第三章
第73話 第三章が始まる
「ジュラルハホロンダー……競走馬の名前か何かですか?」
とりあえずボケて見たが全然そんな雰囲気ではなかったので物凄く滑ったし無視された。
仕方ない、これは僕が悪い。
けれど、それくらい信じがたい言葉だったのも事実なのだ。
「ジュラルが滅びたって、どういうことですか?」
何事も無かったかのように、普通に問いかける。
「さっき、飛翔の翼でジュラルに戻った時のことだ」
オーサさんも普通に話始めた。いや、いいんだけど、いいんだけどなんか悔しいな。
もっかいボケようかな、どのタイミングならウケるかな。
「どのタイミングでも絶対ウケないから黙っとけ」
イジッテちゃんに耳打ちで先手を打たれました。
そう言われると逆にボケた方が良いのでは?みたいな気持ちにならないでもないけど、でもなー……絶対ウケないと解ってて放たれたボケというのもそれはそれで悲しいものだものな。
せっかく生まれた言葉が誰にも受け入れられずに死んでいく虚しさ。
そう考えると、ここは黙って受け入れた方が……いや、しかしこんな時こそ……!
ガイン!
強めに殴られました。声に出てたかー。
あ、オーサさんが虚ろな表情のまま、話を進めるのを待っててくれてる。
さすがに申し訳ない!
どうぞ、と手で合図を出して、オーサさんを促すと、ようやく本筋を語り始めた。
「いやお前のせいで本筋からズレてたんだからな…!」
ごめんよイジッテちゃん、ごめんよオーサさん、ごめんよみんな。
「俺がジュラルに戻ると、様子がおかしいのはすぐにわかった。王都の中に……大量のガイザ兵が居たからだ」
ガイザ兵が!?
「あのー……ごめんなさいです、ガイザって…?」
ミューさんが疑問を口にする。ああそうか、ミューさんは細かい事情は分からないか。
「まあ簡単に言えば、このオーサさんの仕えるジュラル国への侵攻を企んでる国です」
「えっ、この魔王軍との戦時下に……ですか?」
「そうよ、しかも魔王軍と手を組んでる人間の裏切り者よ」
パイクさんの補足も入った。これでミューさんも基礎的な知識は理解してくれただろう。
「すいません再三の中断で、続けてください」
イジッテちゃんから「お前が言うなよ」という視線を感じつつも、僕はオーサさんの話を促した。
「ああ……ガイザ兵は、俺を見つけると捕まえようと追いかけてきたので、事情も分からず街中で戦闘になるのは避けたいと思って必死で逃げたんだ。そして、見つからないように少しずつ王城に近づいて様子を見ると―――――王城の塀に掲げられていたジュラルの旗が、全てガイザの旗に替えられてた……それを見て理解したよ、ジュラルはガイザに落とされたのだと……」
そんなことがあるのか……?
オーサさんが僕らと一緒に旅をしたのはほんの数日間だ。
たったそれだけで、王都が攻め落とされるなんて信じられない。
なによりも、ジュラルにはあのテンジンザさんが居るというのに……!?
「テンジンザのヤツはどうしたんだ?」
イジッテちゃんの質問に、オーサさんは首を振った。
「それが、行方が分からないんだ……偶然、顔見知りの城で働いていたメイドを見かけて話を聞いたんだが……どうやら、城の中に毒物を撒かれたらしい」
「あの守りの強固な城に?どうやって?」
「どうやって中に入ったのかはわからないが、どうやら伝声筒に煙状の毒を流すことで、あっという間に城全体が毒に包まれたのだとか……」
なるほど……あの伝声筒はどこにでも声を届けられるようにを城の中に張り巡らされていた。そんな風に悪用されるとはなぁ……。
「そして、毒で苦しんでいると、どこからともなく突然ガイザ兵が大量に侵入してきて、あっという間に王の命も奪われたと……!」
オーサさんは強く拳を握り、涙を流した。
「俺が……俺が早く城に戻っていればこんなことには……!」
「気持ちはわかるけど、テンジンザでもどうにも出来なかったことが、アンタ一人でどうにかなったとは思えないわよ。むしろ生き残って良かったじゃない」
パイクさんのそれはきっと慰めだったのだろうけど、オーサさんは納得出来てない様子だ。
「しかし、俺は軍人として……!」
「だから、生き残ったアンタが軍人として出来る事は、城を取り返すこと、でしょ?城に居て死んでいたらそれも出来なかった。アンタが生き残ったのは、ジュラルにとっては希望だと思いなさい。英雄テンジンザの右の大剣が生き残ったのよ。それがジュラルにとって希望じゃなくてなんだって言うのよ」
パイクさんの言葉で、オーサさんの瞳に少し光が戻っていく。
「―――――そうか、そうだな……ああ、そうだ、そうだとも……!ありがとうパイク殿!やはりあなたは俺の生涯の相棒になる相手だ!」
「調子乗らないで」
「……はい」
厳しい!こんな時でも絶対にそれは受け入れないパイクさんの確固たる信念!
