第37話 しょくごのデザート


「ではアルパカさん、やっていきましょう」


「よろしくね~」


ここはジャパリカフェのキッチン。今店内にいるのは俺とアルパカさんだけ。他のみんなは外でお仕事を頼んだ。遊びも入っているので退屈ではないだろう


残った俺達はというと──



「カフェのメニューが増えるなんて、楽しみだよぉ~」



──こんな目的で、料理をしてます




━━━




「おはようございます…アルパカさん…」


「おはよう~。早いんだね~」


早いというけどアルパカさんも相当早くない?それにバッチリ目覚めてそうだし。開店までまだまだ時間あるよね?一体いつから起きているんだろう?


俺はまだ眠い…。二度寝出来なかった。だって起きたら横にキングコブラさんの寝顔ですよ?なんか気まずくてここに来てしまった


「眠そうだねぇ~。紅茶飲むぅ~?」


「頂きます…。それと…キッチンを見せてもらってもいいですか?」


「キッチン?別にいいよぉ~」


準備してもらっている間に、ちょっと拝見


アルパカさんがお湯を沸かしてるから予想してたけど、ロッジと同じでオール電化だ。おそらく、パークの職員はフレンズに優しい電化製品にしたのだろう。火なんて間違って使ったら対処が難しいし、なにより本能で怖がってしまうだろう


道具も一通り揃っている。ラッキーさん曰くここに限らず料理が出来そうな場所には道具や材料などがあるらしい。長がパークガイド権限を利用して揃えたそうだ。あの子の権限がこんな風に使われるなんて…


「ラッキーさん、賞味期限は?」


「大丈夫ダヨ。他ノラッキービーストガ管理シテイルカラネ」


「ならよし。さて、何があるかな?」


棚にあるもの、この大量のフルーツ…


こっちなら、アルパカさんならいけるんじゃないか?せっかくだし覚えてもらおう。きっと彼女のためにもなるはずだ


もう一つは、泊まらせてくれたお礼をかねて…


「アルパカさん、今日はお店をお昼までお休みにしませんか?」


「お休み?どうしてぇ~?」


「紅茶に合う料理、覚えてみませんか?」


「料理?それ私には難しそうでねぇ~…」


「二つ作りますけど、一つは簡単ですよ。メニューを増やすとお客さんも増えると思いますし、どうでしょう?」


「ほんとう!?じゃあじゃあ、お願いしてもいいかな!?」


「ええ。皆も喜びますし、さっそく準備しましょう」


アルパカさんがやる気になった。これで一石二鳥だ



ん?なぜ一石二鳥だって?



…実は、これにはもう一つ目的がある。俺は甘党なんだ。久しぶりにあれを食べたいのだ!これなら自然に食べられる!気合い入れちゃうぞー!



「…これ飲んで、ちょっと落ち着こうか~」



…紅茶頼んでたんだっけ。改めて、頂きます




━━━




「あれ?なにやってるの?」


おっ、皆起きてきたな。俺が店員側にいるのが不思議なのだろう。だがまだ教えないよ。楽しみは取っといた方がいいでしょ?


「コウがねぇ~料理を教えてくれるんだ~」


「料理を?カフェで食べられるようになるのね?」


「がんばるよぉ!楽しみにしててねぇ!」


速攻でバラしていくスタイル…まぁいいか。ただ作るのはみんなが知っている料理、カレーではない。サプライズ感は保てる


作っている間はどうしようか?ちょっと時間かかりそうだし…折角だから…


「皆にお願いがあるんだけど、いい?」


「なんだ?遠慮せず言うといい」


「外の草むしりをお願いします。来たときに見たんですけど、カフェのマークが見えづらくなってましたので」


マーク自体はなくなってはないけど、あのままにしてたらトリの子も気づかなくなってしまうだろう。そうなれば新規のお客さんは来なくなってしまう。そんなのはもったいない


「出来上がったら呼びますので、終わったら自由にしてて下さい」


「そうか。よしいくぞ、皆のもの」


キングコブラさんが皆を連れて外にいった。トキさんが上から指示してくれるし、カワウソさんが楽しくやってくれるだろう


「ではアルパカさん、やっていきましょう」


「よろしくね~。カフェのメニューが増えるなんて、楽しみだよぉ~」



*



さて、まずは果物を切っていこう。必要な道具は…これ!


