番外編 あたしメリーさん。いま転生知識チートを発揮しているの……。
新型君ウイルスの影響で大学も休校になり、外出自粛要請も出ていることから、やることもないので俺はアパートの部屋でゴロゴロしながらスマホをいじっていた。
「『町に人通りもないことから、鬱になる露出狂が続出!』――ろくな話題がないな。テレビもつまらんし」
〝いや、大学生なんだから勉強してたらいいんじゃないの?”
たわけたことを抜かす
〝きゃあああああああああああああああああっ!!”
「バカを言うな、この国難の時に勉強なんざしている大学生がいるか!」
ふんす、と鼻息荒く言い放つ俺。
〝――って、もうあなた私の事を自覚していることを取り繕わなくなったわよね!?”
スカートの裾を押さえて、涙目で睨み返す幻覚女。
「HAHAHAHAHAHA、ナニを言っているのやら。俺は単に室内で運動不足にならないように、腕の上げ下げをしていただけだ」
たまたまだぞ。
そう言い含めたところでメリーさんからの電話がかかってきた。
キタ (゜∀゜) !!!!! 暇つぶしのもとが!
着信音が半分の時点で即座に
『あたしメリーさん。なんだかあなたからの鬼着信履歴があるんだけど、どーいうことなの……?』
「暇なんだよ。なのにこんな時に限って
やる気あるのか、メリーさん! つーか、いっそ『メリーさん、向かってみた!』とかのタイトルで、ユーチューブに延々と実況を流したらどうだ?
『メリーさんのことを娯楽かなんかと勘違いしてない!? メリーさんはミステリアスな伝説の都市伝説よ! サーヴァントだったらセイバーのクラスで現界するくらいメジャーなの……!』
「そうか? 半ばネタキャラ化しているような気がするが……」
ついでにどっちかというとアサシンのほうに近いと思うが、あれは人間の血を引いていないとダメなので、てめーら人間じゃねえメリーさんには、どっちにしろ無理だろう。
「つーか、何していたんだここんところ?」
『メリーさんたち、伝説のダンジョン【転生者の塔】を攻略するために、はるばる砂漠までやってきたの……』
「なんだそりゃ?」
『あたしメリーさん。なんでも伝説的なチート能力を持っていた地球からの転生者が造った塔型ダンジョンで、同じ転生者で条件に合った者しか攻略できないダンジョンらしいの……』
「ふーん? 条件って?」
『いろいろな問題が出題されて、それに答えられないと罠で即死なの……』
「なかなかハードだな、おい。大丈夫なのか。やめといたほうがいいんじゃないのか?」
結構洒落にならないハードモードらしい仕様――しかも頭を使う系のダンジョン――に、さすがに心配になって阿呆なお子様であるメリーさんを引き留めたが、
『ここまで来る途中で、でっかいロボットみたいな巨人相手に殲滅型起動兵器に乗ったエマが足止めしているし、ガメリンは空から来た謎の怪鳥相手に飛び立っていったし、ローラも自在に姿を変えるスライムみたいなのとタイマン張っているところなの。皆の弔い合戦のためにも、残ったメリーさんとオリーヴとスズカの転移・転生組でダンジョンを攻略して、噂に聞く伝説のお宝を手に入れるの……!』
気炎を吐くメリーさんだが、別にローラ達が死んだとは限らないと思うのだが……。
ともかく、すたこらサッサと砂漠を歩いて(砂漠といっても砂ばかりというわけではなく、岩や少量の植物やジュースの自動販売機などは普通にあるとのこと)【転生者の塔】へとやってきたメリーさんたち。
巨大な塔の脇には、二十五メートルほどの四角い人型の像がそびえ立っていたらしい。
それを見てスズカが声を弾ませて一言、
『スフィンクスですね!』
『はぁ?! どこがスフィンクスなわけ!? あれって頭が人で体が獅子の怪物でしょう! 私、小学生の時に旅行で実際にエジプトで見たわよ』
さりげなくブルジョワを匂わすオリーヴの反論にも、スズカは頑として持論を崩さなかった。
『いいえ、間違いありません! 横〇光輝先生もOKを出したスフィンクスです!』
『誰よそれ!?』
オリーヴの素っ頓狂な声が響く。
う~~む、最近のJKは横〇光輝を知らんのか。なんということだ。
