57 給与事情とレベリング

 俺はこの5日間の給料として、ギルドメンバー全員に銀貨5枚で500コル、5万円相当を与えている。

 一日100コル。

 班長たちに報酬として渡した金を均等に配った場合、ここに追加で一日50コル。


 日収150コル。

 これはラ・メイズにおいて、中流階級の平均収入をやや上回る金額だ。

 前世日本で例えるなら、年収500万円台だな。


 生活するには十分で、節制すれば嗜好品も買える。

 ギルドには寝床があるし、食事は料理班が用意する。

 三食、寝床付きで年収500万ということだ。


 ついでに言えば。

 人族は、輸出入時の通行税、区画を貸し与えることによる地税などで国家収入を賄っている。

 人頭税もあるが、それは一定以上の階級に限り、奴隷や拾い屋には適応されない。

 それら税のほぼすべては冒険者ギルドが負担することになる。


 つまり、手取りで500万円の収入となる。


 前世の記憶が曖昧な俺でも、それがどれほどのものかは理解できる。

 まぁ前世を引き合いに出すなら、その高い給与は危険手当だと考えれば妥当なのかもしれない。

 いつ倒産するかもわからず、魔物の群れの前に残って戦えとは、ブラックも真っ青だ。


 給与体系については見直しを重ねることになるだろう。

 今は俺がすべて負担するが、冒険者ギルドが発展すれば、それに応じた給与の支払いを行っていくことになる。


「閣下、準備が整いました」


「ご主人様、私もいつでも大丈夫です」


 コウエンとシオンが声をかけてくる。


 シオンと戦闘班の一部は、スタンピード前の時間を引き続き訓練に充てることを選んだ。


「うむ、本当に休まなくて良いのか?」


「はっ、我ら戦闘班の本番は明日のスタンピードです。他の班の方々は既に役目を果たしておりますが、我々はまだ訓練しかしておりません。明日に備えて少しでも力を付けておきたいのです」


「わかった。だが訓練も仕事の内だ。部下から休みを奪うようなことはするなよ」


「はい、訓練の希望者は全体の3割に絞っております。訓練を希望する者は多く居ましたが、あえて3割に限定しました」


「なるほど、コウエンは優秀だな」


「お褒め頂き光栄です!」


 コウエンが胸に手を当てる。

 虎種流の敬礼だろうか。実に決まっている。かっこいい。


 あえて希望者よりも少なく限定することで、休みたいのに雰囲気に流されて志願する者を弾くことができる。

 本当にやる気のある者に限定して訓練を施すことが可能になり、彼らの中には選抜されて訓練に参加したという自負も芽生える。

 ベルに同行した商業班のように、この訓練に参加した者の中から将来の幹部が生まれるのかもしれない。


「お前たちのやる気は受け取った。とても喜ばしいことだ。今日は俺も同行し、お前たちを鍛え上げてやろう」


 おぉ!ギルドマスター御自ら…!と喜ぶ戦闘班たち。


 なんかコウエンがいっぱいいるみたいだなーとトシゾウは思った。


「ご、ご主人様、まさか…」


 シオンだけが顔を青くしている。シオンはかわいいな。


「閣下に指揮を執って頂けるとは、何たる光栄。今日は戦闘班も粒ぞろいゆえ、第3階層から…」


「26層に行くぞ」


「ぎょい…はっ?今なんと…」


「聞こえなかったのか?26階層だ」


 コウエンが聞き逃すなんて珍しいな。


「閣下、その、今の勇者殿の到達階層は30層です。20階層以上は、一部の選ばれた冒険者のみが探索できる階層です」


「不死鳥の尾羽を毟りに行く。数が減っていたからちょうど良い。心配するな。拾い屋たちを本来の経験に相応しいレベルにするだけだ。せいぜい5レベル上げる程度だ。養殖にはならん」


「閣下、養殖ということではなく。か、閣下ぁぁぁぁぁあ…」


 俺はコウエンを無視して【迷宮主の紫水晶】を起動する。

 コウエンと戦闘班たちの絶叫が、冒険者ギルドから吸い込まれるように消えていった。


 ギルドメンバーはそれぞれの時間を過ごした。


 翌日。

 スタンピードが始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る