第39話

「説明するか殺されるか、選んでくれるかな?」

「初めて聞く二択に戸惑ってますよ」

 3人とも囚人服に着替えさせられて、王城の地下にある窓も無く太陽すら見えない牢屋の中で突然そんな選択肢を出してくるパイクさん。

「戸惑ってるのはこっちよ……アンタ、本気で何のつもりなの?」

「そうですね……うーん、話したいところですけど、もうちょっと待ってもらっていいですか?」

「この期に及んで何を待てって?」

「なにって、お客さんが来てるので」

「お客さんって……こんな牢屋に誰が…」


「儂も聞いてみたいところだ、どういうつもりかな?少年」


 鉄格子の向こうに、テンジンザさんがそれはもう仁王立ちをしておられた。

 その表情は笑っているようであり、怒っているようであり、僕を見定めようとしているようだった。

「ご存じないと思いますけど、僕、露出が趣味なんですよ」

「ふはは、そのような嘘で儂を騙せるとでも思ったか?」

「いや、それは本当なんです」

「いいかげんにしたまえ、そんなわけ……」

 そこでテンジンザさんは、パイクさんとセッタくんの方を見た。

「……残念ながら、それは本当にそうなのよ……」

「そうじゃなぁ……悪い子ではないのだがなぁ……その趣味だけはのぅ…」

「……本当に、そうなのか?」

「はいそうです」

 凄い勢いで頭を抱えて座り込んでしまわれた。好きですね、頭抱えるの。

「いや、しかし、しかしだ。たとえそれが君の趣味だとしても、城の警備に囲まれた状況でやったら捕まることくらいわかっていたはずだ。……何が狙いだ?」

 さすがにごまかされてはくれませんよね……。

「……いやいや、好奇心が捨てきれなかっただけですよ。王城の真ん前っていうシチュエーションで露出したらどうなるのかな、って。たぶん、こんなこと出来る機会なんてもう最後かなーって」

「だとしても、夜間など人が少ない時にこっそりやろうと思わないのか?」

「それはもう趣向の違いですね。僕は太陽の下でやるのが好きなんですよ。露出する人間っていうのは2タイプいまして、見つかるか見つからないかのスリルを楽しむタイプと、人に見てもらうことで喜びを覚えるタイプ。僕は後者なんです」

「なるほど……よくわかったよ」

「わかっていただけましたか」


「ああ、キミが本心を儂に告げるつもりが無い、と言うことがよく分かった」


 鋭い視線……見ただけで心臓を射抜かれるようなその目に、嘘で強く強く固めた僕の笑顔が一瞬崩れ落ちそうになるのを感じた。

「―――本来なら、一時も目を離さずにお主を監視しておきたいところだが、今日は来賓客が多いのでそうはいかん。警備に挨拶に、明日の王の生誕祭の準備もある。英雄は多忙でな……それも、計算のうちかな?」 

「へぇ、明日お祭りなんですか?それは初耳ですね。あーー、じゃあ明日にすればよかったなぁ。そうすればより多くの人に露出を見てもらえたのになー!」

「ふん、初めて嘘が下手だな。動揺か?それともわざとか?どこまでも真意を見せぬ少年だ。……まあ良い、何を企んでいようと、必ず阻止する。特に――――


 イージスを奪還しようなどと、ゆめゆめ考えぬことだな」


 そう言い残して、テンジンザさんは地下から立ち去った。


 ……ちっ、バレてーら。



「という訳で―――……イジッテちゃんを取り戻します」

 周囲に誰もいなくなったのを確認して、それでも最大限に警戒しつつ小声で作戦会議を始める。

「なるほど、「準備」ね……その為に毎日出かけて、大金を使いまくってたわけ?」

「そうですね、麻袋4つ使い切りました」

「――――はっ!?4つ!?5つ中4つ!?」

「いやぁギリギリでしたね。テンジンザさんが気前良くて助かりました」

「残りひとつは?」

「宿の部屋に置いてあったでしょう?お二人に不自由なく過ごして頂こうと、自由に仕える状態で置いてあったはずですけど」

「……でもアレ、もう半分くらいしか残って無いわよ?」

「いやいや、僕は馬車の代金以降はあの袋使ってないですよ。その時でもまだ9割以上は残ってたと思いますけど…」

「すまん……わしがちょっとその……高い酒をのぅ……」

 気まずそうに浪費を白状するセッタ君。けど、お酒の美味しさを思い出したのかちょっとニヤケている。達観した老人みたいな人(盾)だと思ってたけど、意外とお茶目なとこある。いやまあ、お茶目で済ませて良い金額かどうかは疑問が残るけど。

「アンタねぇ……昔からそういう……いいわ、今は置いといてあげる」

「すまんのぅ。すまんのぅ。わしがふがいないばかりに苦労をかけて…」

 怒られると凄く老人感を出すのはさすがにズルいな、という気がしないでもないが、それこそ今は置いておこう。

「で?話を戻すけど計画は?3日かけて準備してそれ、本当に大丈夫なんでしょうね?」

「どうですかねぇ……まあ聞いてください。そして、あとは上手くいくように祈るのみです」



「僕ね、孤児だったんですよ」

 計画の説明を終えたは良いけど、開始のタイミングまでまだしばらく時間があるので、僕は間を埋める為に自分語りを始めた。

 なんとなく、聞いておいて欲しかったのかもしれないし、話しておきたかったのかもしれないし、ただ他に話題が思いつかなかっただけかもしれないが、とにかく話した。

「で、まあ拾われたのがなんていうか、つまらない犯罪集団でして。大きな犯罪はリスクを考えて一切手を出さず、泥棒とかスリとか詐欺とかそういうことばっかりやってるケチな組織で英才教育されたんですよ」

「ははぁ、グラウの村で見た窓の鍵を開けるスキルなんかはその時に身につけたのね」

「嘘が上手いのも頷けるのぅ」

「まあそんな感じで、ある程度の年齢になったらそれなりに仕事はさせられました。相手を油断させる役目にも使われましたし、狭い通路を通るにも都合が良いんですよね、子供ってのは。だからこそ、わざわざ拾って育てたんでしょうけどね」

「やめたいとは思わなかったの?」

「―――どうなんでしょうね、思ってたような気もするし、思ってなかったような気もします。当時はただ、生きていくためには言うことを聞くしかないと思ってましたし、毎日必死だったので、思考停止してたんですよね、きっと」

 二人は黙ってただ頷いている。

 なんか、懺悔してるような気持ちになって来たな。

「やめましょうか、この話。すいません。どうかしてました」

「いや、構わないわよ。ただ、一つだけ聞かせて」

「なんですか?」

「アンタが今、目指しているものは何?」

 その問いには、いつだって真っ直ぐ答えられる。


「僕は、多くの人を助ける勇者になりたい」


「――――なら良し!!過去がどうあろうと、今のアンタがそれをまっすぐ言えるなら、何の問題もないよ」

「むしろ、どのような過程で身に着けたものであれ、それが誰かを救うことに繋がるのなら、それは意味のあることじゃわい。恥じることなどないわ」

 二人の優しい言葉に、胸が熱くなる。

 もし、再会できてゆっくり話す時間が出来たら、イジッテちゃんにも伝えよう、と強く誓った。これから先も、一緒に生きていく決意として。


「あ、ちなみに脱衣芸もその時に身に着けて、そして目覚めたんですよね」

「それは恥じなさい」

「それは意味のないことじゃ」


 なぜだ…!なぜ脱衣だけこんな仕打ちを……!!

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