「経緯はわかったが、やはりテンジンザが居てむざむざと敵の侵入と毒物の散布を許すとは思えんな……不在だったのか?」
イジッテちゃんの疑問も最もだ。だってテンジンザさんだよ?
「わからないんだ。少なくとも俺が城を出る前は、絶対に城を離れないという体制だった。それこそガイザ侵攻の話が現実味を帯びていたからな。城だけは絶対に落とさせないためにテンジンザ様が常駐される作戦だった。城を空けたとは思えないのだが……」
「ふむぅ……魔族、もしくは魔人の仕業じゃろうなぁ……」
話を聞きながら考え込むようにしていたセッタ君が口を開いた。
「魔族だって!?」
オーサさんが驚きの声を上げる。
「……あ、もしかして、グラウの村の時に魔人が係わってたのってジュラル軍は知らなかったのかな…?」
「そ、そんな話は聞いてないぞ!なぜ言わなかった!」
「何故って……そもそもあの時は詳しく話をするより前にテンジンザさんがイジッテちゃんをよこせって言いだして……そんな話する暇無かったじゃないですか」
「……それは……そうだったな……確かにそうだ。テンジンザ様は昔からイージスに固執しておられたからな……まさかそれが国の命運を分けようとは……」
オーサさんは天を仰ぐ。
「気持ちはわかるが、知っていたからと言ってどうにかなるものでもなかったであろうよ。おそらく今回は魔人の仕業じゃろうが……魔人は一見ただの人間じゃ。普通に城を訪ねてきた客として中に入り、隙をついて毒を撒き、召喚魔法でガイザ兵を招き入れた……とまあそんなところじゃろうなぁ」
「どうして魔人だと?魔族の可能性もあるんじゃないのか?」
イジッテちゃんの疑問に、セッタ君は苦笑いしながら答える。
「魔族の魔力と禍々しさはとても隠しきれるものではないわい。それこそテンジンザがすぐ気づくじゃろうて。まあ、城に居たら、の話じゃがな」
「つまり、テンジンザさんが城に居ても気づかない魔人の仕業、もしくはテンジンザさんが居ない時に魔族が来たか、どちらかってことか」
「もしくは――――――テンジンザの力をもってしても、魔族には勝てなかった、という可能性もあるのぅ」
その言葉に、背筋が寒くなる。
「……怖いこと言いますね……あの人が勝てなかったら、人類誰も勝てませんよ」
「そう、そうだとも!テンジンザ様なら魔族などに後れを取るはずが無い!」
まあ、その辺りの答えは誰にもわからないので話していても仕方ない。
とにかく事実としてジュラルは落とされ、テンジンザさんは行方不明、ということだ。
「あの人はどうしたんですか?オーサさんの相棒の」
「パイク殿のことか?」
「私は相棒じゃないわよ」
「いいですからそれもう、違いますよ、左の大剣タニーさんですよ」
「おお、そっちか。それが、タニーも行方が分からんのだ。あやつは俺以上にテンジンザ様のを慕っておられた。片時も傍を離れなかったからな……きっと今も一緒にいると思うのだが……」
「生きてればね」
「パイク殿ぅ……それは殺生ですよ」
珍しく弱気になってるオーサさんを見て、なんだかパイクさんは少し楽しそうだ。楽しそうっていうか……愉悦では…?あの口の端がクッとあがっているのは愉悦の笑みでは?
強気なナルシストは嫌いだけど、それを凹ませるのは好き、とかいう歪んだ性癖があるのだろうか……恐ろしいお人……いや、お矛やでぇ…!
「とりあえず、話は分かりました。けど、それでどうしてここへ戻ってきたんですか?」
「ああ、それなんだが……」
はっ、なんか凄い嫌な予感がするぞ!!!!
「まって、待ってください、その話ちょっと……」
「ジュラル城の奪還と、テンジンザ様の捜索を手伝ってほしいんだ!!」
あああああああーーーーやっぱりーーーーーーー。
めちゃめちゃ面倒事に巻き込まれた!!!
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