119 繋がる世界と新たな課題
人族のパワーバランスは王族を中心とした一枚岩となり、そこに俺と冒険者ギルドの根を巡らせることに成功した。大まかな体制は整ったと言えるだろう。
ここからは人族と他種族のバランスを取りつつ、積極的に他種族を受け入れ迷宮の攻略を進めることで人間の生存域を広げていくことになる。
他種族が力を持ちすぎれば、逆に人族を追い出して迷宮を独占しようと考えるかもしれない。人族は他種族とは違い迷宮を追い出されては生きていけないため、そういう意味でも種族間のバランサーとしての冒険者ギルドの役割は大きくなっていくだろう。
種族間の交流も徐々に活発になっていくはずだ。
その先駆けとなるのは当然レインベル領だ。
種族間の交流が活発になれば強力な装備が生まれ、それを装備した種族の垣根を超えた冒険者パーティが活躍する日も訪れるだろう。
それを目にすることで種族間の差別意識も減っていけば良いのだが。
もちろんすぐにすべてが上手く回るわけではないだろう。まだまだ問題は山積みだ。
だが、種族融和のための下地ができたことは事実だ。
宝を得るために土を手入れし、種をまいて水をかけた。
あとは実りが得られるように管理していけばよい。
管理の要は冒険者ギルドだ。当分の間は冒険者ギルドの整備に力を入れていくことになるだろう。
他もやりたいことがいくつかある。冒険者ギルドの機能を拡張することと並行して進めていこう。
やるべきことが尽きないのは良いことだ。その全ての行動が俺の目的とつながっている。
実にやりがいがあることだ。
「その過程で新たな宝も手に入れることができるしな」
「トシゾウ様、何かおっしゃいましたか?…なんだか、ご機嫌が良さそうですわね」
式の後、今回の件で俺と関わった関係者が集まり今後の打ち合わせを進めていた。
満足な気分が顔に出ていたのだろう、コレットが話しかけてきた。
「わかるかコレット。レインベル領主であり、勇者であるお前の働きを期待している」
「はい、私はトシゾウ様の所有物として、必ずやお役に立ってみせますわ」
「うむ、コレットは昼も夜も素直でかわいいな」
「っ、」
「最初は反抗的だった態度が、素直になる。こういうことを何と言うのだったか…。たしかツン」
ドシィッ
「よ、夜は余計ですわ!それにいきなり自分のモノになれと言われれば、普通は嫌悪するに決まっています。もう少し言い方というものがあると思いますわ!」
常人が知覚できないほどの速度で繰り出されたローキックが俺に直撃する。
所有物から蹴られるのは初めてだ。新鮮だ。俺以外だったら骨ごと砕けているぞ。
「トシゾウ殿、おかげで人族は王族の元に一致団結できるようになりました。心から感謝いたしますじゃ。それとすごい音が聞こえたのですが…」
「うむ、音については気にするな。これは俺の目的のためでもあるのだからな。こちらこそ、人族のごたごたを丸投げできるお前の存在は役に立つ。今後とも期待しているぞ」
「はぁ。人族の抱えていた問題ゆえ、トシゾウ殿に文句を言うのはお門違いなのはわかっているのですがの…。有能な文官をシビルフィズ領に取られ、さらにこなさなければならぬ議題が山積しております。次々に問題が解決するのは爽快ですが、いつになれば引退できるのやら…」
「管理しなければならない土地はこれから増えるだろう。武官は冒険者ギルドでも育成できるが、文官についてはそちらで育てておけ。ダストンは頼りになる。当分は現役でいろ」
利用できるものは最大限に利用するのが俺の方針だ。
よくわからないうめき声を出し始めたダストンに追加のエリクサーを手渡しておいた。まだボケられては困るからな。一日一本で元気はつらつだ。
一通りの打ち合わせが済んだ後、【迷宮主の紫水晶】で必要な者をレインベル領へ送り届けた。
「トシゾウ閣下、獣人はこれで失礼します。また近々、冒険者ギルドへ所属する者たちを連れて伺います」
「うむ、待っている」
「はっ」
ゴルオンが獣人たちを連れて去っていく。コウエンの教育(洗脳)が進んでいるのか、俺への態度がコウエンのそれと同じになっている。
「トシゾウ殿、ドワーフも一度里に戻るわい。レインベルへの鍛冶士の追加派遣の件なども打ち合わせなければならんからな」
「うむ。ドワグルよ、性能の良い武具が迷宮に増えるのは良いことだ。ドワーフの力を期待している」
「それを奪おうとしているお前さんから言われると複雑だが…。まぁ全体で見れば圧倒的に利益の方が多い話だ。任せておけ」
「エルフもこれで失礼する。トシゾウ殿、このたびは世話になった。トシゾウ殿という規格外の知恵ある魔物という知己を得たことは、エルフにとって大きなメリットだ。今後もできる限りの協力を約束しよう。…もしエルフの里で問題が発生した時には、こちらからも助力を頼んでも良いだろうか」
「うむ。エルフの魔法と弓、優れた装飾品は迷宮の攻略には必須だ。期待している。エルフの助力が得られなくなるのは俺の目的の妨げとなる。その時はルシア、お前が訪ねてくると良い」
「わかった。…何かあれば頼りにさせてもらおう。それでは失礼する」
ドワーフとエルフの代表団もそれぞれの拠点へと戻っていった。
「ご主人様、先ほどのルシアさんの言い方が、どこか違和感があるように思ったのですが…」
「シオンもそう思うか。何やら、エルフは問題を抱えているらしいな。だが今日明日の問題ということではなさそうだ。何かあれば言ってくるだろう。その時はシオンも助けてやると良い」
「はい。エルフは一緒に冒険をした仲間です。ギルドメンバーと同じ、群れの仲間です。困ったことがあったら助けに行きます」
シオンがフンスと気合を入れている。
ときどき狼特有の考えをのぞかせるシオンかわいい。
【超感覚】を持つシオンもそう判断したのならば間違いないのだろう。
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