ああだこうだと騒ぎながら塔の出入り口らしい、分厚い石の扉で塞がれた正面へとたどり着いた三人。
『あたしメリーさん。何か書いてあるの。えーと……』
《問題:そいつの前では女の子。つんとおすまし、それはなに?》
『……なにこれ?』
唖然としたオリーヴの声にかぶさって、何やらタイマーがカチカチ鳴るような音が加わる。
『なんか扉に数字が浮かんで減っていくの。27、26、25……』
「あー、制限時間内に答えないとダメって設定だろうな。外れたらペナルティとかあるのか?」
俺の問いかけに答えるように、ただの石像だと思っていた四角い像(スズカ曰く「スフィンクス」)が、動き出してパンチを放つ姿勢を取った(らしい)。
『ぎゃあああ! あれ絶対にタイマーがゼロにならないうちに正解しないとぺしゃんこにされるフラグよね! ええと……か、片思いの相手とか?』
必死に答えをひねり出したオリーヴだが、不正解だったらしく無情にも数字は減っていく。
『メリーさん、どこかで聞いたことがあるような気がするの……?』
首を捻るメリーさんの背後で、スズカが小さく挙手した。
『あのぉ、それ答えは「鏡」だと思います』
ピンポーン♪
途端、軽快なチャイムとともにタイマーが止まって、同時に分厚い出入り口の扉が開いた。合わせて石像ももとの姿勢に戻る。
『『おお~~っ』』
あっさり正解を導き出したスズカに、メリーさんとオリーヴが拍手を送る。
『さすがは転生者なの……』
『これがなろう的転生記憶チートってやつね。初めて目の当たりにしたわ』
『はあ……』
やんややんやの称賛を前に、微妙に面はゆいというか、釈然としない口調で応えるスズカ。
『ともかくも、入り口が開いたので、どんどんと先に進むの……!』
後先考えないメリーさんの先導で、塔の中に入り込む三人。
と――。
三人が中に入ったのと同時に出入り口の扉が閉まった。
『げっ、閉じ込められたわ!』
「……いや、まあ、開けっ放しにしておくわけはないだろう」
オリーヴの焦った叫びに、俺は聞こえないツッコミを入れた。
『あ~、多分大丈夫です。入るための問題がアレだったということは、出るための呪文は――』
妙に落ち着いたスズカが、閉じられた扉の前で謎の呪文を唱える。
『ラミパスラミパス、ルルルル~』
すると扉は再び開いた。
『『おお~~っ!』』
感嘆の声をあげるメリーさんとオリーヴ。
『今日のスズカは輝いているの……!』
『いいわ、いいわね。さあスズカ、共に無窮のピースを目指しましょう!』
退路が確保されたことで、俄然テンションが上がるメリーさんとオリーヴであったが、手放しで喜ぶふたりとは対照的に、スズカが釈然としない口調で呟いていた。
『異世界における転生者の知識チートって、〇塾みたいに九九言えたら天才みたいなそういう感じなの……?』
微妙な温度差を持ちながら、三人はどんどんと塔の先を進む。
ちなみに石壁で囲まれているはずの通路や小部屋だが、なぜか明かりがついていて十分な視界は確保されていたらしい。
そうして、要所要所に問題と扉と罠が設置されていたのだった――。
《問題:亜〇裕原作の少女漫画で、アニメにもなった作品のタイトルは? ヒント:「昭和」で始まります》
『枯れすすきなの……!』
『違います。「アホ草紙 あ〇ぬけ一番!」です』
元気よく答えたメリーさんにダメ出しをして、スズカが正解を答えた。
◇
階段を上った通路の使いあたりにテニスコートほどの部屋があり(実際、部屋の端にラケットと硬球が転がっていたらしい)、なぜかそこに黒電話が一台置いてあった。
『あたしメリーさん。いま【転生者の塔】の四階くらいにいるの……』
「ほうほう」
『『やらなくてもいい(です)』』
本能で受話器を外したメリーさんを押さえて、受話器を電話機本体に戻すオリーヴとスズカ。
戻すのと同時に鳴り響く黒電話。
『電話なの! メリーさんを呼んでいるの……!』
異世界で初めてお目にかかった電話を前にして、重度のスマホ中毒患者が久々にスマホにお目にかかったかのように、ジタバタと暴れるメリーさんを押さえるオリーヴと、同時に次のステージに移動するための扉の壁に表示される問題。
