20話 「遭遇、戦艦の脅威 後編」


 クルマは沈黙。


 戦艦に攻撃されて無事である存在は、まずいない。当然の結果だ。


 それを確認した砲手が、司令室に連絡を入れる。



「目標、撃墜」



 その言葉は、人の命を奪ったという報告。何人乗っていたかはわからないが、殺したということだ。


 その報告を聞いた指揮官の男は、静かに目を瞑る。



「運が悪かったな。間が悪かった。…それも言い訳か。殺した者の台詞ではない」


「いえ、まさに運が悪いのです。仕方のないことです」



 隣にいる副官の男が答える。


 たしかに運が悪かったのだ。わざわざこのルートを走らなければ、鉢合わせることもなかったのだから。



「このルートは誰も使わないと聞いていたが?」


「情報では、そのはずです。民間人が使うものは、東に二百キロほど行った先のルートです。ここに一般人は近寄らないはずです」


「では、軍人か?」


「そのわりには一般車両のようでした。ただ、西側のクルマでしたので、他国の軍関係者かもしれませんが…」


「その場合は最悪だな。調査に来られると面倒だ」


「グラス・ギースやハピ・クジュネの領主が断るのでは?」


「それができればな。RBやニアージュあたりが出てくれば抵抗はできまい」


「やつらは南の地の入植で手一杯…だと思いたいですな」


「希望的観測で動かねばならないほど、我々には余裕がないということだ。…起こったことは仕方がない。しかし、本当に見えていたのか? 視認防壁があったのだろう?」


「そのはずですが…対象と接触した際、自壊したようです」


「自壊? そのようなことがあるのか? 俺は術式に詳しくないから細かいことは知らないが…あまり聞かないぞ。普通は損耗して効力が消えるとかではないのか?」


「はい、普通はありえませんが……ここに来るまでに劣化したのかもしれません」


「…そうか。長旅だったからな。だが、そうだとすれば防げた事故だぞ」


「申し訳ありません! 即座に見直します」


「そうしてくれ。これ以上のトラブルは御免だ。この戦力で大規模な戦闘は極力避けたい」



 この戦艦には、視認を防ぐための術式結界がかけられていた。視認を完全に防ぐものではなく、周囲と同化することで見えにくくするものである。


 ただし、わざわざ夜を選んで移動しているのだ。普通の人間がこの距離で視認することは不可能に近い。


 もし見えたのならば、相当目が良い人間に違いない。それだけで貴重な人材であるといえる。



「いい素質を持っていたのだろうが……惜しいものだ」



 その男、煤けた深い金髪、梅幸茶ばいこうちゃの色合いの髪をした壮年の男が呟く。


 色合いは多様だが、金髪自体は西大陸に多い髪色である。この男もまた身体的特徴によって、自身が西側の人間であることを図らずとも主張していた。



「また誰かに発見されては困る。先を急ぐぞ。今はまだ、この艦を見られるわけにはいかない。早く隠さねばな」


「了解しました」



 そして、自身の腰にある剣を触りながら、深い闇に映った灯火を見つめた。



(どんな目的があろうと、その手段がいかようなものだろうと、犠牲は少ないほうがいい。だが、最初からこれか。結局、誰かを殺さずには我々は生きてはいけないのだ。ならば、これからいったいどれだけ殺すのか…。それも魔剣使いの宿命だということか。…因果なものだ。それでもここで生きていくしかない。希望を見つけるしかないのだ)







 戦艦が遠ざかっていく。


 それを感覚で把握しながら、さらに用心のために五分ほど、じっとする。


 その後、何も起こらないのを確認して顔を上げた。



「もう行ったよ。こっちへの敵意は消えたかな」


「なんだよ…いったい。どうなってんだ?」



 炎上したクルマから二百メートルくらい離れた場所に、アンシュラオンとダビアはいた。


 お互いに傷はない。傷はないが、クルマは完全に大破である。回収も不可能なほど粉々だ。



「ごめん。クルマは捨てるしかなかった」


「…それはいい。命あっての物種だからな。むしろ助けてくれてありがとうよ」


「拾ってもらった恩があるからね。当然だよ。ただ、もしかしたらオレのせいかも。あの戦艦を見ちゃったから攻撃された可能性があるんだ」


「見ちゃったって…相手はそんなことまでわかるのか?」


「うーん、あれって術式だったのかな? 妙に見えにくいから、コード式を壊しちゃったんだよね。たぶん、あれで気づかれて方向もバレたっぽい」



 戦艦を覆っていた蜘蛛の巣ようなもの。


 おそらく隠密系の術式だったのかもしれないが、見えにくいのでアンシュラオンが眼力で破壊してしまったのだ。


 術式に干渉して式を変更して自壊させる。簡単にいえば、数式の値を変更して式を成り立たせなくするのである。


 もちろん簡単にはできない。その術式を解除できるだけの術士の因子と実力が必要だ。因子が低い人間が強引にやれば、術式事故を起こす可能性すらある。


 それによって警戒した相手が、敵対反応をしたと考えるべきだろう。しかし、警告もなく戦艦がいきなり発砲したのだ。もとより危険な相手に違いない。


 それより、である。



「あー、いいなー。ワクワクする。やっぱり戦艦って、カッコイイ!」


「おいおい、冗談だろう。死ぬかと思ったぜ」


「助けたんだから、クルマが壊れたのはチャラね」


「あぁ…改めて考えると悔しいな! 俺のクルマがぁ…! ちくしょう! いったい、どこの馬鹿だ! 賠償請求してやるぞ!」


「そんなことしたら、もれなく銃弾のプレゼントが来るかもしれないよ」


「洒落にならねえよ! 泣き寝入りか!?」


「命があっただけよかったじゃん。物はまた買えるけど、命はそうはいかないしね」


「はぁ…しょうがねえな。運が悪かったな」


「まあ、次に出会ったらお返しくらいはしたいけどね。それに見合うだけの物は奪いたいよ」


「完全に強盗の発想だな」


「それも荒野のルールでしょ?」


「違いねえ」



 ダビアがこうしてクルマの心配をできるのも、アンシュラオンが助けたからである。


 クルマは大破したが、本当に二人は無傷であった。



「というか、よく間に合ったな。何をやったんだ?」


「一つは直前に修殺で迎撃して、二つ目は水泥壁すいでいへきで膜を張って防御して、三発目はクルマに当たった瞬間に凍らせて爆発を遅らせて、その間にクルマを壊してダビアを引っ張り出して、ここまで跳んだんだ」


「いや、おかしいだろう!? あの一瞬にどんだけやってんだ!?」


「そんなに速くなかったし問題ないよ。姉ちゃんの攻撃に比べれば、あんなの楽勝だよ」


「それはなんだ? お前のつらい家庭事情に同情すればいいのか? それとも感謝すればいいのか?」


「オレもわからないよ。今は感謝かな。ダビアも助かったしね」



 パミエルキの攻撃を防御していた自分にとって、あの程度の攻撃は生ぬるいの一言である。その点だけは姉に感謝したいものである。


 本当は偽装工作のために、着弾と同時に火気を発してクルマに火を付けたのだが、そこは言わないことにしておく。


 激しく燃えてもらわないと、相手が調べにくるかもしれないから仕方なかったのだ。



(にしても戦艦か! 燃えるな!! 相手を殺し、破壊するための兵器。最高だね! オレもいつか欲しいな)



 攻撃されたらさすがに怒りが湧くものだが、今のアンシュラオンは戦艦の格好良さに惹かれていた。


 ここは異世界。


 のどかでありながらも、身の危険が常にある未開の土地。



 それに心躍らせるのであった。


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