117 コレットは勇者になる
人族の王城 謁見の間 壇上
「コレット・レインベルを“人間の”勇者に任じる!またコレット・レインベルの推薦により、シオン、コウエン、ゴルオン、ドワグル、ルシアを勇者パーティとして登録する」
「謹んでお受けいたしますわ」
厳かに宣言するのは王の代理である王女サティア。
それに恭しく応えるのはコレットだ。
サティアの前に控える宰相ダストンが、勇者パーティの代表であるコレットへ勇者の証であるメダルを手渡した。
剣と盾。メダルの意匠は精緻でありながらシンプルだ。
脅威から人々を守り、外敵を切り裂く者。
歴代の勇者は、細目以外は素晴らしい者たちであったとダストンが語っていた。途中から聞いていないが。
今日のコレットはいつにも増して美しい。
流れる金髪は王族御用達の化粧係の手によってさらに輝きを増し、白い肌にも薄く朱が差している。
青龍の鎧を纏ったその立ち姿は勇ましくも神秘的で、整った顔立ちはいつも以上に凛々しく引き締まっている。月並みな表現だが、壇上の一幕は一枚の絵画のようだ。
新たな勇者の誕生に、式へ参加している者たちが拍手を贈る。
コレットに見とれている者も多い。
決闘の後、魔法契約の力によりゼベルの悪行は全て明らかにされた。
芋づる式に、勇者と勇者を手駒として利用していたゼベルら人族至上主義者の結託も白日の下に晒された。
ゼベルと勇者の死、そしてレインベル領に復活したボスを損害ゼロで討伐した新たな勇者の誕生は、人族全体に大きな混乱と変化をもたらした。
真実を民衆にどこまで公開するかは人族の首脳部が決めることになるだろうが…。
ダストンによれば、勇者とは人族における力の象徴らしい。
勇者の不在は人族に大きな影を落とすのだとか。
コレットを勇者にするという俺の提案は、人族にとっても渡りに船だったのだろう。
提案した俺が軽く驚くほど話が早く進んだ。
厳密には“勇者”という言葉はコレットを指すが、実際には勇者パーティに登録された者は等しく勇者として扱われる。
15層クラスの特殊区画ボスの討伐などは近年なかったことらしく、シオンの白竜討伐の功と併せて宣伝すれば実績としては申し分ないらしい。
あの細目がどうやって勇者になったのかは知らないが、白竜を倒すのは無理だろうから、まぁそういうものなのだろう。
そう考えれば、かつての勇者サイトゥーンはかなり強かったということか。
勇者とは本来、迷宮の最深層を攻略し、人族に迫る災難を退ける役目を持つ者に与えられる称号であるらしい。
迷宮の深層へ至ることは力がなければできないことであり、何層まで至ったかは勇者を決定する上で重要な判断基準であったらしい。
だが近年は迷宮深層へ挑めていないという事情から、階層の数字で表すと残念なことになるため、別の大きな実績でもって勇者に叙すことが多いのだとかなんとか。
時代によって勇者の役割や形は変化してきた。
複数パーティの勇者が登録された時代もあれば、勇者が唯一の個人であった時代もある。
最高レベルの者が勇者だった時代もあれば、国難を退けた者が勇者となった時代もある。
いずれの時代においても共通していることは、勇者のブランドが絶大な力を持つということだ。
コレットや、ゴルオンら他種族代表たちの勇者認定は、現在の混乱に対する王族の答えを明確に示している。
すなわち、王族による他種族との融和の推進。
この任命は、人族が他種族を受け入れる方向に舵を切ったことを内外に示すものだ。
人族以外の勇者認定は、他種族に差別的な目を向ける者たちにどのように受け入れられるのであろうか。
染みついた意識を変えるのは容易なことではないが、将来の宝を増やすために王族にはがんばって欲しいところである。
謁見の間には、海人を除くすべての種族の代表が集まっている。
勇者ブランドは人族において絶大な影響力を持つが、他種族については単に人族の中で最も強い者たちという程度の認識であった。
その勇者という存在に他種族が名を連ねるのは、他種族の首脳部にとっては人族の誠意、つまり政治的なものとして認識されているようだ。
俺の中での勇者とは、冒険者ギルドの客寄せパンダである。
冒険者ギルドに勇者が所属していることで、冒険者ギルドの権威を高め、発展を加速する助けになれば良いと考えている。
そのためには勇者という存在が全ての種族の中でブランドとして敬意を持たれることが理想だが、今はこれで充分だろう。
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