第144話 大切なこと


「ちょっ、待ってリル姉さnぐえっ!?」


「コ"ウ"~"!ほ"ん"と"う"に"よ"か"っ"た"~"!」


「あだだだだ!痛い!凄く痛い!ストップストップ!」


「し"ん"ば"い"し"た"ん"だ"よ"~"!」


「聞いちゃいねぇ!?ヨ、ヨル姉さん何か言って!てか引き離して!」


「もう少しだけそうしてろ…このバカ…」グスッ


「えっ嘘でしょもうこれ結構やb」


「う"わ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ん"ん"ん"!」ギュウウウウウ…!!!


「ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"!?!?!?」


こ、これはマジでやばいって!幻聴じゃなければミシミシ骨鳴ってるって!これ両腕もってかれちゃう!両腕オートメイルになっちゃう!


「…そろそろ離してやれ。限界が近いだろうから」


「ハッ!?ご、ごめんねコウ…つい嬉しくて…」


「ハァ…ハァ…だ、大丈夫…気にしないで…。…うん、俺は大丈夫…」


見かねたキングコブラが引き離してくれたので一応確認。腕はくっついてるし身体も特に異常なし…だよな?


「本当に、心配したんだぞ…」


「…うん、ごめん。それと、ありがとう」


「…仕方ない。今回は許してやる。私達はお前の姉だからな」


涙を浮かべながら、俺の頭を撫でるヨル姉さん。昔と変わらない優しくて心が安らぐそれを感じられるってことは、俺が今ここにいる確かな証だ


そう。俺は、この場所に帰って来たんだ


でもまさか1ヶ月以上も眠ったままだったなんてね…。おかげで皆に多大な心配をかけてしまった。それに対する謝罪と、その期間に俺のためにしてくれたことへの感謝は、どんなにしてもしてもしたりない


でも起きて早々飛び込んできて全力(?)の抱擁はやめてほしかったかなって。まだ完全回復した訳じゃないからね。してもあれはキツそうではあったけど


「改めて…ただいま、リル姉さん、ヨル姉さん。そして──


「おかえり!」

「おかえり」

「っ…」


「ん?どうしたのさ?」


「いや…その…いいのかなぁ…って…思って…」


「いいんだよ。それにもう話は終わってるんでしょ?なら俺からは何も言うことはないよ」


「…そっか。…おかえり、コウ」


「ただいま、ヘル姉さん」


こうしてここにいるってことは、皆と彼女が和解、もしくはそれに近い何かを終えている証拠だ。俺とのいざこざに関しては、あの日にもう終わっているしね。何よりもあの時、俺を守ってくれたことに変わりはないのだから


「身体はもう平気?痛いところない?」


「ちょっと待ってね。よっ…と」


脚をベッドから下ろして、壁に手を添えて立ってみる。最初こそ少しふらついたけど、身体の痛みは全くない。腕を回したり少し歩いたりストレッチしたりしたけど問題なさそうだ


「うん、痛みはないね」


「本当?無理してない?」


「大丈夫、流石に嘘はつかないよ」


「…どうやら、本当らしいな」


安堵の表情を浮かべるキングコブラ。そうだね、前科がありまくりだもんね。でも今回は絶対に無理しないから安心してね


「オハヨウ、コウ。ドウヤラ大丈夫ミタイダネ」


「うわぁラッキーさん!?おはよう!」


いつの間にかいたラッキーさんにびっくりして大きな声を出してしまった。姉さん達についてきたみたいだけど、いるならいるって言ってほしかったよ


そんな俺をぴょんぴょんと何回もジャンプを繰り返しながら、光る瞳で上から下まで余すことなく見てくる。体調をスキャンしているんだろうけどこんな感じでやられるのは初めてで少し驚いてる


「タダ、サンドスターノ量ハ少ナイネ」


「そっか…。なら回復しなきゃいけないよね!」


という訳で、テーブルに置いてあったジャパリまんをおもいっきり頬張る。口いっぱいに広がるジューシーな味わいに、身体が喜びで震え上がった。呆れたような視線が突き刺さるけどここは気にしないでおく


「おっと、これはやめておけ。出しっぱなしだったからな」


「むぅ…残念」


「そんな顔をするな。冷蔵庫にまだあるから持ってきてやる」


「本当?ありがとう大好きだよ」


「っ…///はぁ…調子がいい奴だ…」


だって本当のことだからね。そういう君も、ため息をつきながらも嬉しそうに微笑んでくれるじゃないか


もう1つのお皿の上にあった、甘そうで美味しそうなものは彼女が下げてしまった。日付を考えると昨日はバレンタイン。つまりあれはきっと、彼女が作ってくれたチョコレート菓子


俺がいつ目覚めるのか分からなくても、彼女は作って待ってくれていた。これは是が非でも食べなきゃいけない。そして1ヶ月後のお返しは絶対に豪華なものにする。これは確定事項だ


「はいはいその辺にしてね。これから忙しくなるんだから」


「…だよね~…」


ここにいるのは、俺とキングコブラと姉三人。彼女達は少しの文句とホールドで済んだけど、これはほんの序の口だろうなぁ。ここから説明したり挨拶したりと大変だ。交換する情報は多そうだし、場面によってはお説教も飛んできそうだし…


