第77話「人間技じゃない」

恐竜の村からラクサ村までのちょっと長い道のりを木を斬り倒しながら進む。


後ろをついてくる子供恐竜の様子を見て小休憩を挟みつつ周囲を警戒し、巨大生物がいたらサクッと討伐していく。


本来の目的は巨大生物の掃討だからね。大丈夫、忘れてないよ。



そうして複雑な道なき道を進んでいたら結構な時間が経っていたらしい。茜色に染まりつつある空を視認しつつラクサ村とハルバ村を繋ぐ一本道に躍り出た。


「うぉわっ!」


「な、なんだ!?巨大生物か!?」


最後の一本を斬り倒す寸前にちょうど巡回してたとおぼしき兵士数人がいることに気付き、咄嗟に方向転換して彼らの進行方向とは逆の位置に倒れるようにした。


あっぶな。もうすぐ帰れると思って勢いつきすぎちゃった。まぁ怪我人いないしいいよね。


「もしかして、ミノリさんか?」


あ、ハルバ村の兵士さん。ちょうどいいや。


「よっす。この子の身内埋葬するのに人手が欲しいんだけど」


この子、と子供恐竜を指差す。


すると兵士達は驚愕に目を見開いた。


「まさか……地竜!?」


「初めて見た……」


「人里からうんと離れた場所に生息してるはず……それが何故ここに?」


ここらじゃ見ない種族だからびっくりするだろうな、とは思ったけど……そこまで驚かれるとは思わなんだ。


「巨大生物狩りながら散歩してたらバッタリ遭遇したの。見たことなかったけど、そんなに珍しいんだ?」


「言っとくが、バッタリ遭遇できる種族じゃねぇからな!?かなり辺境に住んでるって噂の生き物だぞ!どこまで遠くに行ってたんだよ!」


「え、ちょっとそこまで」


「ちょっとそこまででレアすぎる生物釣り上げるのかよお前は!?」


顔見知りの兵士に詳しい事情を説明すると直ぐ様人手を集めてくれた。ついでにアレンにも報告された。どうやら近隣では私の保護者として浸透してるらしい。アレンママ……



「で、場所は?案内頼む」


「あいよ。ついてきて」


アレンを含めた兵士数十人を引き連れて再び恐竜、もとい地竜の村へと向かった。ちゃんとお別れの挨拶したいだろうからと子供恐竜も一緒だ。


今から行くとなると距離的に向こうに着くのは夜になっちゃうけど大丈夫なのかな?夜になると巨大生物活発に動くとか言ってなかったっけ。


「地竜はな、すっげぇ希少なんだよ。存在が確認されたのも随分昔でな、今や幻の種族とも呼ばれてる。そんな伝説級の生き物の村だぞ?一刻も早く対処するに決まってるだろ」


ああ、なるほど。だから到着が夜になろうが何だろうが構わないと。


「で、なんで一直線に木々が斬り倒されてるんだ?」


「村までの目印。後日整備するから怒らないでよ」



そうしてしばらく進むこと数十分。


「ちょ、待てミノリ!おま、どこ通ってんの!?」


川を横切り、洞窟を潜り抜け、崖を登り始めたところでアレンからストップがかかった。


何故か兵士達にも動揺が走る。


「川を横切るのはいい、洞窟を潜るのも、まぁ許容範囲だが……なんで崖登るんだ!迂回しろよ!」


「迂回できるとこないし、ここが一番足場が多くて登りやすいよ?」


「地竜の子供はどうやって登るんだよ!?」


近くにいる子供恐竜を手招きし、崖の上を指差すと、凄まじい跳躍力でジャンプして崖の半分まで到達した。ちょっと大きめの足場からひょっこり顔を出して「キャウ!」と可愛らしく鳴いている。


「跳ぶから問題ないってさ」


口をあんぐり開けて固まってる兵士達。


私も最初見たときは「おーすげー。跳んでるよティラノ」と謎の感動が押し寄せたけど、森の住人である彼らが固まるほどびっくりするってことは地竜の生態が知られてないのかな。伝説級の生き物とか言ってたし、可能性はあるな。


兵士の中には翼を生やした人とかまんま飛竜とかいるし、そうでなくとも森で過ごしてたなら私より体力あるだろう。


そう予測したのだが、崖を登るペースが思ったよりずっと遅くて時間くった。


飛べる兵士は先に崖の向こう側で待機してもらって、私と子供恐竜は崖の上でのんびり他の兵士を待っている状態。


辺りはもう夕方一色。こりゃ崖の向こうについたところで野宿かな。


「こ、こんな……断崖絶壁をひょいひょいと……あいつ本当に人間かよ……」


息も絶え絶えにぽつりと溢れたアレンの呟きは私の耳には届かなかった。


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