第19話 使い道
「今から、お前をズタズタにする」
どうも、コウです。突然ですが、俺は今からロッジに逃げようと思います
なぜって?簡単ですよ。目の前の猛獣が遠回しに『お前を殺す』と言ってきたんですよ?そりゃ逃げますって
「…ブラックアウト!(移動技)」ダッ!
「逃がさん…お前だけは…!」ナギッ!
うおおおおお!?本気で向かってきてる!?なんでまた鬼ごっこしなきゃなんないの!?力とどんな関係が…!?
「安心しろ、死なせる気はない」キラーン☆
「ならその爪は引っ込めて下さいよ!」
「…分かった」シュンッ
わかっちゃった!?ますます何でこんなことするのかわからん!全然わからん!
そもそも使えたとしても…!
「真っ直ぐ逃げてていいのか?」
「…はっ!?まず…!?」
ブンッ!ヂッ…!
あっぶねぇ!カスった!当たったらまた折れてたんじゃないか!?
「先程のテストでわかった、そのままじゃ私には勝てないぞ。逃げた所で私の方が速い。どうする?」
どうするって言われたって…どうするも何も…
…まさか、そういうことなのか?
なら、やってやんよ…!師匠直伝武術…!どこまで通用するか試してやる…!
「ハアアアアァァ!」
「ほう、向かってくるか!面白い!そうでなくてはな!」
バリーさんの攻撃を避けて反撃をする。蹴り、突き、足払い…とにかく攻撃して、反撃の隙を作らないようにする…!
色々なものがまだまだ未熟だが、組み合わせることで翻弄する…!いいところに一発でも入ってくれれば…!
「なかなかやるが…威力が足りないぞ!」
「くっ…!」
鍛えてるだけあって頑丈だな…!ダメージが入っているのかわからない…!ちゃんと蓄積してるのか…!?
ガシッ!
「しまっ…!?」
ブンッ!
「くっ…あああぁぁ!」ズザザザザッ
「受け身をとったか…だが、次はどうする?もう打つ手なしか?」
これの繰り返しをしていても無意味…。こっちは一発もらったら終わり。でも向こうは違う。野生解放もまだしていない。持久戦は明らかに不利…!
さっきもやろうと思えば終わっていた。手加減されている。まるで、力を使えと言われているかのようだ
こんなことしている理由は、おそらく襲われたら防御のために使えるようになる…そんなところだろうか
だけど…もし使ったら。使えてしまったら
「お前が今考えていることを当ててやろう」
「…えっ?」
「『力が使えたら、私を傷つけてしまう』…そんなところか」
そんなに俺わかりやすい?ズバリ言い当てられてしまった
「…その通りです。またあんなことになったらと思うと…」
「ふむ…お前の本気がどれくらいなのかは知らん。だが、黒いセルリアンを一撃で倒せるのなら、確かにものすごい力だ。あいつらから聞いた、お前の力はフレンズとは違う、禍々しい異質なものだと。事実として、ヒグマ達はお前一人に追い詰められ、サーベルタイガーは助けてもらった」
あんなことがあったんだ。聞いていてもおかしくはない。禍々しい…か、そうかもしれないね。俺だって最初に見た感想は似たようなものだったし
でも、なんで今こんなことを…?
「そう、助けてもらったんだ。お前の力は傷つけることしかできないのか?」
「…!」
「力は使いようだ。いつまでもマイナス面ばかり見ているんじゃない」
そうか…。この数日、フレンズ達に向けることばかり考えていたのかもしれない。だから無意識に押さえていたんだ。使えない方がいいって
そうじゃない。この力は、誰かを助けることが出来る。例え、怖がらせてしまうとしても
なら…俺がすることは
『グモモモ…』ピョインピョインッ
『グオオオオ…』ズシィン…!
「…セルリアンか。大事な話をしている時に出てくるとは、礼儀がなってないな」
「バリーさん。このでかいのは俺が倒します。周りのはお願いします」
「出来るのか?お前に」
「大丈夫です。すぐに終わります」
「…そうか。なら、背中は任せたぞ」
最初にあったセルリアンと殆ど同じだな。石は正面からは見えない。おそらく後ろ側だろう
そして、今の俺に、姿を隠すものはない。バリーさんには確実に見られる。どう思われるかはわからない。避けられるかもしれない。危険だと判断するかもしれない
だけど
「安心しろ。私はお前を信じている」
その一言が、俺を落ち着かせてくれる。パークを、フレンズを守るために使う。それだけだ
「いくぞ──野生、解放!」
*
前のとホントにそっくりだったな。攻撃方法とか石の位置とか。今回は殴るだけで終わってよかった
要はスポーツでいう『イップス』のようなものだったのだろう。それをバリーさんが(無理矢理)治してくれたんだ。これでまた使えるようにはなった
「…あの、バリーさん」
「なんだ?」
「今の俺の姿を見て、率直な意見を聞かせてください」
「…そうだな。確かに、禍々しい雰囲気を纏っているとは思う。パワーもスピードも並のフレンズでは勝てないだろうな。見せたくないという気持ちもわかった」
やっぱりそう思うよね…。だから少しでも和らげられたらと隠していたんだけど…
「だが、お前のことを知っていたからか、そこまで恐怖心はないな。むしろその力と手合わせをしてみたい」
「えぇ…?なんでそうなるんですか…」
「強いやつと戦うことで、お互いに成長出来るだろう?私はまだまだ強くなれる。お前と戦うことで」
「そうかもしれないですけど…」
「その力でフレンズに稽古をつけるのも、パークの為になるとは思わないか?」
そんなトンチみたいなこと言わないでください。俺はあんまり乗り気じゃないです
「まぁ無理にとは言わん。だが…一言言わせてくれ。私達は、お前が思っているよりも強い。覚えておけ」