「そうだな、色々言われるだろう」


あっ、口に出てたか


「それは早めに受けることになると思うよ~」


「えっ?それってどういうこと?」


「こういうこと!ジャンジャジャ~ン!」


黒い何かを高々と持ち上げるヘル姉さん。ボタンのようなものをポチポチと押している。どうやら何処かに繋いでいたようだ


…あれ?もしかして繋がってた先は…


「では皆さんどうぞー!」


『ごきげんよう、もう大丈夫そうね?コウ?』


「…うん。もう大丈夫だよ、キュウビ姉さん」


やっぱり、そうだよね



*



繋がっていた相手は、キュウビ姉さん、オイナリサマ、ヤタガラスさん、ヤマタノオロチさん。いつの間にか帰って来ていた後者二人に挨拶をしつつ、自身の報告を改めてした


案の定と言うべきか小言を言われた。てか小言というレベルを余裕で通り越してた。既に長くなってたそれが更に長くなりそうだったけど、ヤタガラスさんが止めてくれたのでなんとか未遂で済んだ


『成る程、そんなことが…』

『やっぱり一枚噛んでいたのね』


あの夢(ではないけど)のことも話した。ある程度予想していたのか特に驚いてはいなかった。ここら辺は流石守護けもの同士といったところだね


『それについては、また今度ゆっくり話そう。余等の土産話と共にな』


「はい、楽しみにしてますね」


『貴様が我の力をどの程度扱えるのか見てみたいものじゃ』


「いいですよ、ボコボコにしてやりますので覚悟しておいてください」


『フハハ!大きく出たのう!楽しみにしておるぞ!』


『また後で会いましょうね』

『今日はゆっくり休みなさいね』


「うん、ではまた」


一言ずつ返して、彼女達との通信はここで終わり。やることなすことがまた増えた気がするけど…まぁ無理しない程度に頑張ろう、うん


「さて、次はっと…」


さっきのとは違う黒い機械を取り出し、また何処かへ繋ぐヘル姉さん。次はどんなお説教が待っているのかな…


「あっ繋がった。もしもーし?」


『あっ!碧さん碧さん!連絡が来ましたよ!』

『ということは…やっと起きたんだな、コウ…!』


「父さんと母さん?」


正直意外な人物に繋がったなって思った。二人とも泣いているのが通信越しでも分かった。俺はまたたくさん謝って、たくさんお礼を言った


現状の報告と、俺にあったことを掻い摘まんで話していく。サンドスター関連のことは、また二人が来た時にゆっくり話そうかな


『コウ、お前に話がある人がいるんだが…いいか?』


「…うん、いいよ」


『ありがとう。今変わる。おーい』


報告を終えると、父さんがそう切り出した。その相手はきっと、と関わりのある人物だ。俺のこの状況を知っていたのは、その人物とここに来ていたからだ


『ようボウズ、俺のこと覚えてるか?』


父さんよりも低い大人の男の声。それは聞いたことのない、だけどどこか懐かしい雰囲気。それが誰なのかが直ぐに分かった。俺は確信を持って、その人の名前と共に返答をする


「…ええ、覚えてますよ、博麗はくれい 霊児れいじさん」


『おっ、忘れてなかったか。嬉しいぜ』


「貴方は俺の恩人ですからね」


『よせやい、照れるだろ』


なんて言ってみたけど、最近まで忘れてたんだよね。でもそれはサンドスターによる記憶の封印があったから仕方ないよね


『早速で悪い、お前さんに聞きたいことがあるんだが…?』


「…はい、


彼の言った平気という二文字には、きっと色々な意味が込められている。それを踏まえて、俺はそれを肯定した


『なら聞くぞ。──八雲やくも 春慈しゅんじ桂華けいかの二人が、セルリアンに喰われたってのは本当か?』


投げつけられた質問は、大方予想通りだ


「…はい、本当です」


フラッシュバックした記憶を、そのまま言葉にする


『………そうか。聞きたいことは聞けた。ご協力感謝する』


長い沈黙の後で、帰って来たのはそれだけだった


…それだけ?


「それだけですか?」


『ん?まぁそうだな』


「そ、そうですか…」


てっきりもっと深いところまで聞いてくると思ってたから身構えていたんだけど、どうやら宛が外れたようだ。あの二人が何をしようとしていたとか、どんなことをしたとか


俺が、あの二人にどんなことをしたとか──


『ああ、これだけは言っとくぞ』


「…なんでしょうか?」


『お前さんは守護けものなんだろ?お前さんはその使命を全うした。それだけのことだ』


「っ…」


『もし本当にをお前さんがしていたとする。だがそれは、その選択を取らざるを得なかった状況に追いこんじまった俺達大人にも責任がある。だからお前さんが全部背負う必要はねぇ。すまねぇな、余計なこと考えさせちまってよ』


この人は気づいているのだろう。俺の罪を。俺があの二人に何をしたのかを。もしかしたら父さん達も、姉さん達も、キングコブラも


それを、敢えて言わないでいてくれた


それでも、おかえりと言ってくれた


「…いえ、ありがとうございます」


『お礼を言われるようなことはしてねぇぞ?』


「それでも、ですよ」


貴方達がどう感じていても、お礼を言っておきたい。そう言ってもらえるだけで、俺の心は軽くなるんだから


俺は改めて覚悟を決める。大切なものを守るためなら、どんな罪も背負ってやる。いくらでもこの手を汚してやる


それが、俺に課せられた使命でもあると思うから



*



「さて、難しい話も終わったね。じゃあ次」


まるで誰かが順番待ちをしていたかのような言い種だ。今度はどこに繋ぐのかな?


