21話 「グラス・ギースに到着!」


「それじゃ、ここでお別れだね」


「ああ。おかげでいい経験をさせてもらったぜ」


「こっちもね」


「それより、いいのか? お前だって金は必要だろう」


「そんなこと気にしないでよ。クルマ代には程遠いんだし」


「しかし、さすがに気が引けるな。壊れたのはボウズのせいじゃないし…」


「困ったときは助けるのが当たり前。けっこう気に入っているんだ、そのルール。そのうち返してくれればいいよ。儲けたときにでもさ。商売をまたやるには元手が必要でしょう? 全然足りないだろうけど、ハピ・クジュネへの足代にはなるよ」


「…わかった。今は受け取っておく。何倍にもして返してやるよ」


「楽しみにしておく」


「じゃあ、元気でな。お前も目的のものが手に入るといいな」


「ああ、ダビアも気をつけてね。今度はちゃんと安全なルートで戻ってね」


「おう。また会おうぜ!」


「バイバーイ! 楽しかったよ!」



 そう言って、ダビアと別れる。


 クルマが壊れてしまったので、途中の集落までは一緒に歩いてきたのだ。歩くといっても、基本はアンシュラオンがダビアを担いで移動していた。


 さすがにおっさんを担ぐのは嫌なので、木を削って大きめの板を作り、そこに乗せて持ち上げる形を取っていた。日よけにもなったので、アンシュラオンとしてはそんなに悪い案ではなかった。


 ただ、集落に着いた頃には、ダビアはものすごい日焼けをしていた。出会った時の数倍は真っ黒になっていたが、仕方ないだろう。



(もともと日焼けをしていたし、かまわないよね。文句も言わなかったし。それにしても予定より時間がかかったな)



 再び戦艦と出会ったら面倒なので、わざわざ安全な正規のルートに戻って移動をしたせいで遅れてしまった。


 アンシュラオンはいいが、やはりダビアがいたので気を遣ったのだ。


 ただ、思ったより楽しかった。おっさんとの二人旅は初めてだったものの、相手も大人なので面倒をみる必要はなく、気ままにいろいろな会話をして楽しんだ。


 それもまた旅の醍醐味であろう。地球の時とは違ってゲームもスマホもないので、逆に会話を楽しむというシンプルな楽しさがあって新鮮だった。


 そして、ロリコンから手に入れた有り金を全部あげてしまった。


 その金でダビアは馬車を買い、グラス・ギースまでやってきたのだ。余った金もクルマの代金として全部あげた。



(どうせ、あの臭い林檎で手に入れた金だしね。たいして苦労したわけじゃない。それに比べて、ダビアは本当に不幸な事故だったよ。オレと出会わなければ大丈夫だったかもしれないし、武人じゃないみたいだから普通に歩くのも大変だろうし…これくらいはしないとね。男は細かいことは気にしないもんさ)



 アンシュラオンはさっぱりとした性格なので、いちいちそんなことは気にしない。昔から金に執着はなかったし、あげたものは忘れる主義だ。


 それに、この自由な大地に来てから気持ちが大きくなった気がする。


 ここは、そういう気持ちにさせるところなのだ。






「あれが、グラス・ギース。三重の壁に囲まれた【城塞都市】か」



 ダビアと分かれ、西に進路を取って一時間。


 この道を通る人々が目指す場所は、たった一つ。



 城塞都市グラス・ギースである。



 視界にはすでに、荒野に広がる【壁】が見える。ただただ壁が隙間なく敷かれ、巨大な防壁を生み出している。


 城塞都市、城郭都市とも呼ばれるもので、周囲を城壁で囲った都市のことである。グラス・ギースは、その城塞都市なのだ。



(壁は…丸い配置なのかな? 三国志とか好きだったから城壁は中国のイメージがあるけど、こっちは欧州っぽい雰囲気だな。やっぱり基本は中世なのかな?)



 中国の都市は四角い城壁が多いが、こちらは円状に壁が構築された都市のようだ。


 壁の高さは五十メートルにも達し、一般のビルでいえば十五階に相当するだろうか。なかなか壮観である。


 この世界では、この時代に限らず多くの都市はこのような構造になっている。


 これは当然、防衛のためだ。



(ダビアが言うには、このあたりの都市は対人間よりも【魔獣対策】で壁を造っているらしい。人間よりも魔獣が多い地域みたいだし、それも当然かな。それにしても、あんな大きな壁をよく建てたもんだ。人間ってすごいな)



 アンシュラオンのような一般人は、すでに出来上がったものを見るばかりであるが、実際にこれを作った人がいると思うと尊敬の念が湧いてくる。


 まず、正確に円状に配置するだけでも相当な手間がかかるはずだ。計算する人、指揮する人、積み上げる人、みんな尊敬の対象である。



(いいね、ワクワクしてきた。初めての本格的な都市だもんね。さあ、見せてもらおうじゃないか、その実力とやらを!)





