第26話 彼女のほしいもの


「なんだかいい感じじゃない!?」


「あんなにはしゃいでるジェーン見たことねぇぞ」


「最高…サイコーですぅ!」


こちら尾行組。先程売店で見つけた双眼鏡で二人の様子を眺めている。因みにイワビーが大型双眼鏡を見つけて持っていこうとしていたが、流石にバレそうなので却下された


「しかし…皆持ってきたんだな…」


「そういうコウテイこそ着けてるじゃない」


売店で見つけたのは双眼鏡だけではない。プリンセスはネックレス、イワビーは指輪、コウテイはブローチ、マーゲイとブラックジャガーは光る棒…いわゆるサイリウムを持っていた。特に前者三人はキラキラしているかわいい物をちゃっかり選んでいた


「まぁ、オシャレしたいしな…」


「でもステージでのトークに使えるんじゃないかしら?」


「それもそうだな。そういえば、フルルは何選んだんだ?」


イワビーがフルルに話を振ると、フルルは左腕につけた物をターンしてみんなに見せる


「フルルはねぇ~これ~」


この色かわいいよね~と言って腕につけていたのは、紫色の腕輪。一つは腕に、手には二つ持っていた。着けた後にペア用を持ってきたようだ


「なんで3つ?誰かにあげるのか?」


「イワビーにあげるよ~おそろい~」


「…何言ってんだよ。あげる相手もっとちゃんと考えろ」


「冗談じゃないんだけどな~」


はいはい…と話を受け流すイワビーだが、内心ドキッとしていた。知ってか知らずか、フルルはいつも通りのほほんと返事をする


「あっ、また動くわよ。行くわよ、みんな」


目線の二人が動き出す。プリンセスを先頭に尾行の再開である


因みに、マーゲイとブラックジャガーの物の使い道はなんとなく予想できたので、誰も触れることはなかった





売店を出て、また少し遊園地の案内をした。歩きっぱなしだったので、今はベンチに座って休憩中。ラッキーさんが水を持ってきてくれた。ペットボトルに入ってるけど、一体どこから持ってきたのだろう?


「疲れましたね~」


「結構歩いたからね。はい、フタ開いたよ」


「ありがとうございます~」


…完全に緩んだ顔だな。オフはみんなこんな感じなの?相手はパークのアイドル…とか思ってたけど


どこにでもいる女の子だ。新しいものを見るたびに、眼を輝かせ、テンションが上がり、嬉しそうな仕草をする、とても素直な、真っ直ぐな女の子。表情も結構コロコロ変わるから、見てて飽きないね


もしこれがマーゲイさんだったら、鼻血だしてぶっ倒れてるんじゃないか?この笑顔で見られたら大抵の子は堕ちるよ、これ


「うまく出来たかは分かんないけど…楽しかった?」


おぼろげな記憶を頼りに説明していたから、うまく伝わったかどうかはわからないけど…


「凄く楽しかったです。この時間が、ずっと続けばいいのに…なんて考えてしまうくらいに」


ちょっと顔を赤らめて彼女は言った。そう言ってくれるなら、俺も嬉しい。でも大げさ過ぎないか?刺激的だったのかな?


「コウさんはどうでした?私といて楽しかったですか?」


「楽しかったよ。まるで…」


「まるで?」


まるで…あれ?よく考えたらこれっていわゆる…あれっぽいのか?いや、俺が思っているだけで彼女はそうじゃないかもしれない…






──気持ち悪いこと言わないで!誰がこいつなんかと…!






っ…嫌なことを思い出してしまった…けど


俺だけが意識していた場合、言ったら迷惑になるかもしれない。彼女が楽しいと思ったのはガイドだ。だから、これはあくまで…



「…ツアーガイドみたいだったしね!」



あくまでこれなんだ。俺が頼まれたのはこれなんだから。だから、咄嗟に言ってしまった



「…そう…ですね。そうですよね。…ごめんなさい、ちょっと周りを見てきますね…」タッタッタ…



「えっ…?うん。気をつけて…?」



そう。彼女の気持ちも考えずに、言ってしまったんだ







「ちょっと…コウはなにやってるのよ!」


「まてまて…!落ち着けプリンセス!」


先程まで二人のことを観察していた皆はホッコリしていた。幸せそうなジェーンを見て自分達も嬉しかった


だが今は影から見ていたプリンセスは怒っている。理由は簡単。コウの言葉だった


「なんでジェーンさんはがっかりしているんだ?」


「ブラックジャガー、こういう時は『デートみたい』と答えるのが正解なのよ」


「あぁ…そういうことか」


デート…特に仲のいい男女が出かけたりすること。近年では楽しい時間をこのような場所で、共に過ごすこともデートとしてカウントする人もいる。あの二人は、端から見たらデートをしているようにしか見えないだろう


「しかし、そんなふうに意識していたのはジェーンだけだったと」


「コウが悪いわけじゃねぇけど…あいつ、ちょっと鈍いんじゃねぇか?」


コウにとっては、ガイドを任され、案内をしていたに過ぎないのは皆分かっていた。だが、ジェーンにとって、みんなにとって期待していた言葉ではなかったため、モヤッとした気持ちが残っていた


「あんなにも楽しそうだったからな…」


「…」


「…?フルル、どうかしたか?」


「…ちょっとね~。コウに聞かないと~」


フルルの言葉に一同首をかしげたが、まずは二人の後をついていくことにした







──ツアーガイドみたいだったしね



分かってはいました…。彼にとってそういうことではないと…。頼まれた仕事をしているだけだと…


でも…


少しは期待しちゃうじゃないですか!


