第69話 ライブのあとで
【
そこからキメラは、『一つの個体に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっていることやその生物』を指す言葉として使われている
そんな感じで言ったら皆『???』って反応だったので、『色々なけものの要素があるけものなんだよ』って感じで伝えたら納得してた。難しいことは言わなくていいみたい
まぁ俺の体は彼女達の細胞ではなくサンドスターが混ざっているのだが、これもキメラとして扱っても問題ないだろう。むしろそれ以外の言葉が見つからない
そして、野生解放をするとご覧の通り全て表に出る。伝説獣を合成した神話にもいない獣。だから『幻想のけもの』。ぴったりだね
自分でも歪だと思った。時々放っていた禍々しい雰囲気は、吸血鬼の魔力ではなくこれだったのかもしれない。だから隠しておきたかった。皆に気味が悪いと、怖いと思わせたくなかったから
でもそれは杞憂だった。自己紹介をすると受け入れてくれた。受け入れるのが速すぎてビックリしたけどね
これで俺はパークの一員になれた。もうこんなことで悩むことはない…と思いたい。という顔をしていたらしくサーベルタイガーさんに怒られました。怖い…
お祝い…とは違うけど、最後はプレゼントとして『ようこそジャパリパークへ』を大合唱してくれた。まさに『ようこそ』と言われてるみたいで凄く嬉しかった
質問を受け付けます…とか言った瞬間、慣れない力を使った為か、急に反動が大きくのし掛かってきて倒れそうになったので中止に。とりあえずの挨拶をして楽屋で横になる
トラブルもあったけど、無事に終わったぺぱぷライブ。怪我人や食べられた子がいなかったのは不幸中の幸いだった。少し休めたので皆の元に戻り片付けをしている
無理はしないよう言われてしまったので、今は最後列のベンチに座り、会場を去るフレンズを見送りながら、周りやステージを見渡し今日のことを思い出す
「ライブステージ…か…」
照明にスピーカー、スタンドマイク。一通りの物は揃っている。そして広い。観客も大勢入るわけだ。流石にライブが終わったから今はがらんとしているけど
…とか思っていたら、何人かまだ残っているみたいだ。感想を言い合って盛り上がっている
「どうしました?ボーッとしちゃって」
「ジェーンさん。いや、今見るとやっぱり雰囲気が違うなぁって思ってね」
「あの熱気は今はないですからね。流石にそのままだったら疲れちゃいます」
そりゃそうだ、普段からあんな盛り上がっていたら何事かと思う。あの雰囲気、あの時間は一瞬で過ぎてしまうけれど、一瞬だからこそ価値があるんだ
「残っている子も中にはいるけど、縄張りには帰らないのかな?」
「遠い子は明日帰るそうですよ。寝る場所もありますので」
ほら、と指差した方を見ると、ステージから少し離れた所に、カプセルホテルの様な物が立てられている。フレンズなら寝返りを打てそうなくらいの広さがある。敷かれている物も柔らかそうだ
「因みにあれはビーバーさんとプレーリーさんが作ってくれました。遠いちほーに住んでいる子が早めに来ても大丈夫なように。二人曰く簡単だったとか」
簡単…?複数人泊まれる建物が、簡単…?もう何でも作れるんじゃないかあの二人。木だけじゃなくてコンクリートとかレンガとか使いそうな勢いだよ
「このベンチも作り直してくれたんですよ。結構ボロボロで座ると痛そうでしたから」
「本当にね、凄い綺麗になってる…」
綺麗に…なってる…?
━━━━━━
『ほらコウ、ここがライブステージだ』
『うーん…』
『見えないかな?よっ…と』
『うわわ…』
『見えたか?あそこでやるんだぞ~』
『わぁ~…すごいおおきい…』
『凄い人混みですね。迷子になりそうです』
『流石に肩車だと危ないな…』
『ならボクが手を繋いでおくよ!』
『私も繋いでおこう』
『あっ…うん…』
『あら、羨ましいです。碧さん、私達も』
『そうだな。はい』
『~♪』
『チケットは…おっ?ラッキーだな、最前列だ。こっちから行くぞ。はぐれるなよー』
━━━━━━
「コウさん?どうかしましたか?」
「…少しだけ、一番前の席に座ってもいいかな?」
「別にいいですけど…」
「ありがと…。よっと…」
少しふらついたけど、ゆっくり歩いて最前列へ。ここから見るステージ…思い出すのは、初めてここに来た時の記憶。眼を瞑り、それを掘り起こす
━━━━━━
「仮面フレェンズッ!参上ゥッ!」
\仮面フレンズガンバレー!/ \キャーカッコイイー!/
「行くぞ怪人テツヤツヅキ!正義の鉄拳!フレンズパァンッ(チ)!」ボカッ!