とか思っていたけど違うらしい。迷いなくドアへと歩いていくヘル姉さん。そしてドアノブをひねり、勢いよく引き開けた



『わぁぁぁぁ!?!?!?』



その瞬間、雪崩のように部屋に入ってくるフレンズ達。見慣れた顔が、でもそれが何よりも嬉しかった


「皆…!」


ろっじの住人である、キリンさん、オオカミさん、アリツカゲラさん


ぺぱぷのメンバーである、ジェーンさん、プリンセスさん、コウテイさん、イワビーさん、フルルさんにマーゲイさん


その6人に抱えられている、瞳を光らせたラッキーさん。あれは通信モードになっている証拠。ってことは…



「皆さん、せーのっ!」


『おかえりー!コウー!』



ラッキーさんから聞こえたのは、たくさんの友達フレンズの声。それはサバンナから、ジャングルから、高山から、砂漠から、湖畔から、平原から、図書館から、みずべから…


心配も、文句も、感謝も、歓喜も。全てがこもった、とびっきりの挨拶だった



それに俺がする返事は、ただ1つ



「ただいま!皆!」



俺も全てを込めて、皆にこれを送った



*



皆との話も終えて、ラッキーさんを通じての挨拶も終えて、もう晩御飯を終えた時間まで進んだ。今この部屋にいるのは、俺とキングコブラの二人だけ


そう、二人だけ


「…あのさ、聞いてほしいことがあるんだ」


「どうした?言ってみるといい」


本当はこんなこと、話題に出すことじゃない。聞くことじゃない。分かってる、分かっているんだ



「…俺は、あの二人を、春慈と桂華を殺した。俺の手は汚れている。そんな俺は、君の隣にいていいのかな…?」



それでも口にした。彼女の答えを、どうしても聞きたかったから。覚悟を決めても、それだけは不安だったから



「馬鹿なことを聞くんじゃない」



そんな不安も、彼女は優しく打ち消してくれる



「私がその場にいたら、きっと同じ選択をしただろう。だから私も同罪だ。お前が罪を背負うと言うのなら、私にもそれを背負わせてくれ。私は、これからもお前の隣にいたいから。だから、全部、抱え込まなくていいんだ」



両手を包み込んでくれる。汚れていたって構わないと微笑みかけてくれる



「他には何かないのか?してほしいこと、聞きたいこと、遠慮せず言うといい」



得意気に言う彼女。頼ってほしいという、彼女の遠回しなお願い


今日は遠慮なく、お願いしようかな



「…隣で、寝てほしいな」


「…フフッ、それくらいなら、御安いご用だ」



モゾモゾと一緒に布団に入り、彼女を抱き寄せる。このベッドは基本一人用、少し離れても大丈夫だけど近い方がいいのは一目瞭然。よって今、俺と彼女はピッタリとくっついている


それが窮屈だなんて微塵も思わない。彼女の体温、鼓動、息遣い…全てを感じられるのだから


今以上に感じたくて、力をほんのり強めてみる。嫌がる様子はなく、尻尾で背中を押して寄せてきたので、お返しに頭を優しく撫でた


「…明日、一緒に料理がしたい」


「いいよ、リクエストはある?」


「カレーにしよう。きっと、たくさん必要になるだろうから」


「そうだね、それがいい」


皆来てくれると思うから。お出迎えして、たくさん振る舞って、たくさん喜んでもらおうね


「それと、ゲームもしたい」


「いいよ、何をしようか?」


「色々しよう。トランプも、獣ゲームも。賑やかになるだろうから」


「そうだね。それがいい」


大人数で出来ると思うから。その時はたくさんルールを考えて、皆で楽しくやろうね


「日記の話もしたい。カフェにも行きたい。それから…」


「いいよ、やりたいこと全部やろう。どんどん言ってくれていいからね?」


「…ありがとう」


楽しいことも、嬉しいことも。君のお願いを、全部叶えてあげたい。俺のせいで失ってしまった時間を、1つでも多く取り戻してあげたいから



「…寂しかった」

「うん」

「ずっとこうしたかった」

「俺も」

「…もっと、いいか?」

「勿論」



一度手を繋いで、唇を重ねる



彼女の頬に、そっと手を添える



彼女の心に残る、不安を全て取り払う



もう離さない。もう何処かへ行ったりなんてしない



だから大丈夫。今日はもう、ゆっくりおやすみ



きっと、夢の中でも、一緒にいられるからさ

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