第238話 掃除の仕方
雨妹は
「難しいことはないよ。
上から順に掃除して、落ちた埃を掃いた後で床を拭く、これだけを守ればいいの。
まず、はたき掛けからね」
雨妹はそう言うとまずは実際にやってみせようと、手作りはたきを持つ。
「こうして屋根の裏を撫でてやると、案外埃が落ちる。
溝になっているところをこうして拭く。
はい、やってみて」
次にそのはたきを静に渡すと、彼女は恐る恐ると言った調子で、先ほどの雨妹を真似てはたきを動かす。
すると静がはたきで撫でたところから、ふわふわと埃が舞い落ちる。
だがはたきを自分の真上に持っていき、しかも落ちてくる埃を眺めていては、当然その埃を静が被ることになる。
「……私に埃が降ってくるんだけど」
静がこの当然の結果に苦情を述べたので、雨妹はその動きを修正してやる。
「そこは上手く避けられるように、自分に落ちない角度ではたきを動かさなきゃ」
雨妹がはたきの角度を斜めにしてからモサモサと動かすと、埃は静の目の前に落ちて来た。
その光景を見て「なるほど」と静が頷く。
「ほら、あのあたりに蜘蛛の巣ができているから、はたきでとって!
これから暖かくなると、すぐ蜘蛛の巣ができちゃうんだよねぇ」
雨妹が指摘した個所に静ははたきを動かし、蜘蛛の巣を取り除く。
「手で触らないでやれるって、この『はたき』って便利だな」
蜘蛛の巣を遠くから取り除けることに、静が感心している。
誰しも蜘蛛の巣があることに気付かないでうっかり引っ掛かった時、「やってしまった!」と思って結構落ち込むものだ。
蜘蛛は毒蜘蛛でなかったらそう怖がるような生き物ではないし、むしろ害虫を食べてくれる人間にやさしい存在だが、蜘蛛の巣が絡むとなかなか取れないので、雨妹だってできれば遭遇したくない。
蜘蛛には雨妹が通らない辺りで平和に暮らしてほしいものだ。
それはともあれ。
はたきがけが終わると、まずは静の被った埃を払ってやって、落ちた埃もまとめて掃いていく。
「端から掃いて真ん中に塵を集めるの。
そうすると最後に塵を一度でとれるでしょう?」
雨妹の説明に、静が首を捻る。
「ねえ、塵を回廊の外に出すのだと駄目なの?」
誰しも考える疑問を口にする静に、雨妹は正直に答える。
「駄目ってわけじゃあないよ?
けどさ、屋内掃除だったら外に掃き出せば部屋の中にその塵は戻らないけど、ここは外の回廊だからすぐに塵が風で舞い戻って、永遠に掃除が終わらないことになっちゃうね」
「あ、そうか」
雨妹が述べた理屈に静も納得してくれたので、さらに言葉を続ける。
「それに、屋内掃除だとしても、外に追いやった塵はどこかのこうした回廊の風の吹き溜まりに集まっちゃうから、いつか誰かが集めて捨てないと、やっぱり掃除が終わらないわけよ」
「ふぅん……」
「けど、そういうやり方をする掃除係だっているし、そういう場合は誰かがその人が追い出した塵を集めてくれているわけだ」
雨妹の言葉を聞いて、静は目の前の塵を見てしかめ面をする。
「この塵が誰かのサボった跡だと思うと、なんか嫌だな」
静の感想に、雨妹は「そうでしょう?」と同意する。
「だから自分もその『嫌だな』をしないこと! その方が気分もいいしね!」
「わかった」
雨妹が告げた結論に素直にこう言える静は、心根が正直なのだろう。
「それでも自分が楽できる方がいいから、他人の苦労なんて知らない」と考える人だって、世の中にはいるのだから。
「掃除って、色々考えるんだな」
そうボソッと零す静に、雨妹は「そりゃあね」と応じる。
「色々考えるのは、どんな仕事だとしても同じだよ?
洗濯係だって、布地の種類とか服だったら着心地とか、色々考えると思うし」
「そんなもの?」
雨妹の話に、静が目を丸くする。
「そんなものなの」
雨妹は「うんうん」と頷く。
静が他の仕事を馬鹿にしないように、そのあたりもちゃんと教えておきたいのだ。
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