『なンの…!お返しだ!睡眠光線!』ビビビ
「ぐわぁ!?徹夜後にそれはやめろぉー!」
『今日は仮面フレンズショーも見れて良かったな』
『かめんふれんず?』
『パークで大人気のヒーローなんですよ』
『男性研究員がやっているらし…あっ…』
『ヨルッ!そういうのは…!』
『だいじょうぶ、わかってるから』
『『『『……』』』』
『…今、誰か名前叫びましたね』
『翠、その報告はいらない…』
*
『『『『~♪~~♪~~~~♪~♪』』』』
『…きれーなうた…』
『
『ペンギンアイドルプロジェクト…だそうだ。いい曲だ』
『華やかで綺麗だな。……どうした翠?』
『いいえ、何でもないですよ~』
『???』
(パパ…)(父上…)
『あっ、おわっちゃった…』
『あっという間だったな。売店があるから、何か食べてから帰ろう』
『ボクタコ焼きと焼きそばとジャパまんとアイス!』
『どれかにしろ。食い過ぎだ』
『構いませんよ。コウくんは何が食べたいですか?』
『…えっと』
『迷ってるならあれ!フリシアンちゃんの特製バニラアイス!濃厚で凄くおいしいよ!』
『最初からアイス?いいのか?』
『おいしいからいーの!フリシアンちゃーん!アイス二つちょうだい!』
『は~い、どうぞ~』
『ありがとー!はい、コウ!』
『…いただきます。…………おいしい…!』
『良かった!ボクもたーべよっ!』
『父上、私も…』『碧さん…私も…』
『はいはい、皆でいくぞー』
━━━━━━
「…さん、…ウさん、コウさん…」
「…えっ?な、なに?」
「なんで、泣いているんですか…?」
「えっ…?あっ…」
頬を拭うと、手の甲に水滴がつく。それが自分の涙だと気づくのに、少し時間がかかった
自覚した途端に、それは溢れてきた
「どっ、どうしちゃったんですか!?大丈夫ですか!?」
「ごめん…、大丈夫、大丈夫だから…。もう少ししたらっ、落ち着くから…。だからっ、もう少しだけ…」
どんなに拭っても止まらなかった。だからせめて、これ以上心配させないよう声だけは抑えた
ジェーンさんは何も言わず、止まるまで隣で俺の頭を撫で続けてくれた
*
「ごめんね、急に。落ち着いたから大丈夫。ありがとう」
「いえ…」
とりあえずは止まった。あの時大丈夫って言ったはずなのになぁ…。俺は、なんて弱いんだろう。だけど撫でられていたのは心地よかった…なんて、絶対に言えない
「…仮面フレンズかぁ」
「急にどうしたんですか?」
「脚本によっては、考えてもいいかなって思ってね」
「ほ、本当ですか!?分かりました!次のライブまでに、コウさんが納得するものをご用意いたしますね!」
「そ、そんなに気合い入れなくても…」
ハッとして顔を赤くして俯く彼女。どんだけやってほしかったのだろうか。ただここまで喜んでくれるなら、言っといて良かったと思う。いい顔、いただきましたってね
「そ、そういえば、あれはいつにしますか?」
「あれとは?」
「もう、忘れちゃったんですか?それとも私に言わせたいんですか?」
あれ…あれ…?どれ?それ?いや…
「…カフェ…デート…だよ…ね?」
言い切る前に声が小さくなる。ライブ終わったら行こうって確かに言ってた。俺の反応を見て顔を赤らめて嬉しそうに頷くジェーンさん。顔に出てなくても声に出てしまった俺の心境、穏やかではない。このタイミングでこの話は効くからやめてよ…
「そう、だね。いつがいい?」
「なら…三日後でどうですか?その日までオフなんです」
「分かった。待ち合わせ場所は?」
「朝にあのロープウェイの所でどうですか?」
「遠くない?大丈夫?」
「大丈夫ですよ。いい運動になりますし」
「分かった。じゃあ決まり」
「はい。約束ですよ?」
指切りのような事をして確認する。遅刻しないようにしなきゃね。布団に負けたので遅刻しました、なんて言ったらペンギンチョップ不可避。更にメンバーからの追撃。肋骨折れちゃう
「しっしっし、もう大丈夫そうだな~」
「「…っ!?///」」
「ほれ、青春はそこまでにして片付け手伝え。特に少年、男なんだから力仕事やってくれよ?」
「そっそうだね!もう大丈夫ですから行きます!ジェーンさんも行こうか!」
「はっはい!行きましょう!」
ジャイアント先輩いきなり出てこないでくださいよ!あーもう絶対聞かれてた…くそっ!この何とも言えない感情は仕事で発散する!やってやんよ!
*
片付けも終わって、今はステージに座っている。ジャパリまんを食べながら今後についてを話していく
「コウ、図書館の資料は何処まで見ましたか?」
「日記だけです。映像は見る気がなくなってしまいましたので」
文字だけで衝撃の真実だったんだ、映像なんて見たらぶっ倒れてしまう所だっただろう。だけどそれはあの時の話。今はそうでもない…気がする
「ということは、全て確認するまでは図書館にいるのですか?」
「我々はお前を歓迎しますよ。…ジュルリ」
おい毎日料理作らせる気じゃないだろうな?作らんぞ絶対。そして栄養バランスが片寄るからジャパリまんも食べなさい
それに…
「その資料についてなんですけど…見るのはもう少し先でもいいかなって。今悩んでることはなくなりましたし、悩みを増やしたくないですし」
本音はこれ。折角負担が減ったのにまた増やして落ち込むなんて事はしたくない。そんな事をしてみろ、正座説教フルコースだ。そんなの絶対嫌だね
「なら、今後はどうするの?」
キュウビキツネさんが聞いてくる。俺の住む場所の確認だ。ここに絶対にいなきゃいけない、という場所は特にはない。雪山の旅館でも図書館でも遊園地の管理室でも俺は住める
だけど、既に俺の
「俺は、これからは──」
*
バイクを走らせ、その場所に訪れる。森の奥にある、フレンズと人が一緒にお泊まり出来るよう作られた施設。フレンズに適した部屋が色々あり、そこにいるオーナーに部屋を語らせたら右に出る者はいないだろう
ドアを開けると、オーナーがお辞儀をする
「いらっしゃ…。いえ──」
オーナーが言い直そうとした時、奥から二人のフレンズも出てきた
「お帰りなさい!」
「お帰りなさい」
「お帰り、コウ」
「ただいま、キリンさん、アリツカゲラさん、オオカミさん」
ここはろっじ。今日からここが、俺の家だ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます