第136話 vsセルリアン -それぞれの敵-


「…御守りが、光っている…?」


ろっじでコウの帰りを待つキングコブラは、彼から貰った御守りを握り締めて呟いた。手の中にあるそれは、心臓の鼓動のようなリズムで輝きを放っていた


「コウに、何かあったのか…?」


ガチャッ!


「あっ!起きてたのね!丁度良かったわ!」


「キリン?どうした?」


「大変なことが起きてるの!直ぐに来てくれない!?」


「…!」


ドアを開けて来たのはアミメキリン。彼女の慌てた様子に、キングコブラは急いで部屋を出て早足で彼女についていく


「先生連れてきました!」


「ありがとう、お疲れ様」


ろっじを出て少し走ると、キングコブラは過去に体力テストをした、開けた場所の近くの茂みに案内された。そこにはタイリクオオカミの他に、ニホンオオカミとイタリアオオカミ、アリツカゲラが先に来ていた


「悪いね、起きて早々ここまで来てもらって」


「構わん。どうしたのだ?こんな所に隠れて」


「それなんだけど、あれを見てくれ」


「あれとは………なんだ、あれは…」


オオカミが指を差した先には、巨大な黒色の物体が佇んでいた


それは人に近い造形で、地面に長物の剣を突き刺して正座をしていた。背中から生えた翼の羽根と長い髪を、吹き抜ける風が靡いていた


「あれもセルリアンらしいんだ」


「…コウが持っていた本の再現か。だが “らしい”とはどういうことだ?」


「それなんですが…」


アリツカゲラが持ち出したのは、黒ずんだラッキービースト。瞳をチカチカしながら、何かを話しているような音を鳴らしていた


「このボスから声が聴こえたんです。知らない声でしたが、セルリアンを用意したと言っていました。恐らく、あれがそうかと」


「知らない声…その主もセルリアンかもしれないな」


「どうやらそいつは遊園地にいるらしく、あれに似たセルリアンが各地にもいるらしい。どうにか皆と連絡を──」



『オオオオオオ!!!』



「──っ!?」



突如響き渡る雄叫び。その声はラッキービーストからではなく、先程まで見ていたセルリアンからだった



剣の王フローディ】が、ついに起動した



立ち上がり、右手で剣を持ち、その場で一度横に振るう。突風が吹き荒れ、砂埃が起こり、枯れ葉や落ち葉が宙を舞った


剣からサンドスター・ロウが飛び散る。それは姿を天使のようなセルリアンへと変え、周りの茂みへ消えていった


そして、剣の王は静かに歩き出した


「不味いね…このまま進めばろっじだ…!あの巨体で暴れられたら…!」


「ここであれを倒すぞ!皆のもの、戦う準備は…」



『お互いの存亡を賭けた──神々の黄昏ラグナロクをね!』

『滅ぶのはお前達だがな!』



「なっ…!?」



ブツッ!と切れたラッキービーストの通信。話しかけてもうんともすんとも言わなくなったが、その前にキングコブラの耳は確かにコウの声を捉えていた


彼は今遊園地にいる。そして、視線の先にいる特殊なセルリアンを造った親玉と彼は対峙し、一人で戦おうとしていると直ぐに分かった


今直ぐにでもコウの元へ行きたい気持ちが湧き上がるが、同時に今目の前にいるセルリアンを食い止めなければという気持ちもある。迷う彼女の心が脚を止める


「キングコブラ、君は遊園地に向かうんだ。もし本当に遊園地にもあれと同じようなものがあるのなら、コウの負担が大きくなりすぎる」


「しかし…!」


「ここは私達に任せてください!オオカミ連盟の力を見せてやります!」


「他のメンバーもいるから大丈夫だよ!」


そんな彼女の背中を押すオオカミ達。三人の力強い瞳を見て、その言葉が嘘ではないと感じたキングコブラは、一度頷きここを任せることにした


「…ありがとう。アリツカゲラ、頼めるか?」


「はい、お任せください!」


アリツカゲラに抱えられ、キングコブラは遊園地を目指す。キリンは他のメンバーを呼びに行く。残った三人は、敵の後ろへ回り込み奇襲を仕掛けた



『ムゥ…!?』


「おっと危ないね…!」



脚への攻撃で三人に気付いた王は、振り向き様に剣をタイリクオオカミに向けた。それを避け、深追いすることなく距離を取りながら、三人はすぐ様体勢を立て直す



いつでもいけると、彼女達はアイコンタクトを取る



「さて…倒させてもらうよ、皆のためにね」



オオカミ達による、王の討伐が始まった




───




「見えてきましたね」


「よし、このまま………っ!?待てッ!」


「えっ?ど、どうしたんですか?」


「何か…来る!フンッ!」



遊園地の入口上空まで来たアリツカゲラは、そのまま進み広場へ行き降りようとした。しかし違和感を覚えたキングコブラは、彼女を制し抱えられた状態で瞳からビーム蛇王の猛毒眼光を放った。ビームは地上から飛んできた何かと相討ちになり、空中で弾け飛び消えていった



