第123話 授業中、修行中
「じゃあ、まずは包丁の使い方かr」
「それは大丈夫なのです」トントン
「もう完璧なのです」トントン
「…ほう?上手いではないか」
「「我々は賢いので」」ドヤァ…
ここは図書館。只今俺とキングコブラさんは長二人と料理中です
いやぁ大層驚いたね。まさかこの二人から、『料理を教えてほしいのです』なんて言葉を聞けるなんて思ってもみなかったから
サーバルさん、アライさん、フェネックさんの三人が、火を恐れず料理をしていたことが余程悔しかったみたい。だけど流石自称グルメな二人、自分でも作ろうと努力はしていたらしく、殆どの作業は出来ていて今のところ危ない場面はない
じゃあ何故俺達が呼ばれたのか、それは推理するまでもないね
「じゃあいくよ」
「「い、いつでもこいなのです!」」
「…ほいっ」ボッ!
「「ヒィィィィィ!?!?!?」」バサバサッ!
「早い早い早いどこ行くんだ逃げるな逃げるな!」
そう、火への耐性をつける為だ
それだけの理由なら、『火を扱える子なら誰でもよかったんじゃないか?』という疑問が出てくるんだけど、俺達に教わることが一番ダメージが少ないらしい。それが意味することはなんとなく分かったので追及はしなかった
一応他の理由としては、俺は
だけどやはりというべきか、火への恐怖は簡単には消えない。今キングコブラさんの両腕に引っ付いている二人はガタガタと小動物のように震え、羽をこれでもかってくらい広げている
「どうする?やめておくか?」
「「やるに決まっているのです!」」
「そうか…では遠慮なくいくぞ?」ズイッ
「「ヒャアアアアアアアア!?!?!?」」←涙目
…見たことあるな、これ
◆
とまぁ、こんな感じで数日が経った
食への探求力故か、単なる食い意地故か、二人の火への耐性はメキメキとついていった。その早さはサーベルタイガーさん達の比ではなく、一週間もかからずに自由に扱えるようになった
そして、目の前には二人だけで作ったカレーライスがある。お皿に綺麗に盛り付けられていて、具材のジャガイモやニンジン、タマネギは食べやすく切られている
いざ…実食!いただきます!
「…………っ!? これは…!?」
「ど、どうしたのですか!?」
「何か問題でもありましたか!?」
「いや、特に。凄く美味しいよ」
「「驚かすんじゃあないのですよ!」」スパァンッ!×2
「いったぁ!?」
「…余計なことをするからだ」
ぐおおおお…ダブルパンチで右脳と左脳が仲良く揺れてスタン状態…。キングコブラさんもフォローしてくれない…。なんてことだ…これは治すためにカレーをおかわりしなくては…!←もうしてる
「まぁ、これでも感謝はしているのですよ?」
「今日までありがとうございました、なのです」
「…どういたしまして。でもここからは自分しだいだから頑張ってね?」
「望むところなのです!」
「早速次の料理を考えるのです!」
ちゃんと自分達の分も食べ終えて、二人は図書館へ戻っていった。頑張ったご褒美に片付けはしておいてあげよう。この数日間、本当にお疲れ様でした
◆
月日は流れ、季節は秋から冬に変わった…という実感はないが、11月から12月に変わってもう数日経つのだからそうなのだろう。時の流れとは本当に早いものだ
そして今日は、図書館内で勉強しているコウを見ているのだが…
「分かんないよ…」
「えっ?」
バンッ!←テーブルを叩く音
「わっかんないよ! オイナリサマの言ってることはひとつも分かんないよ! オイナリサマが話してる内容、何がなんだか分かんないよ! 分かんない!俺には分かんないの!」
…これはまた新しいパターンだな
「…いきなりどうしたというのですか?先ずは落ち着きなさい」
「これが落ち着いていられるか!俺は家に帰らs」
「家に…なんですか?」←ハイライトオフ
「…何でも…ないです…」←静かに着席
「よろしい。続けますね?」
「…はい」
…ああやって、たまにコウはどうにかして逃げ出そうとする。だが、オイナリサマの威圧を感じて大抵あんな感じで失敗する。その後はまた悲しそうな顔をしながらも勉強を続ける。一体この光景を何度見たことか…
だがコウの気持ちも分かる。『守護けものには知識も必要』という理由で、最近は勉強漬けだからな。ここは助け船を出すとしよう
「オイナリサマ、少し気分転換してあげたらどうだ?ずっと机に向かっているのも辛いだろう」
「…そうですね、気分転換は必要です。少し詰め込み過ぎましたね」
…自分で言うのもあれだが、意外な答えが返って来たな。てっきりもう少し続けるものだと思っていたから
何にせよ、言ってみてよかった。コウが救世主を見るかのような瞳をしているしな。これで少しは楽に…
「では、外で
「「…ゑ?」」
「時間が惜しいので早速始めましょうか。それとも…まだお勉強を続けますか?」ニッコリ
「ヒェ…やり…ます…」
…すまない、コウ。裏目に出てしまった…
*
「では、やってみましょう」
