第42話 彼の罪 【ウェザークローハウス】

「ネックレスを外すべきだ。」

「どういうこと?」


ドルイドが魔力の源と体との繋がりをほとんど断ち切ったところで、彼が声を上げた。


「その方がうまみがある。

子は飢えている。」


ドルイドは目の前の作業を続けながら、彼の提案について考えた。つまりネックレスで押さえ込んだ魔力を彼女と断ち切る直前に解き放つということだ。そうすれば魔力を最大限に蓄えた塊が手に入る。


「…危険だわ。」

「私が補助をする。

お前は私の指示するタイミングで最後の繋がりを切ればいい。」

「…だけど、もし失敗したら…。」


その続きは言えなかった。

彼に言っても虚しいだけだ。

彼は自分の利益でしか動かない。

違う、ドルイドの利益でしか動かないのだ。


「わかっているのか。

お前はあれにもう半年も何も与えていない。」

「…わかっているわ。

いいわ、やってちょうだい。」


すると男はツカツカとエレクトラの頭部に歩み寄り、ネックレスに手をかけた。

ドルイドはすかさず男に忠告する。


「切らないで。

それは彼女の母親の形見なの。」


男は鼻で笑った気配を見せたが、ドルイドの言葉は聞き届けてくれたようだった。

ドルイドは魔力の源と彼女との繋がりが一本残したところで、呼吸を整えた。


「いいわよ。」


男はそっとネックレスを外した。

するとドルイドにもわかる魔力の唸りがエレクトラの中から巻き起こった。

彼女がその変化に反応し、苦しげに喘ぎ始めたが、暴れても問題ないように両手足は手錠で繋がれている。ドルイドはただその様子を見守るしかなかった。

魔力の源が解放されたことに気づき、どんどん魔力の生産を強めていく。

だがそれを流す先がないため、それは苦しげに己を増大させていった。

ドルイドは破裂するのではないかと焦り始めたが、男の合図はまだない。

唯一の繋がりの管も悲鳴を上げはじめたところで、ドルイドは男を振り向いたが、彼はドルイドに目もくれず、ただ魔力の根源だけを見つめていた。


「まだなの。」

「まだだ。」


ドルイドは内心焦りを覚えながら、彼を見つめ続けた。よもや彼がエレクトラを見殺しにしようとは考えてはいないだろうが、後遺症が残るくらいは平気だと思っているかもしれない。ドルイドは自身の判断を信じることにした。

もう魔力の根源ははちきれんばかりに膨張しているのだ。


「切るわ。」


そう言って手に力を込めたところで、ドルイドの両手首は掴まれた。

いつのまにか彼がそばに立っていたのだ。


「まだだ。」


ドルイドは男の手を振り払おうとしたが、びくともしない。怒りのままに男を睨み付けると、冷たく光る金の両目とかち合った。

そして次の瞬間、ドルイドは雷に打たれたような衝撃を受けた。

彼の目に隠された真実が、ドルイドの血を逆流させ、気づけば怒りのままに叫んでいた。


「ディヴァン!…お前!!」


 今だ


ディヴァンの言葉に、はっと我に帰ったドルイドは反射的に目の前の塊に手を伸ばしていた。

それはあっという間の出来事だった。

ドルイドが塊から伸びる管を断ち切ると、ディヴァンはその塊を掴み取り、塊に吸い込まれるように姿を消したのだ。


その瞬間、辺りは闇に包まれた。

これで全ての施術が終わったのだ。


ドルイドは放心状態でへなへなとその場に座り込むと、震える両手で顔を覆い、声にならない呻き声を上げた。

あの両の目を見てドルイドは気づいてしまったのだ。

あれは、猫の目だった。

 

 ディヴァンがあの猫だった。

 ディヴァンが2人をそそのかした。

 

そしてディヴァンの罪は、なのだった。


ドルイドは失意のうちに床にひれ伏していると、どこかで赤子の泣き声が聞こえた気がした。

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