第6話 メアリの提案

牧師館までの道すがらメアリはこの屋敷に来てからずっと尋ねたかったことを口にした。


「ねぇドリー、私ずっと思っていたんだけれど、どうしてメイドを雇わないの?

こんなに不便なことってあるかしら?おかげで着替えもままならないし、お客様が来ても恰好がつかないじゃないの。」


まるでもう何年も我慢しているかのように、うんざりした顔でメアリは訴えた。

ドルイドはいつか言われるのではないかと思っていたので、メアリの言葉に動揺することは無く冷静に答える。


「あまり、あの屋敷に人を入れたくないの。私はそういうのを好まないのよ。

今の生活で十分に満足しているもの。」


メアリもまたドルイドの反応を予想していたので、ドルイドから譲歩をもぎ取る準備はできていた。


「では知り合いならよいのね。」

「本家から連れてくるのは絶対に許さないわ。」

「もちろんそんなことはしないわ。でもねドリー、考えてもみてちょうだい。

ジェイクは何でもしてはくれるけれど、でも彼ももう年だし誰かが彼の負担を減らさないと。それに男性使用人がいるのに、女性がいないなんて不自然よ。」


男性使用人を雇うということは上流階級のステータスのひとつである。つまりとても高級な買い物なのだ。実利よりも見栄え的な要素もあるため資産のある家しか雇わない。またジェイクは本家で執事を務めることもできた程、優秀だった。

レディングの屋敷に残っていれば、実際にはそうなっていただろう。だがジェイクはこの屋敷では執事でもないし、ドリーの暮らしぶりを見ると本来払うべき給料を渡しているとは考えにくかった。

もちろんドリーやジェイクにそんなことを尋ねるわけにはいかないので、全てメアリの推測になってしまうが、それでも現在の状態ではジェイクの負担が大きいことは間違いないだろう。

ドルイドの性格からして、この事実に少なからず心を痛めているはずだと考えればメアリの提案を無下にできるとは思えなかった。


「メイドのお給与のことは気にしないでちょうだい。私もちゃんと自分が自由にできる資産はあるのよ。ここに転がり込んでメイドが欲しいと言っているのは私なのだからお金の心配はしないでね。」

「そこまで言うのだから、あてはあるのでしょうね。」


メアリは心の中で歓喜した。あと一押しだと確信する。


「フィリック夫人の5番目の娘さんよ。まだ奉公先が決まっていないとこぼしていたもの。まだ声はかけていないけれど、これ以上の適役がいて?お仕事も夫人から教わればいいし、親元の近くで働けるならそれに越したことはないでしょう。」


メアリ自身はその娘に会ったことは無かったが、夫人曰く明るく快活な子だと聞いている。何よりあの夫人の子どもなのだからメアリはあまり心配はしていなかった。


「5番目ということはエイミね。」


どうやらドルイドは面識があるようだった。何か少し思案気な様子で歩みを進めていたが、ついに口を開いた。


「雇うからにはいくつか約束事があるわ。」

「ええ、もちろん。面接をする必要があるから、あなたにもその場にはいてもらうしあなたがして欲しくないことはさせないつもりよ。ああ、ドリーありがとう!

これでたいぶあの屋敷も暮らしやすくなるわ!」


まだ何も始まっていないのにメアリの展望はすでに明るかった。ドルイドは深く溜息を吐いて、こうして何もかもメアリの言う通りになるのではないかと内心不安になった。

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