第13話 終わりよければ


「お久しぶりですね──皆さん」


ロッジを訪れたのは、ヒグマ、キンシコウ、リカオン、サーベルタイガー、タヌキ、そしてバーバリライオン


彼女達は滝から落ちたフレンズを探していた。そして、フォッサとハクトウワシからの情報でロッジにいることをつきとめ、ここまできた


「私達はあるフレンズを探している。そいつがここにいて、私達に会いたいと聞いて来たんだ。案内してくれないか?」


「そのフレンズさんの特徴はなんですか?」


「紅い瞳に赤っぽい髪をして、マフラーとフードを被っていたんですけど…」


「…案内しますね」


「!やっぱりここにいたんだ…」


彼だろうとは思っていたが、これで間違いないことが確定したため安心する。廊下を歩きながらアリツカゲラは質問をする


「そのフレンズさんに会う理由は?」


「この荷物を届けにきたのと、大切な話があるんだ。…向こうも、私達も」


「…わかりました、こちらです」


みんなの真剣な眼を見て、アリツカゲラは静かに答えた。何があったかは知らないが、彼があの状態でも会いたがっていたということは、邪魔をすることではないのだろうと感じた


ここからは、あの人次第


でも、あの人なら大丈夫だろうと彼女は思った


部屋の中から楽しそうな声がする


アリツカゲラがノックをし、声をかけた







ドアが開いた


心臓の鼓動が速くなるのを感じる


喉が渇き、キュッとしまる


嫌な汗が止まらない


目線の先には、先日俺が襲ったフレンズ


話したいことがたくさんあったはずなのに、一つも出てこない


むこうもなにも話さない


なにを…話したら──



「あら、ハンターじゃない。どうしたの?」



──ハッ!?



「キリンさん!オオカミさん!キングコブラさん!ゴメン、ちょっと席外してもらってもいいかな!?」


とりあえず人数を減らしたい!キリンさん俺の意識を戻してくれてありがとう!


「えっ?なんで?」


「…キリン、キングコブラ、出るよ。終わったら続きお願いね」


「…そうだな。いこう」


「えっ!?先生!?」


ありがとうオオカミさん。あの本読む時サポートするね


「…私達も出よう。タヌキ、いくぞ」


「は、はい…」


向こうも察してくれたのか出ていってくれた。ライオンのフレンズかな?すごい貫禄…



*



今部屋にいるのは、俺、ヒグマさん、キンシコウさん、リカオンさん、サーベルタイガーさんの五人。全員あの場所にいた、俺が関わったフレンズ


…どうやって、話しかけたらいい?


…いや、そんなんじゃない。言わなければいけないことは決まっている。それを、声に出すだけだ



「…あの」



ビクッと三人が反応した。なにか怖がっているように見えあのは気のせいだろうか…?



「…この前は、ごめんなさい。みんなに危害を加えた。…殺そうと、していた」



俺は頭を下げた。謝っているからというのもあるけど…


皆の顔を見るのが怖かった


俺の顔を見られるのが怖かった



「俺のせいで、サーベルタイガーさんは怪我を負った。俺の勘違いで、取り返しのつかないことになっていたかもしれない…。俺はもう少しで、リカオンさんを…!」



暴走していた時の記憶は残っている


俺はあの時、みんなを襲い、殺そうとしていた。やろうと思えば説明だって出来たはずなのに、逃げることだけしか考えていなかった。自分のことしか考えていなかったんだ


「許されるとは思ってない…。でも、言わなきゃいけないと思った…。本当に、ごめんなさい…」


あの時言えなかったことを、一気に言った。彼女達にはどんな風に聞こえたのだろう?どんなことを俺に言うのだろう…?



「…謝るのは、こっちの方だ」



ヒグマさんの声に、頭を上げた


「あの時にも言ったが…最初から、私が冷静になっていれば、こんなことにはならなかったんだ…」


…なんで


「サーベルタイガーに近づいたときに気づくべきだったんだ…セルリアンじゃないんだって…」


なんで、そんなことをいうんだ…


「私達も、落ち着いていれば、こんなことにはならなかったんです…」


「あの行動で、敵じゃないと判断できたはずなのに…」


違う


「…セルリアンと落ちていく時、私達を巻き込まないように石を投げたんだろ?自分だけ犠牲になればいいと…」


違うよ


「お前は悪くない…あそこまで追い込んでしまった、私達の…」



「違うんだ!」



大きな声を出して、言葉を遮る


「俺が全部悪いんだ!俺が姿を隠していたから!俺が最初から戦っていれば!そもそも俺がいなければ、こんなことには…!」



パァンッ!



