18 紀雄Ⅰ

紀雄は、この家の、なんとなく陰気な空気を払いたいと思い、窓という窓を開け放つことから始めた。


紀雄が移動すると、妙子もくっついてくる。

妙子はかなり脅えているようで、紀雄から決して離れない。


由里も始めは同行していたのだが、途中で彼女は、一人で調べると言って、彼らと別れた。

紀雄は、由里のことがそんなに好きなわけではないので、彼女が離れてくれることは大歓迎だった。

由里に見られると、なにもかも見透かされているような気がしてきて、気分が悪い。


賢司は由里のことを悪く思っていないようで、どうにも理解に苦しむ。

もっと頭のいい奴だと思うのだが、女には弱いのか。

もう少しマシな女がいくらでもいると思うし、賢司ぐらいの男なら、そういう女を引っかけるのも簡単だと思うのだが。


まあ、この旅行に賢司がいたのは大助かりだった。

こんなわけのわからないことになってきて、このメンバーでもし賢司がいなかったら面倒だっただろう。

賢司がいれば、面倒なことは賢司に任せられるし、いざとなったら責任も押しつけられる。


そんなことを考えながら、紀雄は、窓を開けるついでに家の中を調べていった。


一階は、玄関があり、そこから廊下がつながっていて、廊下は階段に突き当たるとL字に折れている。

階段までの左右にはリビングのような部屋があった。


突き当たりを折れた先は行き止まりで、正面に勝手口らしきドアがあった。

内側からなので鍵を開けてみると、中庭とでもいうべき空間に出た。


林の一角が、草の茂った空き地になっている。

草の間から、白く四角い豆腐みたいな石が何個か突き出ているのが見えた。

なんだろう。なにかのオブジェだろうか。


他にはなにも見るようなものはない。

まあ、なにか気になることでもあれば、賢司か由里が勝手に調べるだろう。

あいつらは、そういうことが好きそうだから。


面倒なことは人に任せて、紀雄は、せっかくのチャンスに、妙子をどう陥とそうかと考えていた。

うちのクラスの可愛い女は、どうもみんなガードが堅かったけれど、こういう非常事態なら話は別だろう。

こういうときの女は、えてして精神的に弱くなるものだ。


なにが起きているのかは知らないが、なかなかいいチャンスが巡ってきたものだ。

紀雄はいい気分だった。

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