 アンシュラオンが最初に入ったのは、第三城壁と呼ばれる一番外側の壁、その南側にある【南門】である。


 そこは城壁の内部に入るための巨大な門があった。


 城壁が大きいので門の大きさも巨大。高さ二十メートルはありそうな門が、すっぽりと城壁にはめられている。


 門も城壁と同じく岩のようなもので出来ているので、開け閉めだけでも相当大変そうだ。



―――が、門は開放されている。



 特に何のチェックもなく、次々と人々が入っていく。



(特に規制はないのか? 無用心…ってわけでもなさそうか。ちゃんと門番の衛士たちはいるな)



 周囲には、やや無骨な革鎧を着込んだ男たちがいる。腕章があるので、おそらくこの都市の衛兵なのだろう。


 腰に剣を差している者もいるが、大半の衛士の武装は【銃】だ。


 地球の軍隊がよく持っているアサルトライフルではなく、もっと木製の猟銃のようなデザインである。実際、魔獣用の銃なのかもしれない。



(あれだけの戦艦があるんだ。この世界にも銃はあってしかるべきだね。まあ、アマゾンの原住民だって普通に持っているくらいだし、そんなに珍しいものじゃないか)



 よくテレビで見る原住民とて、性能には大きな差はあれど銃を一般的に使用する。戦艦の砲撃の威力を見たアンシュラオンには、あまり驚きはない。



(それに比べ、周囲には馬車があり人力車があり、着ているものも持ち物もバラバラ。実にカオスだ。文化の坩堝るつぼって感じだな)



 洋服を着ている者もいれば、中東の民族服のような者もおり、日本の着物に似たものを着ている人間もいる。なんと多様な文化だろうか。


 一番は、それを見てなんとも思わない者たち。


 それを当たり前のように受け入れているので、綺麗とかセンスがないとかは思っても、存在自体を否定しない。



(人種という概念がないと、文化まで受け入れられるものか。ただ、思想の違いは駄目らしいから、食べ物とかではそういった問題も起こりそうだけどね)



 周囲を見回せば、どこを見ても多様な文化がある。


 ただし、一つだけ変わらないことがある。それは、どの様式でも共通して発生しているものだ。



(うん、そうだ。これを見て確信したよ。やっぱりこの世界は少しおかしい)



 この光景を見て、アンシュラオンの違和感がより明確になっていく。


 それは―――文化が軍事力に特化していること



(鉄缶がうんたら言っている地域に、普通に戦艦が走っている。それは西側の文明だから別としても、木製とはいえ銃が普通に存在している。銃弾の材料はまだわからないけど、柔らかいということはないはずだ。すべてがちぐはぐだ。そうでありながら暴力性が非常に高い。すべての発想が攻撃に対して向けられているからだ)



 文明力のほぼすべてが、相手を倒すことに集中している。


 中世程度の生活様式に対して、攻撃に関しては銃を普通に使う異常さ。


 人々の意識もそちらに向いているので、武器に比べて普通の日用品などへの技術の普及と発展が遅れているように思える。


 それは武人という存在も同じである。肉体能力的には、もはやスーパーマンと同じ。その活用方法も、アンシュラオンが知っている限りは戦闘に特化している。



(魔獣と隣り合わせで生きている人間ゆえの文化か。争いが絶えない世界ゆえか。それとも女神様が言うように、この星の若さから来るものか。どっちにしろ退屈はしないで済みそうかな。さあ、まずは中に入ろうか)



 アンシュラオンは、人々と一緒に門を通り過ぎる。


 第三城壁の内部は、まるで再び外に出たのかと見まごうばかりの荒野が広がっていた。



(外とあまり変わりないじゃないか。城壁内なのに、ほとんど整備されていないな。どういうことだ?)



