第12話 本当のこと
居間のカウチに寝かせるとカーライルが優しくお
その言葉がまるで子守唄のようでエレクトラの表情はどんどんと和らぎ、呼吸も安定していった。メアリは震える唇でなんとかお詫びを告げる。
「ごめんさない…。
私…何て言ってあげればいいかわからなくて…。」
「…何か話していたのかい?」
カーライルがエレクトラの頭を撫でながら尋ねた。
「私は死ぬに違いないって…。
みんなが優しくするのもそのせいだろうって…。」
「…そんなことにはならない。
どうしてそんな
カーライルの口調は鋭かった。
「とにかく私が離れていたのが問題だ。
騒ぎを起こして…」
申し訳なかった、と謝意を伝えようとしたカーライルの言葉を、メアリは
「妄言だなんて…ディギンズ氏は本当にそう思われていますの?」
メアリのただならぬ空気にカーライルははっとして顔を上げた。
彼女が涙を浮かべながらこちらを見据えている。
「彼女の不安を妄言などと…。
周りが何かを隠すように立ちまわって、大丈夫だと繰り返し言われれば、誰でも不安になりますわ。毎日、痛みに耐えているのは彼女自身なのですもの。
そんな日々を過ごしていれば、大きなことが起こらなくとも心が擦り切れていくものです。それに彼女はもう十分大人ですもの。本当のことを話して差し上げなければだめですわ。そうして一緒に考えてあげなければ…。」
「姉さん。」
ドルイドが
「メアリー嬢の言葉も一理あるかもしれませんね…。」
「…では、その職人は見つからないかもしれないのね。」
「あれを修理できるだけの技を持つ職人を見つけるのは簡単ではないということですわ。」
「他にも方法があると言っていたわね?」
エレクトラはカウチに横たわりながら何の
「ありますわ。」
「…それはどんな方法なの?」
「あなた様の魔力をつくりだす源を取り去るのです。」
「…それは痛みを伴うものなの?」
「眠っている間に行いますので痛みはありませんわ。」
エレクトラが身体を起こそうとしたので、メアリーが体を支えるためにそっと手を貸した。エレクトラが姿勢を整えるとドルイドを見据えて尋ねた。
「どうしてすぐにその方法を教えて下さらなかったの?」
「一般的には知られていない術ですし…高度で複雑な術なのですわ。」
それを聞いてエレクトラの表情が青ざめた。
「死ぬこともあるの?」
「失敗すれば…。」
「だがあなたはすでにその方法で5人も救っていて、失敗したことがないのだろう?」
不安げなエレクトラを見てカーライルが口添える。
「ええ。それも事実ですわ。」
エレクトラはほっと強張りを解いた。
「では、その術を試したいわ。」
「いいえ、すぐにはできませんわ。
もっとよく考えてから答えを出してください。」
エレクトラは目を丸くしてあっけにとられた。
「私がいいと言っているのよ。」
「確かに私はこの術に慣れていますが…危険がないとは言えないのです。
あなたがはじめての失敗になるかもしれないのです。時間はまだありますからそのこともよく考慮してから結論を出して下さい。」
「…父の許可は必要かしら?」
「いいえ、むしろこれは他言無用の術なのです。ですので存在も見たことも、これから一生の秘密にして頂きたいと思っていますわ。」
エレクトラはドルイドの目を見据え、ゆっくりと頷いた。
「ありがとう、ドリー。
ゆっくり考えてみるわ。」
ドルイドは仕事は終わったとばかりに立ち上がった。
「どうして、全てを話してくれたの?」
エレクトラがドルイドを見上げて尋ねた。
「真実を話した方がいいと姉に言われたので。」
突然、引き合いに出されてメアリは驚いてしまった。
「まぁメアリー、ありがとう。」
エレクトラに疲れてはいたが優しく笑みを浮かべた。メアリも困ったように笑い、少し戸惑いながらも話し出した。
「私も実は昔…とても体が弱くて屋敷に閉じこもっていたんですの。
すぐに良くなるとみんなに呪文のように言われ続けて…でもとても苦しくて…
毎日体は思うように動かないし…。
みんなの言葉が信じられない時もあって不安だったんです。だからエレクトラ嬢の気持ちはよくわかりますわ。
ピクニックをしたいと言ったときも、叶えて差し上げたいと思ったんですよ。
私も昔、同じことを考えていましたもの。
だから決して気をつかって優しくしているんではないと信じて下さいな。」
エレクトラはここで思わず涙ぐんだ。
「ありがとう…、メアリー。
ありがとう、ドリー…カーライル…。
私、頑張るわ。不安に負けないように、苦しみに負けないように頑張るわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます