第109話 今もこれからも


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『ねぇおとうさん?』

『どうしたコウ?』

『おとうさんはおかあさんのこと、どんなふうにすきなの?』

『…いきなりどうした?』

『リルねえちゃんがね、「ボクもパパとママみたいに恋したいなぁ。好きな人できないかなぁ」っていっててね』

『ほう?』

『ぼくは、おとうさんも、おかあさんも、リルねえちゃんも、ヨルねえちゃんも、ほかのひとたちも、みんなすきだよ。でも、ねえちゃんのいってた“すき”とは、きっとちがうんだっておもった。でも、ちがいがよくわかんなかったからきいてみた』

『成る程な。確かに、コウの好きと私のミドリに対する好きは違うな。ただ…』

『ただ?』

『…言葉にしようとすると、この上なく難しい…』

『…おとうさんでもむずかしいの?』

『…ごめんな、上手く答えられない。だけどな?お前も大きくなれば、その“好き”の意味が分かるさ』

『…そういうものなの?』

『そういうものなの。さっ、晩御飯買って帰るぞ。何がいい?』

『ん~…おなべ』

『鍋か…よし、材料選びに行くぞ!』

『あっ!まってよおとうさ~ん!』




◆◆◆




━━そろそろ、ここの生活にも慣れたかしら?


「うわっ!?いきなり出てこないでくださいよ先生…」


━━その顔が見たくてついね?で、どう?


「はぁ…。まぁ、相変わらず大変ですが、前よりは余裕ありますよ」


━━それは上々。…ところで、あっちの方は順調?


「…あっちとは?」


━━館の住人との禁断のラブロマンスよ


「そんなもの元々ないんですけど!?」


━━そうなの?誰かとはそんな関係になってると睨んでいたのだけど


「誰ともなってないですしそんな風には見ていませんよ…。それに──」


━━『俺をそんな風に見てくれる人なんていない』…って?


「──っ…」


━━貴方、ここを何処だと思ってるの?とは価値観が違うわよ?


「…そうだとしても、俺がそんな仲になれるなんてあり得ないですよ」


━━あり得ない、なんてことはあり得ない。確かに、今いるとは断言できないし、今すぐできるとは言わない。だけどいつか、ありのままの貴方を好きになってくれる人がきっと現れる。だからそう悲観するものじゃないわよ?


「…いればいいですけどね、そんな人」


━━…ホント、自己評価低いわよね貴方。そんなに自信がないなら私が評価してあげましょうか?


「別にいいです……ってケーキ勝手に食べるな!」


━━おいしい!これ貰っていくわね~!


「待てゴルァ!」



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懐かしいことを夢を見た


一つは、小さい頃の、アオイさんとの会話


両親が幸せそうにしているのを、姉さん達はいつも羨ましそうに眺めていた。それを見ていたぼくは、ただただ不思議に感じていた


あの頃は、恋なんて知らなかったから


もう一つは、つい最近…でもない、先生との会話


あの世界での俺の立場は、から来たちょっと(?)変わった。俺のことなんて誰も気に止めないし、俺もそうは見ていなかった


あの頃は、恋なんて考える余裕はなかったから


だけど、それも遠い昔の話だ


横を向くと、静かな寝息を立てて眠るキングコブラさん。俺にとっては世界一可愛いくて、大切な女の子


俺の、特別な“好き”な人。ありのままの俺を、全部受け止め、受け入れてくれた人


今の状況は、二人とも一糸まとわず、ぴったりと寄り添っている。その事実が、昨日したことは現実だと教えてくれる


俺達は、一線を越えて結ばれた


思い出すと恥ずかしかったりもするんだけど、それ以上に心が満たされている。彼女の何もかもが、今まで以上に愛おしい


彼女の髪に触れて、少し頭を撫でる。気持ち良さそうにしている…気がする。一体どんな夢を見ているのだろうね?


「んぅ…?」


「あっ、ごめん、起こしちゃったね」


「…気にしなくていい」


「そっか。 …その…大丈夫?体調とか、色々…」


「…特に問題ない」


恥ずかしそうにしながらも、ちゃんと受け答えはしてくれる。彼女も色々思い出したのだろう


…本当に大丈夫だろうか?優しくしようと努力はしたんだけど、結局できなくて痛い想いをさせてしまった。もう少しどうにかしてあげたかったな…


「…まぁ、昨日のは、痛かった… が、良かったという気持ちの方が強い。何より今、とても幸せだ…」



『幸せ』



その一言を聞けて、俺は本当に幸せ者だ。君の幸せが、俺の幸せ。そう思えることが、こんなにも素晴らしいなんて


「…本当に、ありがとう。俺も幸せだよ」


一言呟いた後、つい彼女を抱き締めてしまった。彼女は一瞬固まったけど、優しく抱き締め返し、頭を優しく撫でてくれた




*




シャワーを浴びてさっぱりしたので、出発の準備をする。えっ?一緒に浴びたかって?あの後どうしたかって?