私だって女の子なんですよ!?こうやって二人きりなんですよ!?少しは意識してくれてもいいじゃないですか!


…もしかして、彼にとって私はペンギンという扱いなのでしょうか…?写真を撮ったときも、あんなにくっついていたのに平然としていましたし…。女の子として見られていない…なんて…


嫌なことを考えてしまいました…。彼は悪くないのに…。私が勝手に期待して、勝手にがっかりしているだけなのに…。そういう関係でもない、今日知り合いになったばかりなのに…


戻って謝らないと──




『ガガガガガ…!』グアッ!




──えっ?







ジェーンさん…どうしたんだ…?急に離れるなんて…


それに、離れる時に見えた表情、すごく悲しそうだった。まるで、期待していたことを聞けなかったみたいな…




──まさか、彼女は。彼女が欲しかった言葉は




「っ…!」




俺のバカ野郎…!何が嫌な過去だ…!何が恥ずかしいだ…!そうじゃないだろ!?目の前にいた女の子はどんな言葉が欲しかったんだ!?こんな俺でもそういう感じだと意識してくれていたんだ!誤魔化していいことじゃなかっただろ…!


速く追いついて、謝らないと…!




──キャアアアアァァァ!




なっ…セルリアンか!?くそっ…!



「ジェーンさん!」


「コウ…さん…!」


「っ…!?」



自動販売機型のセルリアン!?なんで触手がついているんだ…!?


それよりも、両手足に触手が食いついている…!あれじゃ自力での脱出は難しい。今にも食われる…!


…けど、なぜそのまま動かない…?これじゃあまるで人質をとっているような…。まさか、本当にセルリアンを操っているやつが…!?



『グモモモ…』

『ポッポー!』

『ガタン!』



周りからもセルリアンが…!全部遊園地にちなんだ乗り物の形をしてやがる…!自販機セルリアンの盾になるように出てきやがった、食われたら無事に助かるかわからない…!


それに親玉が見えない…どこに隠れてやがる…!?



…いや、とにかく解放を──



『ソコから…ウゴク…な…』



──なっ…あれは…ヒト型のセルリアン!?







「おい!どうすんだよこれ!」

「落ち着け!マーゲイ、頼むぞ!」

「はいっ!」


グオオオオォォォ…とマーゲイが声真似をして動きを止める。その間にブラックジャガーが大きい個体を、小さい個体はぺぱぷが倒していくが…


「数が多くない!?」


「まるで、私達を行かせないかのように動いている…!」


「どいて…どいてよ!」


次から次へとセルリアンが出てくる。強さは大したことはないが、足が止まってしまう。物量作戦は思いの外きつい


「マーゲイ、あいつらの所に行けるか!?」


「ちょっと無理ね…」


「くそ…頼むぞ、コウ…!」







「セルリアンがフレンズを人質にとり、彼の動きを止めています」


──助けに入れそうか?


「したいのですが…」



『キキィ!』

『クカカカ!』

『コケケ…』



「くっ…こちらも、何体かいます!」


──すまない…余が動ければ…!


「貴女様は休んでいて下さい。私は大丈夫ですから」


コウ…意地を、ヒトの力を見せなさい…!







「お前は…一体…!?」


目の前のやつは確かに言葉を発した。ぎこちなかったが、俺は確かに聞いた、ヒトの言葉を…まるで会話をするかのように…


『ハジメ…マシテ…。わたしハ…ゆうエンチのかんリニン…』


「遊園地の管理人…?」


どういうことだ…まるで意味がわからんぞ!


それに、管理人と言うわりには格好が資料で見たパークの制服を模していない。むしろ仮想パーティーに行くような格好をしている…


「なんだその仮面は…!その格好は…!?」


『これ…カ?コレは…』ニヤリッ


「…これは?」ゴクリッ




『仮面ヒーロー…ライダー・セル…ダ』ドヤァ…




……………………ん?




「ごめん、もう一回言って?」


『仮面ヒーロー…ライダー・セル…ダ』ドヤドヤァ…


「…それはなんだ?」イラッ



『説明しよう!ライダー・セルとは!闇の力でパークを脅かす悪のフレンズ集団やセルリアンと戦うダークヒーローなのだ!今日も悪の力を使い、正義を執行する!因みにライバルは仮面フレンズだ!』


奴の隣にあったラジオ型セルリアンから説明が入った。ご丁寧にありがとうございます


じゃなくて!


「お前は一応ヒーローなんだよな!?」


『…? ナゼ…あたりマエの…コトヲきく…?』


「なんでヒーローが人質とってんだ!怒られるぞ!いろんな所から!」


もし仮面フレンズを模してそんなことしてたら問答無用で粉々にしていたわ!



『それもソウカ…ハナシテやれ…』



カパッ…



「あっ…!」


「っ!ジェーンさん!」


ジェーンさんが解放されて走ってきた。彼女を抱き締める。怪我はなさそうだ。心臓の音が聴こえる…ちゃんと無事だ…!


「ごめんなさい…わたし…」グスッ


「ジェーンさんは悪くない。俺の方こそごめん。無神経なことを言って、君を傷つけてしまった…」


謝りながら、ジェーンさんの頭をそっと撫でる。少しでも安心させないと…


「…色々聞きたいことはあるが、なぜ大人しく解放した?目的はなんだ?」


『モクテき…ソれは…』



セルリアンが考えている…考えている?本当に考えているのか、あれは



長い沈黙を破り、奴はこう答えた



『ヒーローショーの…ふっかつダ…』



…シリアスぶっ壊したいのか、こいつ

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