで揉めるわけにもいかない。逆らっても面倒なだけだと、今さっき知ったからだ。



(まあ、いいか。嫌だったら外せばいいし。でも、野郎相手に触られるのは我慢ならん。おっと、あれは…)



 いかつい衛士の隣に、赤い髪の毛のお姉さんがいる。


 二十代後半だろうか。まだ若くスタイルも良い女性だ。鎧は周りと大差ない造りだが、武器を持っていない代わりに、両腕ににび色の篭手こてをはめていた。



(…武人かな? 隣の衛士よりは確実に強いな。いや、問題はそこじゃない。お姉さんであるということだ!)



 実は、ここでようやくアンシュラオンは「お姉さん」に出会ったのだ。パミエルキ以外に出会う初の年上女性である。


 むろん、お姉さんを通り越している御方々には出会っているが、残念ながら彼女たちは除外させてもらう。


 姉好きの自分としては、対応してもらうのならば、ぜひともあっちがいいに決まっている。もうおっさんには飽きているし。


 よって、即決。



「じゃあ、そこの小僧…」


「お姉さん、怖い!!」


「きゃっ、な、なに?」



 男を素通りして、隣のお姉さんに抱きつく。鎧越しであるが、大きな胸に顔をうずめる。



(あー、久々の乳だー。幸せだなー)



「あらあら、ふふふ。どうしたの?」



 女性はいきなり抱きつかれたので驚いたが、アンシュラオンが(見た目は)可愛い子供だとわかると顔を緩ませた。



「おい、何をしている。早くこっちに…」


「あの人、怖い! 助けて! 顔がすごく悪い! きっと悪人だよ! 捕まえて!」


「顔が悪い!? 悪人!?」


「大丈夫よ。顔は悪くても、そんなに悪い人じゃないわ。…たぶん」


「ええ!? ひでえよ!」



 男の衛士は、お姉さんに顔が悪いと言われてショックを受けていた。


 うむ、ざまあみろ。


 もちろん彼にはまったく恨みはない。単に男だったことを悔やんでいただきたい。



「お姉さん、ここで何するの? 怖いよ」


「大丈夫よ。ちょっとこれをはめるだけ」


「何これ?」


「うーん、悪さできないようにするやつ、かな」


「…? どういうこと? 心がわかるの?」


「ふふ、そんなことはできないわ。でも、武人の力をちょっと封じ込めることができるのよ。あなた、武人でしょ?」


「なにそれ、知らない(嘘)」


「あら、知らないのね」


「入り口でこっちに行けって言われただけだよ。…僕、何か違うの? 変なの?」


「そんなことないわ。人より生体磁気が多いだけよ。それはとても強い証拠なのよ。良いことなの」



(あいつが持っていたのは、生体磁気を感知するアイテムだったのか。だからオレはこっちか)



 入り口にいた衛士は、蓄音機のような形の道具を持っていた。今の話を聞く限り、それが生体磁気の量を調べるものらしい。


 ただし、詳しい情報まではわからず、あくまで一定量以上の生体磁気を発している人間を感知するだけだと思われる。


 ちなみに「生体磁気が多い人間 = 武人」ではない。


 多ければ多いほど活力に溢れているので、肉体的には有利になるが、武人の因子が覚醒していなくても生体磁気が多い人間はいる。


 一方、生まれながら生体磁気が少ない武人もいるので、ここでは単純に「体力」「精神」の値を重視して選別しているのだろう。


 もともと特殊な能力を見抜くのは一般的に不可能なので、少しでも強そうなやつに対する抑止として選別が行われているようだ。



「君は大丈夫そうだけど、決まりだから付けさせてね」


「付けると悪さできないの?」


「悪さする元気がなくなる…かな。ほら、無駄に元気があるから余計なことに力を使っちゃうのよ。わかるかな?」


「あっ、わかるよ。昔、隣に住んでいたおじさんがそうだったもん」


「そうなの?」


「うん、おじさんの家ね、時々子供が増えるんだ」


「あら、そうなの。…たしかに元気ね」


「うん。でもね、同じ年齢の子がよそからやってくるんだ。弟のはずなのに年上ってあるのかな? そのたびに隣のおばさんが怒って家を出て行くんだけど…どうしてだろう? 家族が増えたら楽しいはずなのにね。おじさんに訊いてみたら、元気が有り余っているからつい悪さしちまう、だって。それと同じかな?」


「あ、ああ…そっち…ね。そ、そう…ね。そうならないように…これは必要なのよ」


「子供が増えるのは悪いこと?」


「それはその…子供が増えるのは良いことよ。でも、そのおじさんがちょっと悪い人なのね。そういう人が暴れないように、このリングが必要なの。…わ、わかってくれる?」


「う~ん、よくわからないけど…お姉さんが付けてくれるなら我慢する」


「よかった。いい子ね。じゃあ、じっとして」


「ぎゅってしてて」


「ふふ、はいはい」



 お姉さんは、抱きしめて頭を優しく撫でながら付けてくれた。子供のフリ作戦は大成功である。



(くくく、今のオレは可愛い子供なのだ。容姿がいいのはすでに確認済みだからな。せいぜい利用するか)



 まあ、そのせいで姉に溺愛されるわけなので、収支はどっこいどっこいかもしれないが。



「これ、外してくれるの?」


「ええ、街を出るときにね」


「そっか。じゃあ、またお姉さんにしてもらいたいな。あの人、怖いし。ずっと睨んでるよ」


「あの人は左遷させるから安心していいわよ」


「ええ!?」


「そんな顔じゃ、子供が怯えるでしょう? 砦の配置に戻すわ」


「そりゃないよ! ここのほうが楽なのに…。それに子供なんて滅多に…」


「ほらほら、邪魔邪魔。さっさとあっちに行きなさい。あとで辞令は出しておくから」


「くそ…俺の顔は生まれつきなのに…」



 強面のおっさん衛士は排除されてしまった。


 どうやらお姉さんのほうが立場は上らしい。



(いやー、よかったよかった。これで出入りも快適になるから、少しは街が好きになれそうだ。それにしても、こんなのがあるんだな。対抗術式かな…?)



 左腕に付けたリングが黄色く輝いている。今のところ異常はないが、生体磁気を抑制するものらしいので、力を発動させると何かあるのかもしれない。



(まあ、街で暴れることもないだろうけど…。こんなものを作る技術もあるのか。さて、ようやく街のお出ましだぞ!)



 門を抜ければ街があるはずだ。


 ようやくグラス・ギース、その中核エリアに到着である。



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