第569話 救

 助かる時とは腰砕けになる。


それは無理をしていた自分を見せていたなら尚更の事。


安堵感。


それを察知していたのは、お江だった。


腰砕けに倒れそうな俺をそっと支え、


「大丈夫だよ、マコ、もう、大丈夫だよ」


と、小さく呟いた。


いつもべったりとくっ付くお江の行動は周りには異質な物には映らなかった。


「助かった。皆、死なずに助かった」


そう呟くと、お江は、


「うん、うん」


と、返してくれた。


西の海に見える巨大な船、それは出航時に建造していた双胴船であるのはすぐにわかった。


船影が今までに見たことない物。


「御大将、船を出させてください」


そう真田幸村が言ってきた。


救援を確実な物とするために、救難船を漕ぎ出すと言う。


「あぁ、出してくれ、ここを確実に知らせてくれ」


真田幸村は元気が残っていた兵士達と救難船を漕ぎ出す。


一時間もすると、双胴船が掲げている旗が見える。


それは俺の家紋、抱き沢瀉。


最早確実な助け。と、


「御大将、東にも船が見えます」


東住美穂が言ってきた。


「なに?こんな目前で敵か?襲撃に備えよ」


西に味方、東の海は?



緊張が走る、後少しで窮地に陥るのか?と、だがそれもすぐに解ける。


味方だった。


織田木瓜紋が見え船は蒸気船。


「え?信長様?」


望遠鏡を覗き見ていると、その船には弥助の馬印が見えた。


弥助の馬印は、銀のサーベルを×印にしたもの。


なるほど、織田信長本人は動かず、動いても目立たない弥助を出させたのか、英断だな。


なら、双胴船は誰が艦長を勤めている?


考えなくてもわかる。


俺が家臣にしたかった者、そして重要な拠点に、織田信長の傍を任せた者。


島に近づく双胴船から漕ぎ出された船が、接岸し降りてきたのは、


「宗矩、迎えご苦労」


「はっ、御迎えにあがりました」


ごくごく普通に迎えに来たようにする柳生宗矩。


「船には経津丸が乗っているな?」


「よく、おわかりで。北斗様も乗っておられます」


「茶々だな?」


「はい、あまりに巨大な軍船を御大将の許しなしに出すのに、軍艦奉行として、経津丸様と北斗様を命じられました。さぁ、船へ」


流石に茶々だ。


柳生宗矩を信頼していないわけではないが、監視役を付ける。


『信頼していないわけではないが』、だから艦長が柳生宗矩で、それの監視役が二人の息子達。


なんの実績もない息子を艦長に据えてしまえば混乱する。


しかも、未知の海なら尚更。


そして、遅れながら見えてくる船に二隻に伊達政道と真壁氏幹の馬印。


独断暴走が出来にくい艦隊編成に茶々の力量を改めて実感出来た。

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