第594話 前田松とバートリ・エルジェーベト・その2
『バシッ、バシッ、バシッ』
「なんであなたは私の言う事が出来ないの、そんな事では黒坂常陸守様の側室には昇格、出来ませんよ」
常陸国立茨城城女子学校ジブラルタル校ではバートリ・エルジェーベトが生徒を厳しくそして暴力的に指導していた。
細い棒で生徒の一人を叩いていると、
「待ってください、なにか勘違いされていませんか?バートリ様、この学校はそのような目的ではありません。日本の常陸本校にはいままでたくさんの生徒がいましたが、誰一人、常陸様は手を付けてはいません。学校はか弱き女性が手に職を付け一人で生きていけるよう、もしくは礼儀作法を学び、嫁いで嫁ぎ先でもうけた子供に教育出来るくらいに女性を育てる、女性の地位向上が目的です」
開校当初から実情を知っている前田利家が妻・松はバートリ・エルジェーベトと対立が少しずつ始まっていた。
「あら、そのようなことわからないではないですか、男の心などいつ変わるやも、男は全て野獣猛獣、秀吉様だってあんな歳して夜中はボス猿のように腰を振り続けていますわよ、ふふふふふっ」
「羽柴様と常陸様は同じようで同じではありません。なにか勘違いをされているのでは?」
「黒坂常陸守様だって夜は猛獣になってますわよ。ふふふふふっ」
「いい加減にしなさい。常陸守様を侮辱するならこの私が許しません」
と、松が帯の懐剣に手を伸ばそうとしたとき、
「そこまでです。松」
と、お初が止めに入った。
お初は勿論、前田松やバートリ・エルジェーベトより年下だが、織田信長の姪であり黒坂常陸守真琴の側室。
そして、学校を任されている。
二人にとっては上役だ。
「しかし、お初の方様・・・・・・」
「松、真琴様は夜はそれは舐め舐めお化けとして健在です。だから、それはいいのです。ですが、バートリ様、学校の生徒に手出しをしないというのは正室である姉上様との約束でしっかりと守られていること。生徒に変な希望や夢そして誤解を与えるのはおやめください」
「ふふふっ、舐めるの好きなの?」
「ですから、それとこれとは話しは別です」
お初は冷静に静かに怒った。
「わかったわよ。そうなのね。そう・・・・・・手、付けないのね・・・・・・」
バートリ・エルジェーベトはそう言い残し一礼して廊下を歩いて行った。
「松、あのくらいで懐剣を抜いてはいけません。真琴様なら『夜は猛獣』なんて言われたら喜んで笑い飛ばしますよ」
「しかし、お初の方様、バートリ様はこのヨーロッパ出身そして、ハプスブルク家の出身を鼻にかけ態度が傲慢で」
「真琴様が、教師として認めている以上は刃傷沙汰は駄目です。なにかあったら報告をしてください。柳生を使いますから」
松はその一言で、ぶるっと一度だけ震えた。
黒坂家の柳生の裏の噂『暗殺者』と言う過去の事件を知っているから。
「わかりました。気をつけます」
そう言って教室に戻った。
お初は大きなため息をして、
「他国・他民族を許せる寛容性は、なかなか難しいのよね」
と、つぶやいた。
多数国家・多数民族が集まる学校の運営はまだ、手探り状態だった。
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