第6話 あの記憶
「そのリネンは交換されている。」
ドルイドはシーツからさっと手を引き、何事もなかったように彼を振り向いた。扉にディヴァンが人の姿で立っている。
彼が屋敷で表立ってその姿で現れることはないので、客間に佇む彼を見るのは不思議な気分だった。だがここはエレクトラが使っていた例の部屋であることを考えると、別に違和感は無いのかもしれない。この場所はすでに闇を
ドルイドはこの部屋に防音の呪いを施してから口を開いた。
「…巻物は見てくれたかしら?」
「ああ。」
「見せてちょうだい。」
そう言うとディヴァンはドルイドの隣に来て、ベッドの上に巻物を広げ始めた。
「人間が創ったものにしてはよくできている。」
珍しく感心の言葉を寄せるディヴァンを一瞥してからドルイドは口を開いた。
「この薬には不治の病を癒す力があると言われているの。その力が身体を侵す病以外にも有効なのか知りたいのよ。精神疾患や呪い…それに―――…」
「吸血鬼の血か?」
はっと顔を上げ、男を見返す。
「できるの?」
「吸血鬼は病ではない。あれは生き物として完成された姿だ。」
「わかっているわ。
私が聞いているのは、巻物の解釈を変えられないかということよ。」
ディヴァンは片眉を軽くあげて興味を示すような表情を見せた。
「ふむ。霊薬の効能自体を
お前たちが考えそうな傲慢な所業だ。」
「できるの?できないの?」
「不可能ではないだろう。
だかこれを解読し、薬を完成させるまでに人生を使い果たすだろうな。」
ドルイドは溜息をついた。
「つまりこの巻物で救えるのは身体疾患だけということね。」
ディヴァンは眉根を上げる。
「どうしてそんなことを考えたんだ?」
「それを考えた魔法使いがいたのよ。」
ディヴァンは解せないという気配を見せたが、ドルイドはそれ以上答えなかった。
ドルイドは興味が失せたとばかりにその場を離れる。
「この巻物はあなたに預けるわ。誰にも触れられないところに隠してちょうだい。」
そう言って部屋を出ようとしたドルイドにディヴァンが声をかけた。
「あの夜何があったのか知りたければ、さっき奴に抱かれていればよかったんだ。そうすれば肌の記憶を読めた。」
ドルイドはぐっと立ち止まった。
さきほどレイモンドを拒絶した理由をディヴァンは気づいている。
「…見てたのね。
悪趣味だわ。」
「シーツの記憶に触れて、人の
ドルイドはかっとなって、ディヴァンを睨みつけた。だがディヴァンは気にした風でも無くただ面白そうに笑みを浮かべている。
「あの2人がどこまで何をしたのか、私が教えてやろうか。私は全てを見ていたのだから。」
「…彼女は…無垢だと聞いたわ。」
ドルイドは歯を食いしばるように告げる。
「貞操を失わずして、愉しむ方法はいくらでもある。」
「…ディヴァン、あなた面白がっているわね。」
「慰めてやろうか?
あの時のように。」
ドルイドは腕を振ってディヴァンを強制的に消した。
だが姿が無くとも彼の高笑いが聞こえてくるような気がする。それが幻聴なのか、現実なのかわからないからこそ、頭がおかしくなったような気にさせられる。
苛立ちまぎれに頭を抱えるとドルイドは思わず目の前にあった燭台を壁に投げつけていた。だがそれでは気がおさまらず、次は花瓶を両手で掴み床に投げつけていた。
花瓶は大きな音を立てて粉々に砕け散る。
バラバラになった陶器の破片を見とめると、ようやく心が落ち着いていくのがわかった。自分の感情が形を無くしたような気がしたからだ。
ドルイドは暗い満足感を得て部屋を出て行った。
Dark Fellows ダーク・フェロー 壇上あい ダンジョウアイ @luv
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