 そこは、外より多少まし、という程度の場所。


 外と違うものがあるとすれば、たまに見かける畑のようなもの、そして【砦】だろうか。


 乱立した砦が城壁内部にランダムに配置されている。そこには鎧も着ないでだらけている衛士たちの姿も見受けられるので、兵舎も一緒にあるのだろう。



「ねえ、あの砦って何のためにあるの?」



 アンシュラオンは、目の前を歩いていたおっさんに話しかけてみた。


 商人風の壮年の男で、馬車はないようだが大きな荷物を担いでいる。



「治安維持のためだろう? ほら、兵士がいるじゃないか」


「治安は悪いの?」


「この都市は良いほうさ。だからこうして、みんなやってくるんだ」


「おじさんはどこから来たの?」


「南からだね。こっちのほうが治安がいいと聞いてやってきたんだ」


「敵っているの? 兵士さんは守ってくれる?」



 情報を引き出すため、できるだけあどけない子供を演じる。


 その様子におっさんだけではなく、周囲の大人たちも顔をほころばせる。あざとい悪魔の笑顔である。



「そうだな。このあたりは魔獣が多いけど、守ってくれるさ」


「南には大きな戦う船があるって聞いたけど…それは大丈夫?」


「戦艦のことかな? はは、大丈夫さ。ここには来ないと思うよ。それにあの砦は、戦艦対策のためでもあるからね。ほら、南門の周囲に密集しているだろう? ああやって入ってこれないようにしているんだ」


「へー、そうなんだ。すごいね! でも、この城壁は壊されたりしないかな? 壊れなくても、大砲とかを撃たれたら飛び越えちゃうでしょ?」


「これだけの都市なんだから、城壁の上には防御結界があるんじゃないかな。所々に塔みたいなのがあるだろう? あそこに仕掛けがあるんだよ」


「それって丈夫なの? 壊れない?」


「空を飛ぶ魔獣も入れないんだ。戦艦の砲撃だって防げるさ。だから安心だよ」


「そっか…。ありがとう、おじさん! 安心したよ」


「東門までは、まだまだ長いからね。無理せず行くんだよ」


「うん!」



(なるほど、一応戦艦を意識して配置してあるということか。こうして見ると深い堀もけっこうあるし、南で入植が始まってから増設したのかもしれないな)



 仮に防御結界とやらが戦艦の砲撃を防げる場合、戦艦は突撃するしかなくなる。そうなれば砦は生きる。


 砦があるだけで戦艦の移動を阻害できるし、防衛拠点にもなる。近くを通った時に飛び移って白兵戦に持ち込むこともできるだろう。


 大型のバリスタも見受けられるから、戦艦の装甲を貫けるかは不明だが、それなりの防衛兵器も充実しているように思える。


 これらの情報から、城塞都市グラス・ギースは最低限の防衛力を有する存在であることがうかがえる。


 また、そうでなければ、とっくの昔に滅びていたに違いない。こうして今も残っていることこそ最大の根拠である。



(ここの領主が戦艦を持っていない可能性は高くなったな。戦艦を運用するのに不向きな構造だしね)



 当然、全部を見たわけではないので断定はできないが、戦艦を運用するようには造られていないように思える。敵の戦艦を阻害できるということは、自分の戦艦も動きにくくなるからだ。


 地下基地があるのならば別だが、今のところそういったものは見受けられない。もし戦艦を所有しているのならば、外に置いておくしかないだろう。


 が、外に戦艦は見られない。



(この前のやつは、こことは関係ないのかな? でも、そっちのほうがよほどきな臭いけどね。違う勢力の、それも軍隊が近くにいるってわけだし。いつ争いになってもおかしくないよね。そのあたりも注意が必要かな)



 アンシュラオンを襲った連中が、どこの軍隊かは重要な問題である。


 いきなり攻撃を仕掛けてくるような相手だ。姿は見られていないと思うが、さらなる警戒が必要になる。



「しかしまあ、広いな。城壁内部とは思えないや」



 目立つので、この人ごみを走るわけにもいかず、アンシュラオンは流れる人々と一緒に東門まで歩くことになる。


 その距離、実に三十キロ以上の行程。


 さっきのおっさんたちと合わせて歩いたので、結局夜は一緒に野営することになった。



「まぁまぁまぁ、飲んで飲んで」


「おいおい、そんなに飲めないよ」


「まぁまぁまぁ、本当はいけるんでしょ? 遠慮しないでさ、ぐいっといこうよ! 今日は無礼講でしょ?」


「無礼講たって、この酒はうちの商品なんだが…」


「まぁまぁまぁ、楽しもうよ。着いた記念にさ」


「もういい、わかった! こうなったら全部飲み干してやる! ほら、お前も飲め」


「そうこなくちゃ! じゃあ、いただき…」


「こら、子供にお酒を出すんじゃないよ! それに全部飲んだらぶっ飛ばすからね!」


「げぇ、かあちゃん、ごめんよ!!」


「…ちぇっ、オレはジュースか…」



 などなど、それなりに楽しかったが。


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