第42話 【申】
空は雲ひとつ無い晴天で、まるで呪(のろ)いが解けた朱絆神社を祝うかのような爽やかさだった。
「目が覚めたか?」
泣き腫らした目をうっすらと開きつつ、かなえは重い体をなんとか起こすと、そこには弐沙と怜が座っていた。
時刻は午前七時。そろそろお勤めが始まる時間だ。しかし、みそぐが消えてしまった為、朱糸守は当然出来てはいるはずが無かった。
「なんとか落ち着きました。でも、御守りが。今日の授与分が全く無いので、参拝者の皆さんが困ってしまわれます」
「先ほど私と怜が三日ほど諸事情で朱糸守は授与出来ないという旨の張り紙を神社の入り口と駅の方に貼っておいた。あと、協力者にも手伝ってもらって参拝予定者にも注意を促してある。下世話なことをしてしまったかもしれないが、許して欲しい」
弐沙はかなえに淡々とそう告げる。
「ありがとうございます」
かなえは深々と弐沙にお礼を言った。
「間接的にかもしれないが、授与できない要因を作ってしまったからな。これぐらいのアフターフォローはするのは当然だ」
「弐沙ったら、やっさしー」
「怜は黙っていろ」
冗談っぽく怜が弐沙に話しかけると、弐沙は睨んでそう言った。
「冗談なのになー」
睨み付けられてまるで小動物のようにしょぼんと縮こまる怜。
「さて、問題はこれから先だ。みそぐが居なくなってしまったことをどう切り抜けていくつもりか? さすがに、隠し続けるのはこれ以上難しいだろう」
「……」
弐沙の意見を聞いて、かなえはどこか思いつめたような表情を見せる。
「この先を決めるのはお前自身だ」
弐沙の一言でかなえは何か決意を固めたような顔つきに変わる。
「……弐沙さん。一つ、私の我儘に付き合ってくれないでしょうか?」
それから一時間後、朱絆神社に村長が息を切らしてやってきた。
「かなえさん、聞きましたぞ。みそぐ君が行方不明になったって」
「はい。朝起きたら居間の机にこんな置手紙が」
目を真っ赤に腫らせたかなえが握っていた紙切れを村長に渡す。そこにはこう書かれてあった。
〈姉さんへ。
僕はとんでもない罪を犯してしまいました。このままでは姉さんに迷惑をかけてしまう。だから、このまま消えることにしました。さようなら。探さないで下さい。〉
「な、なんてことじゃ……」
村長はその手紙をわなわなと震えながら読む。
「この手紙を読んですぐ、神社を訪れていたこのお二方にも協力して探して貰ったんですが、みそぐの姿が見えなくて、私どうすれば……」
かなえの目からはポロポロと涙が溢れ出る。
「わ、分かった、村の皆に声を掛けて近隣まで出て探してみるぞ。かなえさんはもしみそぐ君が帰ってきた時の為に家におってくれ。頼むぞ!」
村長はそういうと、血相を変えて神社を出て行った。
「これでいいんだな?」
弐沙はかなえに確かめるように問う。
「ええ、コレでいいんです。弐沙さんありがとうございました。わざわざ偽装の置手紙なんて書いてくださって」
かなえは弐沙に深々とお辞儀をする。
「これぐらいは手伝ったうちに入らない」
弐沙がそっけない返事をすると、
「弐沙ったら、照れちゃって。このこのー」
怜がその様子を見て囃し立てるので、弐沙は怜のわき腹の一部を強く抓んだ。
「痛ってぇ!」
「怜、あまり冗談を言い過ぎると置いていくぞ」
「すみません。置いていかないで下さい」
怜は弐沙に縋る様に謝った。
「さて、私たちはそろそろ発つとするか。と、その前に、一つ」
弐沙は何かを思い出したかのように、かなえを手招きすると、彼女の掌に花の形に結ばれた赤い紐をそっと置いた。
「これは?」
彼女がすっと弐沙を見る。
「飾り紐といって結び方で色々な意味を示すものだ。これは梅結びといって“縁”を結ぶという意味が込められている。今度からコレを入れてみるというのはどうだ? みそぐが作った御守りよりは効力が薄いかもしれないが、呪(のろ)いを込めた呪(まじな)いよりかはマシだろう。後で結び方を教える」
「わー。本当にお花みたいだね。こんなの何処で覚えたの?」
その飾り紐を怜が目を輝かせて眺める。
「皆神の家へ行ったときに偶然近場にあった本を取ってみたときにそいつが載っていたことを思い出した。ただ、それだけの話だ」
「何もかも、本当にありがとうございます」
かなえはその飾り紐をぎゅっと握り締めて。弐沙にお礼を述べたのだった。
朱糸―シュシ― 黒幕横丁 @kuromaku125
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