「今のって…」


「ああ。どうやら、本当に先程のやつと同じようなセルリアンがいるようだな…」



『ゴアアアアア!!!』


「来るぞ!」



地上から聴こえた、油断したら墜とされそうなくらいの大きな咆哮。その声の主が、二人の元へ姿を現した


身体に冷気を纏う、大きな一対の翼を持つ、胴体が大蛇のセルリアン。赤く鈍く光る瞳と心臓のような核は、夜空を彩るにはあまりにも不釣り合いだった



氷の王ニードヘッグ】が、二人に対しもう一度吼えた



「ど、どうしますか?申し訳ありませんが、私ではあれとは戦えそうには…」


「どうにかしてあの翼を壊し地上へ墜とせればいいのだが…手が足りないな。どうするべきか…」



「それなら、私達の出番よね?」


「…!貴女達は…!」


「久しぶりね!キングコブラ!アリツカゲラ!」



この場に来たのはハクトウワシ、オオタカ、ハヤブサのスカイインパルス。氷の王の咆哮を聞き、その持ち前の速さで駆けつけた


「空中戦なら私達に任せてくれ。お前達は地上で待機を…」


「いや、私もここで援護をする。アリツカゲラ、もう暫く付き合ってもらえるか?」


「…分かりました」


「…二人とも、無理はしないでよ?」


「分かっているさ。さぁいくぞ、皆のもの!」


「ええ!「「「レッツ、ジャスティス!!!」」」



蛇の王キングコブラ氷の王ニードヘッグが、対峙し両者共に睨み合う



遊園地の上空で、両者は激しくぶつかり合っていく





──────────




「…だそうです、博士」

「…面倒ですね、助手」

「全くなのです」


やれやれといった態度で話すのは、図書館にいるこの島の長である、アフリカオオコノハズクとその助手のワシミミズク。足元には黒いラッキービーストがおり、先程まで遊園地からの通信を流していた


外に出ると、図書館の周りには既に天使型のセルリアンと、ボール状のセルリアンがうようよと動いていた


「結構いますね。ダチョウ、ここの指揮は任せるのです」

「お前達、くれぐれも無理はしないようにするのですよ」

「分かりました。皆さん、よろしくお願いします」

「あぁ、任せておけ!」

「はい!」

「私も頑張るわ」


しかし二人は冷静だった。ダチョウの占いによって、何かが起こることはある程度把握していたからだ。ダチョウと応援に駆けつけたバリー、アードウルフ、ブチハイエナにこの場を任せて、長二人は図書館を後にした



『ウフフフフ…!!!』


「私、あなたのその顔は気に入らないわ~…!」

「ならさっさと倒しちゃおうぜ!」

「でもこのセルリアン強いですよ…!」



図書館から少し離れた場所に移動すると、そこではゴマバラワシ、イヌワシ、ルペラのスカイダイバーズが、既にセルリアンと戦闘を開始していた


長い髪で、背中に妖精のような羽を持つ、美しい女性の姿をしたセルリアン。それの足元からは、木の根のような触手が生えており、三人を捕らえようとひっきりなしに動いていた



光の王マルデル】は、彼女達を見て不敵に笑っていた



「あいつがそれのようですね」

「そのようなのです。王と言うだけのことはありそうなのです」

「なら、我々も行くとしましょう。準備はいいですか?ミミちゃん?」

「勿論です、コノハちゃん。さっさと終わらせて、年越しそばを食べるのです」



翼を広げ、音もなく飛ぶ博士と助手。光の王に気づかれることなく後ろへ周り、それの後頭部を思いっきり蹴り飛ばした



『ンン…!?』


「…あまり効いていないようですね」

「…流石に、一撃とはいきませんね」



しかし、やはりと言うべきか体は硬く、傷は浅く直ぐに修復される



「博士、助手!来てくれたのですね!」


「当たり前なのです。お前達、ここからが本番なのですよ!」

「さぁ、我々の力を見せるのです!」



バサッ!と更に大きく翼を広げ、瞳を輝かせる



空の狩人達は、獲物を狙い飛び交っていく





──────────




「カピバラ、旅館と皆は任せたわ。オイナリサマとキュウビキツネが帰ってきたら、私達のことを説明してくれる?」


「分かったよ~」

「無理するんやないで~」

「気ぃ付けてな~?」


「ええ。…キタキツネ、本当に待ってなくていいの?」


「うん…ボクも行く。一人じゃ、危ないし…」


「…そう、ありがとう。じゃあ行きましょうか」


雪山の温泉旅館を管理しているギンギツネとキタキツネは、カピバラと客として来ていたヒョウ姉妹にこの場を任せて出発する。その理由は勿論、黒ラッキービーストからの通信を聴いたからである


