第76話「うちに来る?」

一頻り涙を流したあと、ペコペコと申し訳なさそうな顔で頭を下げる子供恐竜に手をひらひらと振って「気にしないでいいよ」と伝える。


「とりあえず、君のお仲間を埋葬したりするのに人手が必要だから、一度私がお世話になってる村に戻ろうと思うんだけど……いいかな?」


「(コクコク)」


子供恐竜も了承したので一度ラクサ村に帰還しようと思うのだが、ここでまた問題が。


「あの村、兵士連れてくるまでそのまま放置したらまずいよね……」


ここら辺にも巨大生物は生息している。私達が去った後、もし巨大生物がここを通り掛かったら、この子の仲間が食い荒らされる可能性もない訳じゃない。肉食の巨大生物も中にはいるからね。


それにこの子もここに置いていく訳にはいかないから当然私に着いてきてもらうしかない。しかも仲間全員があの世となると、この子は独りで生きていくことになる。まだ子供なのに、だ。


危険だらけの孤独な独り暮らしをさせてあっさり仲間の元に行かれたら後味悪い。助けた後も支えてあげるのが大人の義務だ。


よし、ここはいっちょ気概のあるとこを見せてやろう。


「君、行くアテないならうちに来る?」


「!?」


唐突に投げ掛けられた問いにびっくり顔の子供恐竜。


「もし仲間全員がやられたんなら君独りでしょ?もしそうなら独りでここにいるより賑やかな村で一緒に暮らした方がずっといいよ」


言葉の意味を緩やかに理解し、瞳に涙を溜めてぷるぷる震えだした子供恐竜。


な、泣くほど嫌なの?


ちょっぴり傷付いたが、冷静に考えてみたら当たり前だよね。巨大生物の魔の手から助けたとはいえ、初対面だもん。見ず知らずの人間にホイホイついていくわけないって。


仕方ない。独りにさせるのは気が進まないけど、この子が独りでも生きていけるように陰から支えてやればいいさ。


「ごめん、さっきのは聞かなかったことに……んぶっ!」


いきなり突進された。


タックルかましたくなるほど私の提案が嫌だったのかい?と言いかけたが、それを口に出すのは止めた。


何故かって、子供恐竜が嬉しそうに喉を鳴らしながら全身ですりすりしてるからだ。


あー……泣くほど嫌なんじゃなくて、嬉しくて泣きそうになってたのか。良かった。危うく提案を取り消すとこだったよ。


「一緒に暮らすってことでオッケー?」


「(コクッコクッ)」


子供恐竜の頭を優しく撫でて宥めながら聞いてみると、それはそれは勢いよく何度も首を縦に降ったのだった。



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