痛烈な音が響く


サーベルタイガーさんが、俺を叩いた



「勝手な事ばっかり言わないで!」



彼女に視線を向ける。瞳に、うっすら涙を浮かべていた



「あなたがいたからこうなった…?ふざけないで…!あなたがいたから、みんなここにいるのよ!あなたが来てくれなかったら、私はあそこで消えていた!こうやってまた話なんて出来なかった!駆けつけた三人だって無事でいられたかわからない!」



思い出すのは、あの場面



黒セルリアンと戦った、あの時



「だけど、俺を逃がすために、あれに一人で挑んだんでしょ?だったら…」


「あなたがいてもいなくても、私は同じことをした!その事にあなたが責任を感じる必要はない!」


深呼吸して、彼女が言葉を紡ぐ


「それに…あなたが私を助けてくれたことに変わりはない。あなたは私の、命の恩人よ」


恩人…?俺が…?


「そうだ…。お前がセルリアンを倒してくれなかったら、被害はもっと広がっていた…。どれだけ犠牲が出ていたか考えたくもない…」


「だから…ごめんなさい。そして…ありがとう。みんなを、パークを守ってくれて」



お礼を、言われた。俺には、そんな資格なんてないのに…



「もう、いいんじゃないか?」



さっきのライオンさんが部屋に入ってきた。どうやら外まで聞こえていたみたいだ


「こいつらはお前を襲ったことを謝罪した。お前はこいつらを襲ったことを謝罪した。それで終わりではないか?」


「…そんな、単純なことじゃ」


「自分を許せないのはわかる。だが、相手のことはどうなんだ?」


「あっ…」



そうか、そうだったんだ。俺も彼女達も、自分が許せなくて、全部自分が原因だと思っている…


簡単なことだったんだ。お互い相手のしたことは気にしていないんだから、お互いを許しあえばいいんだ


なら、俺が言うことは


「…皆、ごめんなさい。襲ってしまってごめんなさい。誤解をうむ行動をしてごめんなさい」


そして


「…あんな馬鹿なことして…ごめんなさい」


本当の謝罪。自分のしたことを、自分の罪を改めて言葉にする


「私達こそ、ごめんなさい。襲ってしまってごめんなさい。誤解してしまってごめんなさい」


これで、お互いに伝えたいことは伝えた。だから…


「俺は…気にしてないよ。俺のために悩んでくれてありがとうね」


「私達もだ。ありがとう、私達のために考えてくれて」


お互いに、感謝を述べた


「これで…終わりでいいのかな…?」


「…いいと思う。お互いに悪いことをして、それを許したんだ。なら、これでいいんだ」


そっか…これでよかったんだ。これで、この話は終わりなんだ


「あれ…なんで泣いてるんだろう…俺」グスッ


あ…これはやばい…。止まんない…。謝れた安心とか、自分のしたことへの罪悪感とか、いろいろ混ざって…


「ちょっと…泣くなよな…」グスッ

「ヒ、ヒグマさんまで…」ズズッ

「もう…なんなんですか…」ポロポロ


あーあ…みんなも泣いちゃったよ…ごめんね


でも、もう少し泣かせてほしいな…



*



あれから結局皆で泣いて、慰めあって、ちょっとスッキリした。自己紹介も済ませた。みんなの名前は聞こえていたから、俺だけだったけどね


今は部屋を出ていったみんなも呼んで、果物を食べている。バリーさんとオオカミさんが爪でスパッと切ってくれた。すげぇな爪


バーバリライオン…バリーさんがいなかったら、俺達はずっと平行線だっただろう。きっとお互いの意見なんて聞かなかったし、受け入れることもなかった


「ありがとうございました、バリーさん」


バリーさんに小声で話しかける


「私は特になにもしていないが?」


「そう思うならそれでもいいです。これで彼女達の心は軽くなったと思います」


「それはお前もではないのか?」


「俺は…」


確かに、彼女達への罪の意識は軽くなった。だけど…


「…俺は、俺自身を許してないです。とある約束も破ってしまいましたから」

「そうか…。お前がそう思うなら、私はそれに関してはなにも言わない」


だが、とバリーさんはつけたして


「もし申し訳ないと思っているなら、パークの、みんなの為にできることをするといい。それが彼女達の為に繋がる」


「パークの為に…」


そうだな…。俺がいる意味を探しながら、戻る方法を探しながら…


少なくとも、ここで俺が死んだら何が起こるかわからない。セルリアンが俺のことを取り込んで、力をコピーなんてしたらまさしくパークの危機になる


そんなことはさせない。俺が出来る範囲で、この優しい世界を守ろう


