第6話 キッチン騒動
ドルイドが目を覚ましたのはクリスマスパントが始まる時間の3時間前だった。
クリスマスパントは夕方の6時から公会堂で行われる。
時間的には問題ないがジェイクの様子が気になったのですぐに彼のもとを訪れた。
部屋に入ると本を読んでいたメアリが顔を上げる。ドルイドの顔を見て少しほっとしたように言った。
「少し顔色がよくなったわね。」
「ジェイクはどう?」
メアリは首を横にふる。
「熱があがってるわ。」
この時間帯は熱があがるのは仕方ないが油断はできない。症状が悪化していないとは言えないからだ。だが今はジェイクの体力を信じるしかない。
「何かあったら知らせてちょうだい。」
ドルイドはそう言って周囲に視線を巡らせた。
「彼は…?」
ドルイドが誰のことを尋ねているのかを察すると、メアリは気まずそうな顔になる。
ドルイドは眉間に皺を寄せた。
メアリは慌てて答えた。
「エイミとスコーンを焼いているわ。
お菓子の作り方を見てみたいとかで。
スコーンならすぐに作れるからとエイミが彼をキッチンに連れて行ったわ。」
ドルイドが信じられない、という顔でメアリを見返す。
「だって、エイミは彼を小さな子どもだと思っているのよ。
私が、彼はおそろしく気まぐれでしかもあなたをカブに変える力があるから連れて行かない方がいいわ、なんて言えないじゃない。」
「私を起こしてくれたらよかったのよ。」
「そうね。でもあなたは丸一日眠ってないでしょ。起こすなんてできなかったのよ。」
悲し気にそんなことを言うメアリに、それ以上何も言えなくなった。
とにかくドルイドはキッチンに向かうことにした。本当にエイミがカブに変えられていないか気が気でなかったのだ。ドルイドがキッチンに駆け付けると、エイミはちゃんとそこにいた。カブにはなっていなかったが、真っ青な顔で部屋に入って来たドルイドに
「ドルイド様!!よく来てくださいました!
今、お呼びしようと思っていたんですよ!
もう、私はどうしたらいいかわからなくて!このレンジはどうにかしてしまったんですよ!」
そう慌てるエイミをなんとか落ち着かせて、レンジの前に立つと確かに薪をくべるところから立ち昇るように火が燃えていた。キッチンに熱が
ドルイドは辺りを見回すとすぐに目当ての人物を発見する。作業台の下に隠れたパッツィがそっとこちらを見ていた。ドルイドが近寄るとパッツィは、へらへらと気の抜けた笑いを見せる。
「早く焼ければいいと思ったんだ。」
「あれでは焼き菓子は丸焦げになってしまうわ。あなたの食べる分はないでしょうね。」
ドルイドの言葉にショック受けたパッツィは立ちすくんで動けなくなってしまった。そんな彼を無視してドルイドはレンジのもとに戻ると、エイミに離れているように言ってトングを手にした。ドルイドはエイミに聞こえないように
「まぁドルイド様!ありがとうございます!何をしても消えなかったので、屋敷を燃やしてしまうかと思っていたんです!」
本当にそう思っていたのだろう、エイミや今や安堵で作業台に寄りかかってへたり込んでしまった。かわいそうにエイミは、初奉公で屋敷を火事にする危機に直面したのである。
「これで大丈夫よ。これからも何かあればすぐに私に言ってちょうだい。」
「ありがとうございます。」
そう言って、エイミは傍にいたパッツィに力なく微笑んだ。
「ごめんなさいね、パトリック坊や。これでスコーンが焼けるわ。」
パッツィは気まずそうに頷いた。ドルイドは呆れてその姿を見ていたが、時間が迫っていることに気づいてエイミに声をかけた。
「エイミ、キッチンは任せるわ。パトリックとは話があるから連れて行くわね。
あと夕食の用意が出来たら、今夜は実家に帰っていいわ。
それと七面鳥は持って帰ってちょうだい。
ジェイクがこんなことになってしまったから、今日はクリスマスディナーどころではないもの。」
エイミはその言葉に喜びを隠し切れないようだった。一人前に働いてはいても、まだまだ食べ盛りの子どもなのだ。
「でもジェイクさんが心配です。
せめて明日の朝まではここにいさせて下さい。そういう約束でしたもの。」
クリスマスの次の日は、エイミに
「怒ってる?」
ドルイドはうんざりして答えた。
「怒っていないわ。」
どうして誰もかれもドルイドの機嫌を伺うのか。
「早くスコーンが食べたくて、火にお
エイミが困るのは当然だろう、火かき棒でかきだしても、水をかけても消えないのだ。
その時のエイミの気持ちを考えると本当にかわいそうだと思う。
「もういいわ。とにかく今からあなたの最大の望みを叶えるために支度しないとだめなのよ。さぁレイモンドになって準備をはじめないと。」
先程の落ち込み用など嘘のように、パッツィは喜びで部屋中を跳ねまわった。
「ドリーも早く支度しなきゃね!」
ドルイドは飛び跳ねるパッツィを目で追いかけながらも冷静に答えた。
「私はコートを着れば
そこでパッツィはぴたりと動きを止めて、いたずらな笑みをドルイドに向けた。
「それはどうかな。」
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