「鋭いねぇ~なにこれぇ?」


「これは『包丁』です。食べ物を切る時に使います。結構スパッといくので気をつけてください。使い方は…」


アルパカさんに見えるようにゆっくり剥いて切っていく。リンゴにバナナにメロンにイチゴ…順々に切ってお皿に移す


アルパカさんにも挑戦してもらおう。初めてなのでゆっくりゆっくり…怪我だけはしないでね?でも怖がってはなさそうなのは意外だった


「難しいねぇ~。ガタガタになっちゃうよぉ~」


「いや、初めてでこれは凄いですよ。アルパカさん器用ですね。これならすぐに慣れますよ」


「えへへ…そうかなぁ~?」


そんなこと言ってるけど、もう慣れてませんかねぇ?切るに関しては危なげなくやっている。流石に皮むきはまだ難しそうだけど


でも楽しそうに鼻唄歌いながら切ってる。それはトキさんの歌かな?



*



果物を一口サイズに切り終えたので、次へ進もう


「では、まずは簡単な方を作ります。材料は…これです!」


キッチンに並べたのは、薄力粉、粉砂糖、バター、卵黄、バニラエッセンス、ココアパウダー


「これでクッキーを作ります」


「くっきー?」


【クッキー】

小麦を主原料とした小型の焼き菓子の総称

因みにクッキーとビスケットは国・地域や言語によって定義はまちまちだったりする


「作り方は簡単です。まずはですね──」


頭の中のレシピを声に出しながら、材料を混ぜていく


「半分はそのままで、もう半分にココアパウダーを入れます。これで味が二種類出来ますからね」


「なるほどねぇ~」


こねこねした感触が新鮮なのか、アルパカさんは夢中で混ぜている。反応が田舎のおばあちゃんみたいで、他のフレンズとはまた違ったかわいさがあるね。あるよね?


よいせっ、よいせっと…と呟きながらまぜまぜ。だいぶ良い感じになってきた。これを冷蔵庫に入れて、寝かしている間に…


「じゃあ、もう一つの方を作ります。こっちは難しいと思うので、お祝いの時にでもやるといいかもしれませんね」


「そういうの、『限定メニュー』って言うんでしょお?知ってるよぉ~」


なかなかいい響きの言葉を知ってますね。確かにその方がいいかもしれない。毎日やるよりも、たまにやった方が有り難みがあるし。材料もラッキーさんがどこまでくれるか分かんないしね


せめてクッキーは作れるように、材料のストックはお願いしとこうかな?



*



「よし、後は果物を綺麗に盛り付ければ完成です」


「ふわぁ~!すごいすごい!みんな喜んでくれるよぉ~!」


結構大きなものが出来たな。クッキーも中々の量だ。軽いお茶会になるぞこれ。まぁみんなお仕事で体力使っただろうからちょうどいいかも


食後ならぬ職後のデザート…上手い!上手いと(味が)旨いも掛かってる!なーんて…



「…ぺぇっ!」



…アルパカさんが何かを感じたのか不快になってしまった。ごめんなさい、もうしません


「じ、じゃあアルパカさんは、紅茶とお皿を用意しといて下さい。俺はみんなを呼んできますね」


「わかったよぉ~」



*



外に出て、皆を呼びに来たけど…



「あれ?どこにいるんだ?おーい!出来たよー!」



…返事がない。カフェの地上絵はくっきりしていることから草むしりは終わっているようだ。だけど空を見ても、周りを見回しても見つからない


…まさか、セルリアンがいる?音もなく這い寄ってきた…とか?だとしたらまずい…!早く見つけないと…!


「コウー!つーかーまーえーた!」ガバッ!


「うわぁ!!」ドサッ


カワウソさん!?一体どこから!?気配なんて感じなかったのに!


「フフン!上手くいったよ、ジャガー!」


「凄いね、もうこんなに出来るなんて」


なぬっ、ジャガーさんの指示か。しかしなんでこんなこと教えたんだ?狩りなんてする必要ないだろうに…かくれんぼの延長でやっていたのかな?