「…分かりました。俺はみんなの為に出来ることをします。何が出来るかは分かりませんが、それでも助けになるように」


「フッ…そうか。私は見廻りをしてくる。アリツカゲラ、リンゴおいしかったぞ」


バリーさんはそう言って、部屋から出ていった



*



「なるほど、そんなことが…」


何があったかをみんなに説明した。最初は苦い顔をしていたけど、仲直りが出来たことを伝えたら安心していた


「でも…やっぱり大怪我したんですね…」


「こればっかりはね。むしろこれですんだんだ。ラッキーだったね」


折れた腕と足を指差して笑いながら言ってみた。こんなん軽い軽い!


「なに笑ってるのよ…一歩間違っていたらここにはいなかったのよ?もうあんなことはしないで」


「…はい」


サーベルタイガーさんに怒られた。でも、生きていてよかったと今は思う。あのまま死んでいたら、この子達はきっと心に深い傷を負ったに違いない。本当にバカなことしたな、と自分でも思うよ


「しかし、あの高さから落ちて生きているなんて頑丈なんですね」


「それに、あなたの力はなんなの?あの黒セルリアンを倒しちゃうなんて」


「やはりジェダイの騎士…」


まあ、そうくるよね。気になるのは当たり前だ、目の前であるはずのないものを目にしたのだから


てかキリンさんそれまだ諦めてなかったの?やはりってなんだよ


ただ、この力についてはあまり言いたくないんだよなぁ…。だからマントとフードをずっとつけていたんだ。見られないように、怖がられないように


「別に言いたくないならいいぞ」


「えっ?」


「言いたくない事情があるんだろ?なら、無理に今言う必要はない。ただ、お前が言えるようになったら、その時は聞かせてくれ」


ヒグマさんの言葉に、皆が頷く。俺への警戒は、もうないみたいだ


「…そっ…か。ありがとう。その時が来たら、必ず言う。約束するよ」


「その時はその姿を絵にしたいんだけど」


「…考えておく(OKするとは言ってない)」


「本音も聞こえたんだけど?」


ハハハ、とみんなが笑った。オオカミさんはすぐこれだから…。でも、ありがとね、また一つ、笑顔が見れたよ



「…ただ、なんで俺がああなったのか、伝えておこうと思う」



俺が話したのは、あの日の、あの夜


初めて力を使い、暴走した日


この力は必要な時にしか使わないこと。まだ使いこなせていないこと。そして、使いこなすよう修行していること。それらを出来る限り伝えておいた


「追い詰められると…か」


「コウさんも大変だったんですね…」


「そんな暗い顔しないで。その話は終わったからいいの。これからは、暴走しないよう気をつけないとね」


「エネルギー切れもあるんだね…難しいもんだ」


「時間はあるから、なんとかしてみせるさ」


エネルギーに関しては検討はつけている。後はそれが出来るかどうかだ


「それと、基本的にはヒトと変わらないと思ってもらってかまわないよ。まぁこの状態でも少し力は使えるんだけどね」


「ヒト…か。お前も考えたり、料理するのが得意だったりするのか?」


「考えるのは苦手かな。料理は、まあまあかな」


「パークの外から来たのよね?どんな感じなの?」


「…何て言ったらいいのかな?簡単に言うと、ヒトがいっぱいいる、かな」


「なんだそれ」


「一言じゃ言いきれないんだよ…」


外の話をするとたぶん一日じゃ終わらないだろうな。難しい単語も出てくるし


外…か。正直、この子達は知らない方がいいかな、と思う。このパークで幸せに暮らしてほしい…なんて思うのも、ヒトの勝手だけどね



*



「さて、勉強の続きやる?」


話も一段落したころに話しかける。どうやらやる気みたいだ。いいだろう、どこまで持つか見せてみな!


「これ、図書館の本のやつに似てるな」

「文字、というそうですよ」

「これがわかるなんて…ヒトってすごいですね」

「遊園地にあるのもこれかしら?」

「は、初めてみますね、これ…」

「なんだ?なにかやるのか?」


おおう…ギャラリーが増えてきたな…。バリーさん戻ってきたし。けど、せっかくだから見ていってもらおう。きっと、いろんな感想が聞けるはずだ



喧嘩して すっちゃかめっちゃかしても 仲良し



この言葉通り、色々あったけど、みんなとは仲良くなれた


この空間が、それを証明してくれている


いつか元の世界に戻ったとき、俺はそんな言葉を言えるのだろうか…



…今だけは、そんなことも忘れよう



この楽しい時間を、大切にしたいからね

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