…好きに想像して、どうぞ


部屋を出て廊下を少し歩くと、前からラッキーさんがジャパリまんが入ったかごを持ってきたので、2つ…いや4つ貰っておく


キングコブラさんに聞こえないくらいの声で、部屋の片付けを頼んでおいた。了承した後、更に小さい声で『昨夜ハオ楽シミダッタネ』と言ってきた。なんで知ってるんだ?それに余計なこと言わなくていいんだよ。否定はしないけど


バイクの充電は万全なので、早速次の目的地に向かう。ありがとう遊園地、また近いうちに来る気がするよ


「今日はどこに行くんだ?」


「今日はあのサンドスター火山に行くよ」


「火山に?あそこは神聖な場所だから立ち入り禁止だと博士が…」


「俺はいいの。何故なら守護けもの(見習い)だしパークの(暫定)職員だしね」


「大切な部分を隠していないか?」


「気のせい気のせい」


とか言いながらバイクを走らせていく。セルリアンが最近増えてきているとは言うけど、道中で出会うことはなく快適に進み、何事もなく到着した。目撃証言とはいったい…


「ここからは歩いて行こう」


麓にバイクを置いて、俺達は登山を始める。今日は久しぶりに何も出ていないからゆっくり行きましょう


途中まではそこまで景色は変わらない。辛うじて道と呼べる場所を歩いて、時々振り向いて景色を眺めて話をする。彼女が指を差した方向にあるのはろっじ。皆今日は何をしているんだろうね?


結構登ったからか、クレーターも増えてきた。そして、あれが彼女の目に止まった


「これが、ヒトが使っていた…」


「そうだね、これが例の異変の爪痕だ」


墜落し、大破し、放置された爆撃機を触る彼女。少し寂しそうな、悲しそうな表情をしている


例の異変については、長も交えて俺から話してある。やはりと言うべきか、話終えたら苦い顔をしていた


「もう二度と、あんな悲劇は繰り返させない。パークに危機が訪れた時は、私も力を貸すぞ」


強く宣言する彼女に、俺は黙って頷いた。彼女はフレンズの中でも特に強いし強くなった。パークに危機なんて訪れないでほしいけど、セルリアンがいる以上どうなるかは分からない。その時には遠慮なく頼ろうと思う



…本音を言えば、彼女には戦いから遠ざかってほしい



もう二度と、危険な目にあってほしくないから




*




「凄いな… ここが頂上、これがフィルター…。これ全部が、サンドスターなんだな…!」


彼女が震えて感動している。まぁこれをこんな間近で見たらそうなるよね。遠目から見ても迫力のあるキョウシュウの象徴が、今は手の届く距離にあるのだから


「オイナリサマの結界は…うん、大丈夫そう」


「結界…か。ということは、これが四神の石板というやつだな?」


Exactlyイグザクトリー(そのとおりでございます)。東西南北の位置にあるのが、ここにあるフィルターを作る四神の石板。そして、それを守っているのがオイナリサマの結界。結界は透明で見えないけど、近づくとあるのが肌で分かる


「…あの日、ここで戦ったんだな…」


あの日…幻想異変の元凶である、俺のもう一人の姉とも呼べるセルリアン…『ヘル』と決着をつけた日のこと。あれすらも遠い昔のように感じてしまう


「…図書館で別れた後、私はお前の力になりたいと思いじゃんぐるに帰った。戦いの最中でセルリアンが砕け散ったから、あまりなれなかったがな」


「そんなことないよ。皆が、君が戦ってくれていなかったら、あいつに止めをさせなかった」


最後の抵抗で聞かされた忌むべき言葉の数々を、振り払い力をくれたのは彼女達の言葉だった


「『おかえり』って言葉、凄く嬉しかったんだ。今も嬉しいんだけど、あの時のは俺にとっては特別だった」


帰る場所なんてないと思っていた。だけど彼女は、一番欲しかった言葉を言ってくれていた。ここに居場所をくれたんだ。それは何度伝えても足りないくらい大きな気持ちだった



だから、俺はここで改めて、感謝と愛を形にする



「…キングコブラさん、俺はこれからも、君に『おかえり』と言ってほしい」


「…? そんなこと、頼まれなくてもしてやるが?」


「あっ、いや、それはそうなんだけどね?」


「???」


首を傾げてる。さっさと言わないからこうやって困らせるんだぞ俺よ!もう答えなんて分かってるんだからやることやれともう一人の僕が言ってるぞ!


