第45話「ありがとうは慣れない」
「まぁ文明の利器はあるに越したことはないけどね」
「台無し感半端ねぇ!」
ドンッ!と壁を叩いて突っ込むアレン。仕方ないでしょ。これが私だ。
直接身体への攻撃がないのは睡眠効果だろう。睡眠万歳。
「って、そんなことより!俺は仕事行くからな」
「ああ、さっきも言ってたね。アレンが仕事してるとこ見たことないけど」
「主にお前のせいだ!!」
あたしゃ知りません。
調理室から出て私と向き合ったアレンは血管がピクピクするのを堪えながら話してくれた。
「近隣の村の巡回と巨大生物の討伐に行く。俺のように村に配属された役人は主に巨大生物の討伐が仕事だ」
「へー。あの超絶きんもいデカブツ殺しまくるんだ」
「言い方考えろ!」
事実じゃん。
討伐→退治→天に召されよ。ってことでしょ。ファンタジー漫画によくある封印術とか使う訳じゃなく息の根止めるんでしょ。なら一緒じゃないか。ストレートに口に出して何が悪い。
「沢山殺して功績を上げたまえ」
「俺は殺し屋か!」
うんうん、と頷いてアレンの肩をぽんっと叩いたらすかさず突っ込まれた。頭叩かれた。痛い。睡眠効果いずこへ。
「沢山寝たなら結果的にアレンの暴力が緩和されてなきゃおかしい」
「悪いが血の気が多いのは元からだ」
「私の幸せ返しやがれ」
せっかくアレンが熟睡できるよう労力を費やしたというのに無駄に終わるとは。その分の睡眠時間を返せコラ。
怒気を孕んだ冷ややかな目を向けるも軽くあしらわれた。
「でもお前のおかげでぐっすり眠れたのは嬉しい誤算だ。ありがとな」
「………」
また“ありがとう”だ。
感謝の気持ちを言われ慣れてないせいで若干顔が変になってる……気がする。
「帰ったら、あの音が出る四角い箱の使い方教えてくれ。じゃあそろそろ」
あの、颯爽と玄関に向かうところ申し訳ないけど。
そのデカシャツに半ズボンの上から防具を着用したヘンテコな格好のまま仕事するのかい?アレンよ。
と心の中で念じたのだが、虚しくも私の心の声は届かずに玄関は無情にも閉じられた。
せいぜい笑い者にならないことを祈ろうと合掌していたら勢いよく玄関の扉が開いた。見るとアレンが恥ずかしさで顔を赤く染めて脱衣所に走っていったところだった。
大方、村人から指摘されて気付いたから仕事着に着替えるために戻ってきたんだろう。どこに置いとけばいいか分からず脱衣所に放りっぱなし状態だったからね。次帰って来たときに洗濯機の使い方を教える必要があるな。
ビシッと仕事着に着替えたアレンは今度こそ「行ってくる!」とヤケクソ気味に言って出ていった。
「いってらー」と自分でもよく分かるほど気の抜ける声とともに軽く手を振った直後鳴り響く腹の虫。そいや起きてから何も食べてないや。
アレンが作ってくれたご飯、昼飯の分もあったよね。昼というには遅すぎるけど。
それ食べてからまた寝よう。
「やはりうまうま」
冷蔵庫に入れといた料理をレンジでチンして素早く客室に持っていきささっと掻き込むようにぽいぽい口に放り込んでいく。美味である。
アレンに着実に胃袋を掴まれてるなぁとしみじみ浸りながら完食まであと少しというところで客室の扉が外れそうなほど勢いよくバァンッ!!と開け放たれた。
というかガチで外れた。扉の部分だけ倒れちゃったよ。怪力かよ。
誰がやったんだと思い侵入者を見てみると、そこにはオレンジ色の髪をポニーさんにした猫耳な女の子が尻尾をぴんっと伸ばして抱き着いてきた。
「みーのーりんっ!あっそびっましょー!」
いーやーよー。
突撃自宅訪問した猫耳ことチェルシーにさして驚くでも狼狽えるでもなく、冷静に言い返したい衝動が沸き上がった。
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