「はい…。 ──
掛け声と共に、コウの背中にあるコウモリの翼が一瞬で消え、身体をサンドスターの輝きが包み込む
そして出てきたのは、尻尾、耳、爪、牙といったオオカミの特徴。これは、コウの内にあるフェンリルのものだ
「いい感じですね。では次をお願いします」
「──
再びサンドスターで身を包むと、今度は一対の漆黒のカラスの翼が出現する。これはヤタガラスの特徴だな
「これも成功ですね。次」
「──
三度サンドスターを操ると、出てきたのはキツネの耳と三本の尻尾。これは2つあるキツネの力の一つ、キュウビキツネの特徴だ
「よしよし…次!」
「一旦休憩してもいいですか!?これ結構神経使うんですよ!」
「一辺に試した方が感覚を掴みやすいでしょう?」
「それは…そうかもしれないですけど…」
「ならそうしましょう?終わったらシフォンケーキ作ってあげますから」
「──
デザートに釣られ、気合いを入れ直してサンドスターを纏ったコウ。オイナリサマの特徴である、ピンと立った耳とモフモフの尻尾が形作られ、その状態を数十秒維持していた
「ふむふむ…どれも前より形成、維持が上手になってますね。はなまるを差し上げましょう」
「やった…!なら…これでもう終わりに…!」
「いいえまだです。まだ【
「…うそでしょ?だってそれ…」
「他より慣れているとはいえ、やらないという選択肢はありません。折角いい感じなのですから、もう少し頑張りましょう?ね?」
先程とは打って変わって慈愛に満ちた笑顔を向けるオイナリサマ。しかし言っていることは中々鬼畜であることに変わりはない
ただそれが効いたのか、反論しても意味がないと悟ったのか、コウは諦めてそのまま暫く修行を続けていた
─
「お疲れ様でした。復習を忘れないようにしてくださいね?」
「は…はいぃ…」
オイナリサマは調理場へ向かった。きっとケーキを作ってくれているに違いない。もしそうじゃなかったら守護けものなのに嘘ついたって言いふらしてやる
結局、全部やらされた上に何度もやらされた…。もう動けそうにない…。机に突っ伏して一生を終えるなんて俺は絶対に嫌だ…
「そんなことはあり得ないから安心しろ。ほら、ジャパリまん食べるか?」
「食べる……あっ、数なんだけど…」
「3つ持ってきたぞ。これで足りるだろう?」
「流石…ホント大好き…」
「っ…、ほら、口開けろ。腕も上がらないんだから」
口元に来た一口サイズのジャパリまんにかじりつく。ジューシーな味わいが口いっぱいに広がり、俺の体と心に染み込んでいく
「だらしない顔してるな…。守護けものの片鱗すら見えんぞ?」
「だって全部ぶっ通しでやったんだよ?こうなるのも許して?」モグモグ
「…それもそうだな」
納得して、次から次へとハイペースで詰め込むように運んでくれるキングコブラさん。数分でもぐもぐタイムが終わってしまったので、ペンとノートを用意して、軽い復習をしておこう
【野生解放】
フレンズに備わっている、自身の能力を飛躍的に向上させる技。まぁ、俺のは皆のとは少し違うんだけど、これが一番しっくりくるからそう呼んでいる
ただ、これは燃費がすこぶる悪い。じっとしてる分にはそこまでなんだけど、戦闘するとあっという間にサンドスターがなくなってしまうのだ。大体3~5分くらいだったかな…短いなぁ…
今までは危ない場面はありながらも何とかしてこれたけど、これからもそうだと連戦なんて出来やしない。かと言って
だから、他の力も同じようにできないかと考えた
そうして生まれたのが、前に試した【
それを応用して、他の力も同じように分類してみた
最初は本当に苦労したけどね。サンドスターの流れを読むとか一個だけ取り出すとか理解不能だったし。あの二人のスパルタ授業によって何とかコツを掴めるようになったけど
まぁ、そのおかげで意外といい感じに使い分けが出来るようになってきた。それぞれに割り振った属性は合ってないと思うかもしれないけど、自分の中では結構しっくりきてる
ただ、一つだけ埋まっていないのがある
「【
「これは、ヤマタノオロチの力なんだけど…」
実戦練習を繰り返しても、野生解放をしても、これだけは一向に出てくる気配がない。原因は不明。一応俺の内にあるのは確定してるんだけどなぁ…
「何かトリガーがあるのかもしれないってオイナリサマは言ってたんだけど…それが何かは分からないんだよね…」
「本人がいれば何か分かったのだろうか?」
「さぁ…?あの人結構いい加減な気もするから…」
何も知らなさそうだし、知ってても簡単には教えてくれなさそうだし。再会しても、正直あんまり期待は出来ないかな…
「…あっ、一旦休憩しよっか」
「ん? …成る程、そうだな」
外から美味しそうな匂いが流れてきた。オイナリサマがケーキを作って来てくれたのだ
一人で食べるよりも二人で食べる方が美味しいにき決まってるので、仲良く半分こして、心ゆくまで堪能した
◆
「いくぞ!うおおおおお!」ブゥンッ!
