第220話 持っていたモノ
「ダジャ、なんなのそれ?」
だが一方で、その印鑑を見た
どうやら彼女の方はその印鑑がなんなのかということや、ダジャが何故こんなものを持っていたということも知らないらしい。
雨妹はそんな様子を窺いつつ、小声で李将軍に問う。
「それ、大事なものなんですか?」
これに、李将軍が眉間に皺を寄せつつ答えてくれた。
「
これを押してある文のみが大公からのものだと認められる。
崔国には皇帝陛下の印も含め、各州の大公が所持する九種の印があってな、これを偽造した者は極刑だぞ?」
「極刑……!?」
李将軍の口から出た言葉の響きに、雨妹は思わずブルリと身を震わせる。
極刑とはすなわち、国で定められた最も重い刑罰ということだ。
そして前世の華流ドラマでは、残酷な刑罰というものが様々あったものである。
興味本位で刑罰のアレコレを調べて、夜に怖くて眠れなくなってしまったことを思い出す。
なにが怖いって、一応法律として極刑の刑罰方法が決まっていても、その時の刑罰を決める人の怒りや憎しみでどこまでも残酷になるのだから、「これが極刑」という限界が存在しないのだ。
そのあたり、ここ崔国ではどうだろうか?
そんな雨妹の恐怖はおいておくとして。
「極刑になる危険を理解した上で大公印を偽造するのは、非常に割が合わないってことだ」
李将軍がそう言ってダジャを見るのに、雨妹は「ふぅむ」と考える。
「むしろ盗んでこっそり書類とかに勝手に押印される方の危険の方が、実は多いとか?」
雨妹の推測に李将軍が頷く。
「そういうこった。
それだとよほど質の悪い書類を偽造したんじゃなけりゃあ、精々州外追放で済むからな」
そう話す李将軍によると、そのあたりのことを大公側も十分にわかっているので、盗難対策は厳重にしてあるはずだとのことだった。
つまり、堂々と見せてきたこの印鑑は本物の可能性が高く、果たしてこれは盗まれたものなのかどうか? という問題が浮上する。
それを解決してくれるのが、おそらく手紙の内容だろう。
これを確かめるために手紙を広げる李将軍の手元を、雨妹も一緒になって覗き込む。
手紙の内容は、非常に短いものだった。
「これを陛下にお返しします」
そう短く走り書きのような字で乱暴に書かれていて、相当に急いで書いたのだろうと思われた。
そこに大公印が押されていて、直筆だと証明しているのだ。
――大公の証の印鑑を、返すって……?
それは、かなりの事態ではないだろうか?
この短い手紙を読んだ李将軍も、表情を強張らせている。
「お前は何者だ?
何故そちらの娘ではなく、お前がこれを持っていた?」
李将軍が鋭い視線を向けて問うのに、ダジャはかすかに首を傾げる。
「私はダジャ、それは預かりもの」
ダジャはどうやら李将軍がなにを聞きたいのかわからなかったらしく、こう返してきた。
そんなダジャの様子を見て口を挟んだのが、足の手当てを受けている静だ。
「そりゃあ、ダジャの方が預けやすかったからじゃないの?
私はもうしばらくの間、弟の顔を見ていないけど、山越えをする前までダジャは弟とずっと一緒にいたんだし」
そう告げる静の話の内容に、雨妹は眉をひそめる。
姉弟だからといって、頻繁に顔を合わせていなければならないことはない。
実際雨妹だって、きっと顔もしらない兄弟姉妹が大勢いることだろう。
けれど一方で、異国人が大公である弟と一緒にいたとは、どういうことか?
雨妹がこんな風に疑問を覚えていると、静が続けて言った。
「ダジャは奴隷だからね。
他所から譲られたものを、私たちが強引に貰い受けたんだ」
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