第34話 ゲイリーの望み フェイスの望み

「そんなに不安なら俺で実験してみるといい。俺が“望み”を言ってやろう。

俺の望みはな、その巻物自体に興味なんかないんだよ。ここへ来たのは、ただここにいる連中がこの巻物に群がって右往左往する姿を見たかっただけだ。

それが俺がここへ来た理由だ。

どうだ、俺は嘘をついているか?」


彼の言葉に周囲は目を丸くすると、全員がすぐにペルソンヌに注目した。

ペルソンヌは相変わらず切れ込んだ笑みをたたえていたが、その顔はじっとゲイリーを見つめている。ゲイリーの考えを探っているのかもしれない。しばらくの沈黙の後、彼はおもむろに口を開いた。


「…うむ、なるほど。

あなた様の望みは本物のようだ。

確かに巻物に欲望を抱いてはいません。」


ゲイリーは満足げに鼻を鳴らした。


「本当のことだからな。」

「…だがまだ何かを隠している。」


ゲイリーはここで眉根を寄せる。


「どういう意味だ。」

「確かにあなた自身は巻物に興味はないようですが、あなたのそばに巻物を求める者がいる。もし自分が手に入れば、その者に渡してもよいと思っている。」


驚いたことにここでゲイリーはちらりとカーライルに視線を向けた。


「確かにそうは思ってるが…」

「いえ、彼ではありませんよ。」


ゲイリーは怪訝な表情を浮かべたが、ペルソンヌはただゲイリーの隣に視線を向けたのだった。ペルソンヌと目があったフェイスは目を丸くした。


「…え…私?」


フェイスの戸惑いの言葉を遮るようにゲイリーは立ち上がっていた。


「ちょっと待て…!

なんで俺がこの女に…!

こいつに渡すくらいなら、自分で使う…!」


そう弁明するゲイリーの顔は真っ赤である。周囲もどう反応していいかわからず、神妙に様子を伺っていたが、カーライルは笑ってしまった。というより笑ってやることにしたのだ。それを見てゲイリーはさらに声を荒げた。


「カーラ…カール!

てめぇ、笑うな!!

仮面野郎も覚えとけよ!

そんな話はここでする必要はねぇだろ!!」


そうやって騒げば騒ぐほど、自分の望まない状況に陥ることが頭に血が上った彼にはわからないのだ。

そんな彼を沈めたのは、誰であろうフェイスの言葉だった。


「ゲイリー、本当なの?」


この質問にゲイリーは急に大人しくなった。フェイスが熱心に見つめるので、ゲイリーは耐えきれずそっぽを向いてぼそりと答えた。


、だ。

俺が手に入れられるとは思わねぇが、もしも手に入ったらお前にくれてやってもいいと思ってただけだ…。」

「まぁ、ゲイリー…。」


フェイスは感動したように声を上げ、そっとゲイリーの手に自分の手を重ねた。ゲイリーはぎよっと肩を硬らせて慌てる。顔はまた赤みを浴び出した。


「こんなところでやめろ!

俺は幼馴染みのよしみで、ちょっとそう思ってただけだ!

ちょっと頭を掠めただけなのに、仮面男め!俺の頭をほじくり返しやがって!!」


そう言ってゲイリーはペルソンヌを睨みつける。


「実験台だと仰って頂きましたので、そのようにしたまだでございます。

つまり私の力がわかるようにお話ししたのです。ご協力感謝致しますよ。」


ペルソンヌが悪びれずに告げると、ゲイリーはふてくされたように両手を組んで、投げやりに座った。フェイスは苦笑を漏らし、手を挙げるとペルソンヌに向き直った。


「では、幼馴染みの自己犠牲の精神に敬意を表して私もお話し致しますわ。

私は巻物を使いたいとは思っていませんの。“永遠の命”も“蘇り”も恐ろしくて想像もしたくありませんわ。

だってそれを手に入れれば、私は大切な存在を失う気がするのですもの。」


そう言ってちらりとゲイリーに視線を向ける。ゲイリーは驚きで目を見開いたが、フェイスはすぐにペルソンヌに再び向き直った。


「…だけど師匠には認められたいと思っていますの。それを持って帰れば、私もきっと一人前として扱ってくれるはずですもの。

だからここに来たんです。」


そう締め括ったフェイスをペルソンヌはしばらく見つめ、ゆっくりと頷いた。


「そのようですね。

お二人の立派な振る舞いに感謝致します。」


それを聞いてフェイスは強張ってはいたが、そっと笑みを浮かべたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る