第29話 入城

『興味深い連れができたわね。』

「そんなにいいものではないよ。」


ドルイドの言葉にカーライルは顔をしかめた。


『でもコネクションは大事にしておかなければ…。“荒野の魔女”は聞いたことがあるわ。確か”北の魔女”の弟子だったわね。

のろいが得意だと聞いたことがあるわ。』


低められた最後の言葉に、カーライルは頷く。


「ああ、彼女が実行犯の可能性はある。」

 

誰がブロムトン卿を呪ったのか見つけなけらばならない。フェイスもゲイリーも、もちろん疑わしい人物なのだ。


『ゲイリーという魔法使いは聞いたことがないわ。どんな魔法使いなの?』

「粗野で、乱暴で…食えないやつだ。

だが実力はあるようだ。」

『…気をつけてね。

晩餐会でも気を抜かないで。

とにかく周囲の動向に集中して、あなたはあまり目立たない方がいいわ。』

「ああ、そうしよう。」


ドルイドと繋がった状態で、カーライルは2人に合流した。


「遅かったな、何してたんだ。」

「もともとは、あなたが私の準備の途中で部屋を訪ねてきたんですよ。」

「別に俺は着替えるつもりはなかったんだ!この白い胸当が邪魔だ。お前たちはこんなバカバカしい格好をいつもしているのか?」

「いつもではありませんよ。式典や格式高い場所で着用するんです。」


おれは貴族に生まれなくてよかった、とぶつぶつ呟くとゲイリーはフードを被りながら歩き出した。カーライルたちもフードを被って彼についていく。カーライルはゲイリーの背中を不思議な気持ちで見ていた。今の彼からは昨日の夜に感じた薄寒さは微塵も見受けられない。カーライルは彼の本性を測りかねていた。ゲイリーを見つめるカーライルにフェイスが声をかける。


「ほっといて大丈夫よ。いつも何でもいちゃもんをつけるんだから。」


ゲイリーの文句を気にしていると思ったのか、フェイスが口添えた。カーライルは小さく笑みを作って、フェイスに話しかけた。


「2人は一緒にこちらへ?」

「一緒に…ってわけではないけれど、でも必然かしらね…。彼は面白い事はシェアしたがるのよ。それで彼も招待状を受け取ったことを知ったの。どうせ晩餐会で会うならと、私も招待状を見せたのよ。」

「荒野の魔女殿は、北の魔女殿の名代でこちらへ?」

「いいえ、私は私の希望でここに来たわ。師匠には手紙は届かなかったの。もう結構な年齢だから後継者向きじゃなかったのかもしれないわ。」


そう言う彼女の声は心なしか寂しげに響いたが、フードを被った彼女の表情は判然としなかった。ふっとここで笑いが漏れた。彼女が笑ったのだ。


「ディギンズ一族の長男と知り合えたと言えば、師匠も驚くかしら。」

「私も荒野ムーアの魔女に御目通り叶ったとなれば、父も羨むでしょう。」

「もとはと言えば、俺のお陰だろうが!」


いつの間にか歩くペースを緩めていたゲイリーが話題に入って来た。


「おい、もうすぐだぞ。

招待状を出しておけよ。」


3人の目の前に、松明に照らされる鈍重な石造りの門が現れた。ゆらゆらと照らされる岩壁はところどころ苔むしたり、黒ずんだりしていて、長い時の流れを感じさせる。何者も寄せ付けない雰囲気が漂うのは、中世は要塞として機能していたこともあるのだろう。

3人は馬車が1台通過するのを見届けてから、門をくぐった。


「それにしても不気味なくらい静かね。

本当に監獄なのかしら?」

「城全体に眠りの呪文がかけられてるんだよ。じゃねぇとこんなに堂々と入れるわけがねぇだろ。」


最後にお前はばかかと罵られ、フェイスが再び怒りの矛先をゲイリーに向けようとしたところでカーライルがそれを止めた。

2人がカーライルの視線の先を追う。

ちょうど、3人の前を通過した馬車が時計台の前で止まったのだ。時計台の背後には、ひときわ存在感を放つ建物があった。ランカスター城の心臓部と言われる天守ノーマンキープだ。敷地内で最も堅固とされていて、最上部に設けられた王冠のような胸壁きょうへきは、中世の要塞だった頃の姿を忍ばせる。


「どうやら、あそこが我々の会場のようだ。」

「ウェルタワーじゃなくてよかったな。」


にやりと笑う気配を見せたゲイリーにフェイスが反応する。


「ウェルタワー?」

「ペンダルの魔女たちが幽閉されていたという塔ですよ。」


カーライルが時計台のちょうど向かいにある建物は指さして説明した。今は暗くてあまりよく見えないが、フェイスは真っ青な顔をして身震いする。


「本当に悪趣味だわ。どうしてこんなところを選んだのかしら。」

「そうやって怯える俺たちを見たいんだろ。」


ゲイリーが腹を抱えて笑う。本当にこのメンバーは混沌カオスだとカーライルはうんざりした。先程から何の反応もないが、ドルイドもこの状況を見てくれていると思うと少しだけ心が慰められた。


「さぁ行きますよ。

晩餐の時間までもう少しです。」


そうして3人は天守キープの方へ歩き出した。

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