「オイナリサマー!キュウビキツネー!いたりしませんかー!?」


「…いないみたいだね。磁場も感じないよ」


「まぁそうよね…」


旅館から少し上に登った場所で、ギンギツネは守護けものの二人の名を試しに呼ぶ。しかし案の定返事はなく、叫んだ声は反響するだけだった


「でもあの様子だと遊園地にはいないわよね…。通信にも応じてくれないし…もう何処かで戦ってるのかしら…?」


「それが一番可能性が高いと思う。もしかしたら源泉にセルリアンが現れたのかもしれないし…」


「それはありえるわね。なら私達はそろそろ…」


「…待ってギンギツネ。あそこに…何かある…」


「…本当だわ。これまた随分とゴツいわね…」


キタキツネがギンギツネの手を取り、その場に隠れるようにしゃがむ。二人の視線の先には、巨大な黒い壁のようなものがそびえ立っていた


それはまるで巨大ロボットのようなセルリアン。体のあちこちには骸骨の意匠が見られ、胸にある核の石と共に一層不気味な雰囲気を醸し出している


それは骸骨の瞳を一斉に光らせ、ゆっくりと立ち上がった。左手でハンマーのような武器を担ぎ上げ、地響きを立てながら二人の方へと歩き出す



鉄の王ドヴェルグス】の瞳には、しっかりと二人の姿が映し出されていた



「…どうするのギンギツネ?ボク達だけじゃ…」


「そうね…。このまま引き付けて、旅館まで誘導しましょう。皆で戦えばなんとか…」


「いや、ここで食い止めましょう」


二人と合流したのは、ヒョウ姉妹と同じく旅館に来ていたサーベルタイガー、タヌキ、ホワイトライオン。後ろからこっそりと着いてきていたことに、ギンギツネとキタキツネは全く気づいていなかった


「貴女達…来てたのね。でもどうして?」


「旅館の周りにもセルリアンが現れたんです。今戻ると更に厄介になります」


「そんな…!じゃあ皆は…!」


「大丈夫ですよキタキツネちゃん。向こうも皆頑張ってくれてます。だからここは私達でやっつけちゃいましょ~」


「…そうね。頼りにしてるわ」



相変わらずのんびりした声で話すホワイトライオンに少し呆れながらも、心配して来てくれたのが嬉しくてつい口元が緩くなるギンギツネ。全員顔を見合わせて、覚悟を決めたと頷いた



「皆、油断せずにいくわよ!」



機械音を鳴らす王の前に、五人は力強く立ち塞がる



雪が舞うこの銀世界で、五人は壁を壊しにかかった





──────────




『ヴオオオオオ!!!』


「あっぶな!本当に厄介だなぁあの槍!」


『ムゥゥゥゥン!!!』


「この…!馬鹿力が…!」


『フッフッフッ…!!!』


「あーもうさっきからネチネチと…!」


『グモモモモモ…』


「「「こいつらも鬱陶しい!!!」」」



サンドスターが輝く山の頂上で、リル、ヨル、ヘルの三姉妹と、オーディン、トール、ロキの三神きょくしんの戦いは続いていた。スカーの通信がここでも流れた後、ここにも雑魚セルリアンが湧いてきており、意識がそちらにも持っていかれていた為長引いていた



「「「そろそろ…消えろ!!!」」」



道を塞ぐ雑魚を蹴散らし、三人は同時に神へ突撃する。攻撃をかわし、いなし、懐に潜り込む。リルが氷の剣を、ヨルが雷の魔鎚を、ヘルが闇の杖をそれぞれ造り振るうと、心臓の位置に核である石が露になった。その隙を見逃すわけもなく、修復される前に追撃の牙を立てた


ビキィッ!と大きな音を立て、神々は散っていった



「フゥ…よ~しやっと終わった~!イェイ!」

「やはり内部に石があったか。面倒な相手だったが…これであとは雑魚だけだな」

「あー疲れた…。病み上がりには辛いねこれ…」



『グモモモモモ!!!』



「…え?」

「…は?」

「…あっ(察し)」



神々を倒したと誰もが思ったその時、突如周りの残っていたセルリアンが自壊し、そのサンドスター・ロウが竜巻のように集まり始めた



『オオオオオオ!!!』



そして、砕けた神が復活した



「ちょっとどういうことヘル!もう終わったんじゃないの!?」


「そういえば、あの神々のテキスト欄には復活する効果があった気が…」


「おまっ…それを先に言え!」


「わ、忘れてたんだよ~!そんな覚えてられないし~!」


「もう!キメ顔したボクがバカみたいじゃない……って…あれ?」


「こんな時になんだ!?」


「あのラッキービースト、また光ってるよ?」


ヘルに文句を言っている最中のリルの視界に入ったのは、再びピピピ…と音を鳴らし瞳を光らせる黒いラッキービースト。また何かを受信したのか、数秒経ってサンドスターに映像が映し出された


神々や雑魚の攻撃を避け反撃をしながら、隙をみてラッキービーストの映像を伺った三人。それを見た三人の表情が一瞬で曇った



そこに映っていたのは、苦悶に満ちた顔のコウと



それを歪んだ顔で笑っている、スカーの姿だった

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