《問題:あなたは女性で電話を掛けた側です。この電話を取ってから十秒以内に、適切な返答をしてください》
『メリーさんに任せるの……!』
絶対に押させちゃいけない地雷を全力で押さえるオリーヴ。その間に周囲を見回して「ふむ……」何か合点がいった様子で頷いたスズカが、受話器を取って――。
『…………』
『ちょっと! なんで答えないのよ!?』
無言を貫くスズカに、焦った声をかけるオリーヴだが、そのまま無情にも十秒間が経過し、
『――岡だな』
電話から渋い男の声が返答をした。
『『「いや、違うけど」』』
という俺を含めたスズカ以外のツッコミは無視して、正解ばかり次への扉が開いた。
『ここは無言を貫くのが正解なんですよ』
当然という口調でスズカが答えて、なにやら鼻歌を歌いながら次のステージへ向かうのだった。
◇
で、次のステージでは、問題の書かれた扉の前にマイクが一本置かれていた。
《問題:このイントロで有名なアニメの主題歌を正確に歌ってください》
続いて聞こえてきた、男装の麗人がフランス革命前に活躍する有名な作品の主題歌を耳にして、メリーさんとオリーヴが同時に朗らかな声を上げた。
『超有名な作品なの! ちなみに「吸血姫は薔薇色の夢をみる」の主役はオ〇カルがモデルなの。だからTSで、タイトルに薔薇が入っているの……!』
『いや、果てしなくどうでもいいんだけど、うちの母が宝塚のファンだったから、私もこれは知っているわ。確か「♪草むらに~」』
『違います』
それを聞いて、即座にスズカに止められ、憮然とした口調でオリーヴが反論する。
『違くないわよ! 間違いなく、この出だしのはずよ!』
『ふう~~……これだから、中途半端な聞きかじりは……』
『あたしメリーさん。気のせいか、だんだんとスズカの態度が横柄になってきたの……』
オリーヴの手からマイクを取ったスズカが、再び鳴り出したカラオケに合わせて絶叫を放つ。
『「アモーレ、アモーレミヨ、アモーレ!」』
それから一曲歌い切ったところで扉が開いた。
唖然とするメリーさんとオリーヴに向かって、「ふっ――」と冷笑を浮かべるスズカ。
『テレビの主題歌に合わせて……ということなら、ここから入らないと正確ではないですからね。ふふっ』
スキップして扉を潜り抜けていくスズカの後姿を眺めながら、呻くメリーさんとオリーヴ。
「スズカが段々とナマちゃんになってきたの……」
「……自分の手柄でもないくせに。ただ知っていただけでマウント取られるとか。前世、知識チート持ちが現地人相手に悦に入る状況が見えた気がするわ」
◇
《問題:アルファがベータをカッパらったらイプシロンした。なぜだろう?》
そんな感じで問題は続き、見事に最終ステージもクリアしたスズカの前に、微妙に古臭いコンピューターが現われた。
『ワタシはマザーコンピューター。アナタを我がアルジの後継者――二世と認めます』
『二世というよりも偽なの……』
スポットライトを浴びているスズカの背後でぶつぶつと悪態をついているメリーさん。
『我がアルジが残した財宝。異世界の至宝たる知識のすべてはアナタのものです』
それと同時に膨大な薄い本の山が床からせりあがってきた。
手近な数冊を手に取ったスズカが驚愕の声を上げる。
『こ、これは伝説のガ〇マ・ザビ様の特集同人誌! こっちは幻の☆矢×紫〇の! ああ、銀〇伝にワ〇ル、サムラ〇トルーパー、きゃああ、飛〇! すごいです、ほとんどの同人誌がコレクションされていて、なおかつ一切のスキがありません! まさにこれはお金には代えられないお宝です!!』
喜色満面のスズカを放置して、メリーさんとオリーヴはその場から背を向けるのだった。
『メリーさん的に「瑞鶴! 沈みます!!」って感じなの……』
『あたしも途中からこのオチが見えていたわ……』
「相変わらずテレビなんぞよりも面白いな、メリーさん」
俺はスマホに充電をしながら、メリーさんとの通話を切らないようにして、続きを心待ちに待機するのだった。
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