第19話
「ぜーーーーはーーーぜーーーはーーーーはい からっぽーもう無理ー。もう魔法力ゼロ―」
「お前にしてはよくやった、これを授けよう」
息と魔法力を切らして大の字に寝転ぶ僕に、イジッテちゃんが魔法力を回復するマジカルポーションを授けてくれた。
「ははー、ありがたき幸せ―」
いやまあ、実際は僕のポーチの中に入ってた、僕が僕のお金で買ったアイテムなんだけども。
長細いガラスの入れ物に入ったそれをゴクゴクと飲み干す。ほんの少し果物の風味でわりと美味しい。
とは言え、それほど高級品でもないので、回復と言っても魔法使えて3回くらいだろうけど、からっぽよりはだいぶマシだ。
「しかしまあ、よくこれだけ作ったわね」
パイクさんが視線を向けているのは、爆発魔法の結晶の山だ。30個くらいあるだろうか。
「少ないよりは多い方が良いかなーと思いまして。陽動ですし」
そう、なんでこんなにヘトヘトになるまで爆発魔法の結晶を作っていたかと言えば、井戸の横道を爆発魔法で広げてもバレないように、村の外で騒ぎを起こしてほしいのだ。
「爆発魔法とはいうものの、僕の魔法なんてそれこそ自分の服を吹き飛ばす程度の威力なので、それでモンスターを倒すことは出来ないですけど、そこそこ大きな爆発音とちょっとした火が出るので、上手く使えば陽動にはなると思います」
脱衣ボンバーの為に色々研究した結果、普通の半分以下の魔力で威力はそこそこ、っていう爆発魔法を使えるようになっていたことが、こんな形で役に立つとは……世の中わからないものだな!
「んで、ここから陽動班と潜入班の二手に分かれようと思うんですけど、チーム分けはどうします?」
4人いるから、2人ずつで良いような気もするけど……そうなると、僕とイジッテちゃんと矛盾コンビで分かれるのが簡単かな。
そう考えていた僕に―――
「陽動はワシが1人で行こうかの」
セッタくんからの意外な申し出を受けた。
「え?でも、1人ではちょっと心配というか………」
すると、ぺちんっと軽く頭を叩かれた。痛くはない。優しい叩き方だ。
「ワシの心配なんぞしとる場合か。潜入して敵に見つかったらどうするのじゃ?二人だけでどうにか出来るのかの?」
「うっ……そ、そう言われると……」
イジッテちゃんが居るからまあ守りは鉄壁だけど、僕の攻撃力の心許なさでは、囲まれた時に突破できない可能性が高い。
その時にパイクさんが居てくれたら、そりゃあ心強いけど……。
「案ずるな。ワシは小柄じゃからな、隠れるのは得意じゃわい。なにより、逃げ回ってさえいれば遠距離からの攻撃は基本ワシには通じぬよ。なにせ伝説の盾、じゃからのぅ。ほっほっほ」
笑って見せてはいるが、セッタくんも盾である以上はイジッテちゃんと同じく攻撃の能力はほぼ皆無だろう。壊されることは無くても、捕まる事はあるかもしれない。
この作戦が失敗したら、そのままどこかに連れ去られて、自分の足ではそこから逃げ出すことが出来なくなるのだ。
今まではパイクさんと一緒だったが、たった一人で何年も閉じ込められたり、変な人の手に渡ることがあれば、盾であり人間であるという稀有な存在に対してどういう行動に出るのか、想像もつかない。
これは、そういう危険性のある作戦なのだ。
はたして僕は、セッタくんにそんなことを頼んで良いのだろうか?まだ出会ったばかりでそれほど深い関係性があるわけでもなく、自分を信頼してくれ、というだけの自信も無い。
だったら、僕自身が危険になろうとも、矛盾コンビで行ってもらった方が陽動側がいざと言う時に逃げ切れる可能性は高まるのでは……。
「少年、目的を履き違える出ないぞ?」
セッタ君のチョップが僕のおデコに炸裂する。固いからちょっと痛い。
「おぬしが本物の勇者を目指すのならば、何よりも優先すべきは、救うべき命を取りこぼさぬことじゃ。ワシらは意思があり人の形をしておるが、武具でしかない。武具とは道具であり、有効に使われてこそ意味がある。貴重な武具を大事にした結果、救うべき命を救えない、そんなものは勇者ではないぞ」
伝説の武具として、長く戦いの場に居続けたであろう経験からくる言葉が、僕の心に刺さる。
「セッタくん……」
「はい、じゃあ決まりね。それで行きましょう。ま、私の意見が全く反映されてないのはちょーーっとムカつくけどね」
パイクさんが意地悪そうに笑いながら、僕の背中をポンと叩く。
「あっ、す、すいません」
確かにそうだ。パイクさんの意見も聞いて決めるべきだったのに。
「まあ良いわよ。そいつ意外と頑固だから、どうせ自分で決めたら絶対に譲らないし。少年、騙されちゃダメよ?勇者としてどうこうとか、あんなの上手く言いくるめてあんたをいいように動かしたいだけだからね?」
「えっ!?そうなんですか!?結構感動してたのに!」
「ほほほっ、バレたか。まあいいではないか。少年の心に刺さったのなら、その言葉には意味と価値があった、そう言う事じゃわい」
ぬぬぬ、なんだか上手く けむに巻かれた気がする。見た目は少年なのに、喋り方の通りなかなかに老獪だなセッタくん!
そんな僕らの会話を見ていたイジッテちゃんが、ズイっと視界に入って来た。
「―――で?」
……ん?
「――――――――で?」
「……で?とは?」
イジッテちゃんは顔を思いっきり僕の顔に近づけて来て―――ガイン、という音と共に頭突きを頂きました。
「私にも、意見を、きけよ……!私を無視して話を進めるな…!」
「――――器ちっさ!!」
思わずちょっと大きい声でツッコミを入れてしまったよ!?
「うるさいうるさい!私は神話に語られるくらいの伝説の盾なんだぞ!凄いんだぞ!私をのけ者にするなー!かまえよー!かーーまーーえーーよーー!!」
「子供か!」
いや、ロリババアだからお年寄りの子供返り、というやつか?
ガイン!
「お前の声に出す癖のせいで私は無駄に傷ついてるぞ!?」
「……僕もだいぶ傷ついてますよ、物理的に」
「じゃあやめろよ!」
「無意識をやめろと言われましても………」
「はいはい、仲良く喧嘩はそこまでしてよね。そろそろ、動くタイミングだと思うけど?」
パイクさんに無理矢理首をグイっと上に向けられると、真っ暗な空は星さえほぼ見えなかった。
「―――なるほど、ちょうど月も雲で隠れてる。闇に紛れて動くには上々の環境だ」
同じように無理無理首をグイーっとされてるイジッテちゃんも、表情に冷静さが戻って来たようだ。
「しゃーない、お前らの計画に私も乗ってやる。やるからには、絶対に成功させるからな!」
言葉と同時にイジッテちゃんが拳を突き出すと、セッタくんとパイクさんもそこに拳を合わせる。慌てて僕も追随する。
そしてイジッテちゃんが、小さな、けれど力強い声を上げる。
「よし、じゃあ―――今から、ミッション開始だ!!」
―――――いやだから、そういうの僕がやりたいんですけどー!?!?
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