第286話 樺太城

 柳生宗矩が戻って来て宿舎となる館を確認し、警護も配置が完了したから問題ないと言う。


用意された馬で向かうことになる。


馬はがたいの良い足が太く鼻息の荒々しい馬だった。


留多加港に残す左甚五郎の護衛には真壁氏幹を付け、船の警護には佐々木小次郎を命じて、内陸部に馬を進めた。


約一時間ほどぬかるみの多い道を進むと、空堀と土塁と丸太の柵に囲まれた小さな砦と呼ぶべき建物に案内された。


その砦の建物だけは、本州にあるような造りの書院造りの建物があり、平屋のお寺、もしくは城の御殿のようだ。


流石に瓦は、陶器ではなく寒さに強い石瓦のようだ。


門の外には、北条氏規が待っており、


「樺太城にようこそおいで下さいました」


と、頭を下げていた。


城と呼ぶより砦に近い簡素な建物。


かつては小田原城と言う巨大な城を居城としていた北条家にとっては見る影もない城。


俺は周りをキョロキョロしていると、北条氏規が、


「すみません。この守りは幕府に楯突く物でもなく、軍勢に対しての守りでもないのです」


と、言う。


俺が城の検分をしていると思ったのだろう。


「では、何からの守りなのですか?」


と、隣の馬に乗る伊達政宗が言う。


「はい、狼と熊です。ここは獣が多く、我が家臣達も何人か・・・・・・」


と、口を噤む北条氏規に伊達政宗は、


「それは、失礼いたした。お見舞い申し上げます」


と、言っている。


「狼かぁ~、見たことないけど、いるんだね。それに熊ってヒグマ?月の輪熊?」


「両方おりますが、ヒグマの人殺しのジダンと名付けられたら巨大な熊がおりまして、アイヌの者達も苦しめられております。人の味を覚えてしまって、毎年多くの犠牲が、ですが、城の中なら安全に御座います。さぁ、旅の疲れをお取り下さい。見窄らしい城では御座いますが、湧き出る温泉が有るのが自慢です。常陸様には、ことのほか温泉がお好きだと聞いております。どうか、一っ風呂」


と、北条氏規が言うので、宗矩のほうを見ると、


「検分済みにて大丈夫に御座います。広い岩風呂で御座いますので、伊達様も入れるかと、一緒に入っていいただけると警護を分けなくてすみますので」


「ん?そうか、なら先ずは風呂をいただこう」


と、俺が言うと政宗が


「お背中をお流しいたします」


・・・・・・、BLルートはないぞ!


大丈夫だよね?政宗・・・・・・。

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