第24話 カーライルの相談
メアリーたちを一度モレル氏の書斎に運び、休憩室にあるカウチを運び込んで2人を寝かせることにした。2人の身体に大きな問題がないことがわかったところで、モレル氏はついに口を開いた。
「それで…その幽霊はいったいどこに?」
モレル氏はそわそわしながらあたりを見回している。どうやらこの部屋に彼がいると思っているようだ。ドルイドはモレル氏に向き直って説明する。
「彼はここにはいませんわ。彼は今マクシムに飾られている絵の中にいますの。」
「絵の中!」
モレル氏は驚いて素っ頓狂な声を上げた。
ドルイドは、ええ、と頷いて請け合う。
「1つだけ舞踏会の絵がありましたわね。
あの絵の中です。」
「それは絵の中からその紳士が飛び出してきたということですか?」
「いいえ、あれは間違いなく死人の魂です。
本人が死んでいることに気づいているかはわかりませんが…あの絵に憑りついているようですわ。あれはどこで手に入れたものか覚えておられますか?」
モレル氏はすこし難しい顔をしながら答える。
「…あれは私の父の代に、このマクシムでの舞踏会を描かせたものです。確かもう40年程前になるのではないでしょうか。」
「その画家は今もご存命ですか。」
「ええ、おそらく…。
実はあの絵を我が家の屋根裏部屋で見つけた時に…おお…なんてことだ!」
モレル氏はここで何か重大なことを思い出した様子で両手で顔を覆って叫んだ。
「あの絵を発見したのがちょうど3年前です!彼が現れたのもその後です!
屋根裏の倉庫を整理している時に、埃を被っていたのを私が見つけまして…
マクシムの栄光の時代を描いた素晴らしい絵だと思いましてね。そうして今のあの位置に飾ることにしたのです。」
「それであの絵が目覚めてしまったのですね。」
「…すっかり忘れておりました。
申し訳ない…。」
ドルイドは首を横に振った。
「いいえ、氏に落ち度はありませんわ。
誰も絵画がこの事件に関わっているなんて思いもよりませんもの。
それで、あれを描いた人物は今も連絡は取っておられるのですか?」
「ああ…そうでしたね。
そう、ちょうど3年前にあの絵を発見した時に画家の署名がありましたから調べましてね。名前は確かベン・クーパーです。
少し状態を見てもらおうと呼び寄せたのです。3年前はイーストエンドに住んでいましたが今はどうしているか…。
必要でしたら使いを出しますが…?」
「そうして頂けるとありがたいですわ。
できれば明日にでもお話を聞きたいと思っているのです。
それとこの会がお開きになったところであの絵を確認させて頂きますわ。
もう今夜は例の幽霊があなたを
その言葉を聞いて束の間モレル氏の表情が和らいだ気がしたが、すぐに落ち着かない様子でそわそわとし始めた。
モレル氏の視線が傍で眠るメアリとレイモンドに向けてれているのを見てドルイドはモレル氏が考えていることを察した。
「この2人のことはどうかお気になさらず。
気を失っているだけですわ。
それに今回の件とはなんら関係のないことなのです。
どちらかというと私の落ち度ですわ。
ですのであなた様が気に病むようなことは何もありませんわ。」
「本当に目覚めるのでしょうね?」
「ええ。」
ドルイドは安心させるようにゆっくりと頷いた。
ここでやっとモレル氏はほっと肩を撫でおろし、では私はお客人たちのお見送りに出てきます、と言って部屋を出て行った。
ドルイドは扉が閉まるのを確認して背後の人物に声をかけた。
「いつまでそこにいるつもりなの?」
気配消しをしていたカーライルが
「少なからず関わったわけだから、全貌が気になってね。」
「全貌というほどのものではないわ。
…それよりエレクトラ嬢はどうしたの?
そばについていなくて大丈夫なの?」
「彼女はもう帰ったよ。」
ドルイドは訝し気な表情を浮かべる。
「あなたの役割は何なの?」
カーライルは自身のポケットウォッチを確認し、時間はまだあるね、と言ってから身を乗り出して囁くように話し出した。
「ドリー、気づいているかもしれないが私も困った状況にあってね。
エレクトラ嬢とあのネックレスのことだ。
話を聞いてくれるかい?」
ドルイドは沈黙を通したが、それを肯定と捉えたカーライルはついに口火を切った。
「あのネックレスは魔術が解けかかっているんだ。」
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