「その、左手、出してもらえるかな?」


「…こうか?」


左手をこちらに伸ばしてくれたので、片膝をつき、その手をそっととる



そして、ポケットから取り出した、を、彼女の薬指にはめた



「…これは…!」


「『婚約指輪』…的なやつ。将来、“ツガイ”…ヒトで言うと 、 “夫婦” になろうっていう約束を形にしたものだよ」



本格的な指輪はないので、お土産屋で見つけたシンプルで安っぽいものになってしまった。でも、どうしてもしたかったから持ってきた。サイズは過去に寝ている間にラッキーさんに測ってもらった。ピッタリのがあって本当に良かった


「だから…その、これからも、俺と一緒にいてほしい。俺と夫婦になってほしい。今はそんなものしかないけど、いつか結婚して、その時には綺麗な指輪を渡すよ。だから、その時までは…」


「我慢してほしい…とでも言うつもりか?」


「…えっ?」


「ハァ… バカなことを言うな。凄く嬉しい。 …本当に、嬉しい。これは、夢じゃないんだよな…」


「…夢なんかじゃないよ」


瞳に涙を浮かべながらも、俺の言葉で微笑んでくれる彼女。不安な気持ちを、少しでも消せたのなら良かった


そんなものは、何度でも消してあげるからね



「…改めて、これからもどうかよろしくね?」


「こちらこそ、よろしくな」



もう、俺達の関係を隠す必要もないだろう。お互いの左手の薬指にはめた指輪が、それを物語っている



軽い口づけをして、彼女を抱き締める。強く強く、温もりをもっと感じられるように




*




下山して、今度は図書館へ。目的は地下室にある、俺に関わる資料だ


「こんにちは~、博士ー、助手ー、いる~?」


別に二人に用はないんだけど、図書館にいるし島の長なので一応声を掛けておこうかと思った次第だ。料理を頼まれたらおにぎり(梅干)で済ます予定です


「…いないようだな」


「みたいだね」


珍しい、仕事でいないのかな?ステージの手入れか、それとも別の案件か。いずれにせよ、いないのなら都合がいい


地下室に続く階段を降り、扉を開いて明かりをつける。パソコンは机に置いてあるままだし、隠した資料の場所は特に変わっていなかったのですぐに見つけられた


…見てそのまま元の位置に戻したっていう可能性もあるけど、それはまぁいいや


「ここに、お前の過去に関わる情報があるんだな?」


「そうだよ。資料と映像の2つ。どっちからがいい?」


「私はどちらでもいいぞ」


なら映像にしよう。こっちは俺も見ていないので丁度いい。資料は結構読んだから後回しでも問題ないし。彼女もワクワクそわそわしているのが分かる。そりゃ気になるよね


電源を入れて、USBメモリを差し込む。読み込みが終わり、画面が切り替わる



『管理者の名前を入れてください』



「…名前?」


「どうやら、該当者を入力しないと次に進まないみたいだね」


とは言っても検討はついている。キュウビ姉さん達や俺と深く関係する人は、あの人達だけだから



「管理者は…『八雲ヤクモ アオイ』」



父さんの名前を入力。正解。次に進む



『家族構成を入力してください』



「母は…『八雲 ミドリ』。娘は…フェンリルの『リル』と、ヨルムンガンドの『ヨル』」



三人の名前。どんどん打ち込まれる文字を、彼女は静かに見ている



「そして…息子の俺、『八雲 コウ』」



入力が完了すると、ファイルが展開される。俺も彼女も、もう驚かない



「じゃあ…いくよ?」


「ああ、よろしく頼む」


俺は、広げられたファイルの内の一つにマウスを当てる


脳内に浮かんだ、かつての家族を見つめながら




























ポテポテポテ…



「…受信中…受信中…受信中」



ピロピロピロ…ピキーンッ!













『あっ!か───ゃん!見え──よ!』

『そう─ね──バルちゃん!もう──だ─!』

『フェ──ク─来─のだ!風が気持───のだ!』

『──イさ~ん、身を乗り──とあ──いよ~?』


『ア──さん、─ドリさ─、そろ───すよ!』

『そう──ミ──さん。やっ──いた…』

『─ワさ──に自慢──ゃ──しょう!』










ジジジ…ジジ…




ピロピロピロ… シーン…

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