19 妙子Ⅰ
妙子は、紀雄に付き添っていた。
紀雄は、中庭から戻ると、二階に上がった。妙子もその後ろに続く。
今朝から、なにが起きているのかよくわからなくて不安だ。ここがどこなのか、いま自分達になにが起きているのか、それがわからないことも不安だが、なによりも妙子が脅えるのは、そんな状況なのに、みんなてきぱきと行動していることだった。
まるで学祭のときみたい。育枝でさえ、いらいらしている感じはするけれど、怖がっている様子はない。
どうして?
みんな怖くないはずがない。みんな、怖いんでしょ?
なのにどうしてみんな平気そうな顔をしているの? それがたまらなく怖い。
二階は一階より狭かった。ドアが三つ。
二つは空っぽの部屋で、窓から光と風が入って来ていて、この家の中ではだいぶすがすがしいほうだ。
手前の部屋だけは、物が詰まっていて薄暗かった。
妙子は―自分だけではなく、女一般がそうだと思うのだが―薄暗い部屋というのは苦手だ。
なにもお化けがでるとかそういうことではなくて、お化けなんかいらなくて、ネズミとか、ゴキブリとか、名前も知らないようなカサカサ動く虫とか、そんのがいると思うだけでトリハダものだ。
この部屋は物置らしいから、ここを探すと、なにか役に立つものが見つかるかもしれない。でも気味が悪くて入りたくない。
そうやって妙子は入り口で躊躇していたが、紀雄はずかずかと中に入っていった。
彼は袖で口を覆って埃を避けながら、棚、段ボール、本の山、なんだかわからない木の枠、かつては家の中に飾られていたのか、ちょっと大きめの壁掛け時計、そんな無造作に積まれた物をざっと眺めた。
ボートやイカダがこんなところで見つかるはずはないのは、妙子にもわかっていた。
でも、なにか、食べられるものでも見つからないだろうか。缶詰とか、そういうの。
そういえば、喉も乾いた。粘膜が貼りついて喉を封鎖してしまいそうだ。
紀雄は黙々と荷物を漁っている。妙子は、紀雄に期待して待つことにした。
なんといっても、いま妙子が誰よりも頼れるのは、紀雄をおいて他にいない。
育枝はいつもなら頼りになるけど、今日は―こんなことになっているから当たり前といえば当たり前だけど―機嫌が悪くていらいらしている。
賢司と辰也はなんだかふざけているような感じがしてちょっと頼りない。由里は一人で勝手に動き回っている。
いま、妙子に気を遣ってくれているのは、紀雄ぐらいだ。
それに、紀雄は、ちょっと乱暴で怖いところもあるけれど、それが裏返してたくましい感じでもある。
うん、この島にいる間は、紀雄と一緒にいよう。
そう、妙子は決めた。
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