第71話 神の瞳
「わっ、寝てた!!」
ふかふかの空間に包まれているのが心地よくて、つい眠ってしまっていた。気がつけば、やっぱりシュナンの抱き枕になっている私。たまには、腕枕してあげようとかいう気にはならないのだろうか。この人。
ガッチリしがみついているシュナンの腕を解く。
「えー?まだ寝てようよ。」
眠そうに目を擦ってシュナンが言った。
「帰るの。」
そういえば、シュナンは何度もこの世界に閉じ込められて脱出したとサンダルフォンが言っていたのを思い出した。
「シュナン、どうやってここから出るの?」
「ボク、ずっとここに二人でいたい。」
ダメだ。シュナンがここから出たいと思わない限り教えてくれなそうだ。このままここでお婆ちゃんになるかもしれないけど、そうなったら愛想つかされて帰れる?
と、なると結局、お婆ちゃんになる前に戻るには自分で方法を探さなきゃいけない。
「・・・『おねだりの術』使わないの?」
シュナンがニヤニヤしながら私を見ている。
そうだよね。『おねだりの術』を使って脱出方法を聞くのが一番早い。
シュナンが胡座を組んで座った。
「ほら、逃げないから。早く。」
そうだ、この際『自信がない』なんて言ってられないのだ。なんとしても、成功させてここから脱出しなくては。
これは勝負だ。
深呼吸をする。
「・・・よし。」
シュナンの手を取って立ち上がらせた。
また深呼吸して目を開け、シュナンのエメラルドの瞳を見つめる。角度はバッチリ。
シュナンの目が虚ろに・・・ならない。
それより、何故か金色を帯びたエメラルドの瞳から目が反らせないことに気づく。
金色?
これは・・・。
自ら舌を噛んだ痛みでシュナンの瞳からやっと解放された。
「残念。
もう少しだったのに。」
クスクスとシュナンが笑う。
『魅了』だ。心の何処かで鳴っていた警告音はこの事を報せていたのかもしれない。危うく術にかけられるところだった。
私はその場にへたりこんで、暫く動けなくなっていた。
「『魅了』は神の特権だよ?
金色の瞳は神の瞳だからね。」
「神の・・・瞳?」
私に向かい合ってシュナンが座った。いつもの様に微笑みながら、じっと私の顔を見ている。
「ねぇ、ロザリオ。
キミが皆から優しくされたり、誰からも愛されたりするのは金色の瞳のお陰だとは思わない?」
「・・・・。」
「生まれたばかりのキミに恋したキャルロットも、キミの家族も、キミと目が合ったその瞬間に『魅了』されたんだよ。
無条件に誰からも愛される神と、同じ瞳を持つキミにね。」
確かにウチの家族の度を超した異常な愛情に違和感を感じることはあったけど・・・。
そうだったんだ。
なんかショック。
「私、この瞳じゃなかったら家族に愛されなかったの?」
「さぁ?
それはボクの知る処じゃない。」
「シュナンも?」
「ん?」
「シュナンも私の瞳が金色だから愛していると言ったの?」
優しく微笑むシュナンの緑色の瞳を見つめる。シュナンは答える代わりに私の両手をしっかりと握った。
「ロザリオは?
ボクのことどう思ってるの?」
「私は・・・。」
私の返事を待つシュナン。
「私はシュナンを愛している。」
その言葉が意外だったのか、シュナンの目が驚いたように見開いた。
見つめたまま私の瞳から反らさないエメラルドの瞳。
「愛してるから、ここから脱出する方法を教えて?」
「・・・うん。」
至極、あっさりと、シュナンが頷いた。
「リオ!!」
兄の声で目が覚める。どうやら、ラグドール神殿の自分の部屋のベットにいるようだ。
「良かった。」
「私、脱出できたのですね?」
「今朝、礼拝堂に倒れてるのを見つけたんだ。」
封印の中の世界から脱出してラグドール神殿に飛ばされたのか。
「シュナンは?」
「倒れていたのはリオひとりだけだったけど?」
両手を見つめる。
確かな手の感触がまだ残っている。
「お兄様・・・。」
「ん?」
『お兄様は私が金色の瞳じゃなくても私を愛してくれていましたか。』
と、聞きたかった言葉を飲み込んだ。
そんなこと、どうでもいい。私は家族みんなを愛しているのだから。それでいい。
「お兄様、御成婚の儀は?」
「予定通り、今日の午後からだよ。」
封印されてから3日経っていた。ベットから起き上がる。
「やっぱり行くのか?」
「勿論です。その為に戻ってきたのですから。」
クローゼットを開けて制服を取り出した。
何だかいつもと違うような。
「今日からリオ、大神官見習いだってさ。」
「おー。」
まあ、変わったのは帽子の高さ位だけどね。
「じゃ、着替えたら大神官室で。」
「了解です。」
兄が扉を閉めた。
真新しい神官の制服に着替える。
「折角なんだからさー、ミニスカートとか胸が開いた服とかにしたらいいのにね~?」
「アタシは深いスリットが入ったセクシーなのが好きかしら。」
「あ、イイネ。」
振り返ると、窓辺に肩にビションフリーゼを乗せたシュナンが立っていた。
「いつからいたの?」
「『了解です。』から。」
悪怯れる風体もなく、いつもの笑顔で私を抱き締める。シュナンから逃れようと両手でその体を押したけど、離してくれない。
「着替え、覗かないで。」
「えー?いいじゃん。
だって、ボクはキミの夫だよ?」
「そーよ。減るもんじゃないし。
勿体ぶらなくったってイイジャン?
シュナンちゃんはロザリオの夫なんだから。」
夫って・・・。
シュナンとビションフリーゼのコンビ。本当にいつか焼き鳥にしてやろう。
「オットじゃなくて、ペットの間違いでしょ!!?」
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