ヂッ…!
「っ…! この…!」
「はっはっは!そうだ!そうでなくてはな!」
ヘラジカの振るった武器がコウの頬をかする。
最近はへいげんで実戦練習を繰り返している。勝負の方法は初めて二人が対決したルールで、審判はオイナリサマがしている。勝負好きなヘラジカは毎日楽しそうだ。コウは…そうでもないな…
「──
「っ…来たな!今日こそは打ち破る!」
ここで、コウのギアが一段階上がる。身体から溢れるサンドスターの輝きが更に増し、俊敏さ、反応速度、力、威圧感…全てが先程よりも強くなる
「あれやられると勝てなくなるんだよねぇ~」
「守護けものの力をより引き出している状態…だったな」
「それなら、強くないはずがないね」
「ハンター顔負けだよ、全く…」
そう会話をしているのは、ライオン、バリー、オオカミ、ヒグマ。キンシコウとリカオンもうんうんと頷いている。私も相手をしたことがあるが、彼女達の言う通り、コウがあの状態になると途端に敵わなくなる
ヘラジカも負けじと野生解放をして応戦するが、力関係は完全に逆転した。先程まではかわしきれなかった彼女の攻撃をコウは悠々とかわしている。繰り出す反撃は重く速く、ぶつかり合う度にヘラジカが後退させられている
「これで…フィニッシュッ!」ドゴンッ!
「ぐっ…!?うわっ!?」ドサッ…
「そこまで!」
決着がついた。今日もまた、コウの勝ち越しだ
─
「やはりコウは強いな!私もまだまだ鍛練が足りないな!」
「でもどんどん強くなってますよ。攻撃が重いし、繰り出すスピードも速くなってる」
「おおそうか!?嬉しいなぁ!」
これはお世辞でもなく本当のことだ。日に日に彼女達の動きは洗礼されてきていて、フレンズの中でも特に強くなっている
俺の方も、以前より変身を使い分けることができるようになってきた。とは言え完璧にはまだまだ遠いんだけどね
「さて、私も運動しようかな。キングコブラ、相手をしてくれないかい?」
「民の願いを叶えるのは王の務め。引き受けてやろう」
「それが終わったら次は私とやろう!最近負け続きだからな!」
「フッ…望むところだ」
今度はオオカミさんとキングコブラさんの対決だ。キングコブラさんはこの中じゃ一番強くなって、色々な子から勝負を挑まれている。大型ネコ科のフレンズからは特に多い
そして意外だったのは、オオカミさんがこういうのに参加すること。本人曰く『気分転換』らしい。でも彼女のことだから、何かあるんじゃないかと疑ってしまったりもする
「今日はオオカミが有利かもねぇ~」
「今日は有利?日によって変わるんですか?」
「あれ?聞いてない?オオカミとキングコブラさ、たまに凄く調子が良い日があるんだって」
「…そんなの聞いてない」
「ま、まぁ気にしないでいいんじゃない?それに見た方が早いでしょ?」
視線をライオンさんから二人に戻す。よく見てみると、確かにオオカミさんは身軽に動いていて、キングコブラさんの攻撃をひょいひょいと避けている。力も増しているのか押し合いも征している
…そういえば、俺と勝負した時も、たまにいつも以上に強かった時があったような…。気のせいじゃなかったんだなあれ
「コウは見学してる暇ないわよ?今度はこっち」
「うへぇ~…」
「うへぇ~じゃないの。ほら早くしなさい」
「はぁ~い…。じゃあ、行ってきますね」
「はいよ~。また後でね~」
俺はキュウビ姉さんと離れた場所で別メニュー。やる事はいたって簡単、姉さん達とひたすら戦って野生解放の持続時間を伸ばす特訓だ。二人ともいつも容赦ないんだよね…
それにしても…さっきの話、少し気になる。キングコブラさんは前にも似たようなことあったし。それがオオカミさんにも出ているとなると原因なんてわかりゃしない…
…まぁ、本人も特におかしな所はないから言ってこないのかもしれないし、俺が気にすることじゃないのかも。二人とも無理をするような人でもないしね
それに…今はこっちに集中しないとね
「どうしたの?何かあった?」
「んーん、なんでもないよ」
「そう?なら構えなさい。全力、出していいからね」
姉さんの輝きが増す。これまでも受けてきた、本物の守護けものの威圧感。だけど怯んでる暇はない。こんなことで怖じ気づいていたら、強くなんてなれやしないのだから!
「──野生解放!いくよ!」
「来なさい!」
今の俺の全力をぶつける!勝負だ、姉さん!
そして、毎日はあっという間に過ぎていく
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