「セルリアンから逃げやすくなるかもって、ジャガーとキングコブラが教えてくれたんだよー!」


「やっておいて損はないからな。不意打ちで小さいのなら倒せるし」


なるほど、最近物騒だからな…。こんな風に遊びにも使えるいいスキルだ。まさか後ろから襲われるとはね


「それはいいけど、心配したんだよ?てっきりセルリアンが出たのかと思ったし」


「それは悪かったね。でも大丈夫、私達が倒すから」


…まぁ王二人いるし、最終手段の音響兵器トキさんのうたがあるか。今そのトキさん達いないけど


「ただいま。あら、タイミングバッチリ?」


とか思ってたら戻ってきた。みんなで空の散歩をしていたらしい。俺も自由に飛べたら楽なのに…


「皆さん、お仕事お疲れさまでした。お菓子を用意しましたので、中へどうぞ」



*



「アルパカさん、戻りました」


「おかえり~。用意できたよぉ~」


テーブルに並んでいるのは、人数分の紅茶とお皿。中央には焼いたクッキーと…


「あっ…私が持ってきた果物!」

「きれいに並んでるわね…これはなにかしら?」

「凄く美味しそうなんですけど!」


「これは『ケーキ』。色々種類があるものなんだけど、今回は『フルーツケーキ』だね」


そう、もう一つの正体はケーキ。俺が最も好きなスイーツ。生クリームたっぷりで、間にも果物がたくさんはさまっている。なんて贅沢なんだ…我ながら素晴らしい!


「さっ、これを分けてくよー」


今いるのは…9人か。上手く切れるかな? 少しずれちゃうのは仕方ない。なるべく均等に切って、皆のお皿に移していく。余った果物も一緒に置いておこう。いわゆるセルフサービスだ。お好みでクリームをどうぞ


フォークの使い方は…みんな大丈夫そうだ。練習でもしていたのかな?


…よし、全員にいきわたったね



「では…」


『頂きます!』


「…んん~~!すごく甘いです!」

「おいしー!」

「このふわふわ…なにこれ魔法みたい!」

「ほっぺたが落ちそうだわ…」


こちらケーキを先に食べた組。生クリームとスポンジの洗礼を早速受けたね。これがまた癖になるんだよなぁ。食感も初めての体験だろうし、じっくり味わってね


「このサクサク感…くせになる!」

「味も二つあって飽きないんですけど!」

「食べやすくてついつい運んでしまうな…」


一方クッキー組。ジャパリまんにもカレーにもないそのサクサク感は未知の領域。手が止まらないだろう?もっと食べてね



パクパク…サクサク…モグモグ…



…どんどん食べてといったし、その通りにしてるけど、太らないのかな?そこだけ気になってきた。皆女の子だし…本人が気にしてないならいいけど


「えへへ、うれしいなぁ~。みんな喜んでくれてるよぉ。ありがとねぇ~コウ~」


「どういたしまして。それにこれからですよ」


そう、ここからはアルパカさん次第。噂が広がればいっぱい来るだろうから頑張ってね


まぁそれも、苦労に入らないんだろうけど



*



お茶会も終わって、片付けながらアルパカさんにレシピを教え、ラッキーさんに頼んでみた。どうやら材料をある程度確保してくれるらしい。これでお客さんも増えるだろう


今回作れなかったドライフルーツとそれを使ったクッキーの作り方も教えておいた。アルパカさんは器用だから大丈夫でしょう


今は外でトキさん達とクロさんに集まってもらっている。頼みたいことがあると伝えたら、お菓子のお礼に聞いてくれるそうだ


「頼みたいことなんだけど、クロさんに関わることなんだ」


「私に関わること…ですか?」


不思議そうな顔してるけど、君にとってとても大切なことなんだよ。忘れてたけど、案内役がいてくれるならその方がいいからね


「それで、私達は何をすれば?」


「それなんだけどね…」


三人いるし、歌ってくれれば道中問題ないだろう。だからこれを頼む。この方が速いし


「クロさんを図書館に連れていってほしい」


君とは一旦、ここでお別れだね

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