…そうだね、俺の暴走を止めてくれたのは彼女達なんだから。てか力抜きじゃ到底かなわないだろうし
「大丈夫ですよ。さっきので散々思い知りましたから」
「ならいい。正体も言いたくなったら言えばいい。今後それをどう使っていくのかはお前次第なのだからな」
傷つけるとかはもう思わない。ただ、正直まだフレンズに向けるのは抵抗がある。怖がらせてしまうかもしれないから。全員が同じ考えじゃないしね
だから、みんなに言うのはもう少し先にしたい。俺の決心もついていないし。それまでは、まだマントのお世話になるかな。まさかいらないと思っていたものが重要アイテムだったなんて…。ゲームじゃないぞこれは
「ありがとうございました。少しだけ、迷いがなくなりました」
「うむ。またなにかあったら言うといい。力になろう」
「はい。そうだ、お礼といってはなんですが、もし俺がパークに馴染めたら、その時はこの力で手合わせしますよ」
「本当か?楽しみにしておくぞ」
いつになるかはわかんないけど…もしかしたらそれが来る前に帰るかもしれないけどね
*
ロッジに戻るとみんながまたババ抜きをやっていた。ハマりすぎじゃね?よく飽きないね
「遅かったね。何かあった?」
「ちょっと手合わせをな」
「あれの後でよく動こうと思いましたね…」
俺もそう思います
「アリツカゲラさん。晩御飯ありますか?」
「はい。どうぞ」
「ありがとうございます」
あー生き返るわー。全身が喜んでるよ。今日もぐっすり寝れそうだ…。でも、その前に
「ラッキーさん。職員資料室ってどこ?」
「コッチダヨ。案内スルネ」
アリツカゲラさんに鍵をもらって、ラッキーさんに案内してもらう。今度はオオカミさんがついてきた。参考になるものがあるといいね
部屋に入り電気をつける。中はそこまで広くないけど、意外と整理されていた。紙の束と動物に関する本が棚にあって、テーブルにはパソコンがあった
「この四角いのはなんだい?」
「パソコンだね。調べものができたり、ゲームができたり。あとは、パークの情報が残ってるかもしれない」
電源ボタンを押してみるけど…反応がない。壊れているのかな?
ピロピロピロ…
「ラッキーさん、動きそう?」
「…コノパソコンハ壊レテイルネ。残念ダケド」
「そっか…」
人がいなくなってどれくらい経っているのかわからないからな…。紙の資料が残っているだけでも奇跡だろう。ここは切り替えていこう
「オオカミさん、自由に見てていいよ。なんかあったらそのテーブルにおいといて」
「了解」
棚にある資料を片っ端から見ていく。フレンズの生態、今後のイベント、セルリアンの形状等…気になるものはたくさんあるが、どれも俺が探している情報ではない
「やっぱり、特殊すぎるかな…」
誰にも聞こえないくらいの声で呟く。異世界からの訪問者なんてそうそういてたまるか、という話だが。ある方が珍しいだろうし
「コウ、これは面白そうだぞ?」
諦めモードに入ったその時、オオカミさんが持ってきた資料。そのタイトルは、『ふしぎ・めずらしいけもの』
「なんだろ、これ」
「どうやら、普通のけものじゃないフレンズ達が載っているらしい」
普通じゃない獣…?もしかして九尾狐とか八咫烏とか?確かにいそうではあるけど…
パラパラとめくってみると、載っていたのは、予想通り伝説とされるけものたち。そして、そのフレンズの姿だった。九尾や鎌鼬のような妖怪、オイナリサマや四神のような神様までいたみたいだ。ただ、名前と姿しかなく、どんな力を持っているかはわからなかった
「こんなフレンズがいたんだね。ギロギロに出しても面白そうだ」
「…実際にはいない獣をもフレンズにするのか。サンドスターってつくづく不思議だ」
とか思ったけどツチノコいるじゃん
そして、最後のページをめくってみる
「…!?これは!?」
「どうしたんだ?コウ」
目に飛び込んできたのは『ケロロ小隊』と『多脚戦車』の文字。そしてそのフレンズとしての姿
これは異世界からの訪問者といっていいんじゃないか!?宇宙人と兵器だろ!?俺の世界じゃ物語の登場人物だ!普通じゃない…!この世界にいるかどうかもわからない生物…!これは大きな手がかりだ…!
「ラッキーさん、この資料に関連するものはここにある!?」
「検索中…検索中…ココニハナイケド、図書館ナラアルカモシレナイネ」
「ないのか…。図書館…遠いけど行くしかないかぁ…」
「バイクなら行けない距離じゃないだろう」
「まぁ、そうなんだけどね…」
距離が心配…なんてニュアンスで言ったけれど、実際心配なのはそこではない
そう、長のことだ。資料を見せてもらう代わりに料理をするのは別にいい。けど、追加注文されるのがちょっとキツいかな…
…いやまてよ?もしかしたら資料が交換材料になるんじゃないか?知識に関することなら興味を持ちそうだし
そうと決まれば、ピックアップしていこうか
*
使えそうな資料をもらって、アリツカゲラさんに鍵を返す。ロビーには誰もいなかった
「皆はどこに?」
「部屋に戻りましたよ。もう遅いですからね」
流石に夜行性の子でも、今日のあれは疲れたようだ。明日は早起きかな?
「俺も寝ますね。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい」
オオカミさんとアリツカゲラさんに挨拶をして部屋に戻る。明日はバイクの練習をして、乗れるようになったら出発だ
練習は、ラッキーさんに手伝ってもらわないとね
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