第17話

「見えるか?」

「ちょっと待ってください……ふっ…!」

 望遠の魔法で林の中から村の様子をうかがう。

 望遠、と言っても少し遠くが良く見える程度の魔法ではあるが、これ以上近付くのは危険な場所の様子を遠くからうかがうには充分だ。

 もちろん視線の先には、目的地であるグラウの村がある。

 モンスターに襲われたというが、さて……どんなもんか……。

 だんだんと視界に村に近づくが、どうにも全景がぼやけていてうまく見えない。

「んー…?なんですかね、霧でも出てるんでしょうか、イマイチ見えないですね……もう少し視界を先まで――――」

「待て、止まるのじゃ…!」

 セッタくんの声で魔法を止めようとした丁度その瞬間、眼球に痺れるような痛みを覚えて、思わず魔法を解除した。

「いっ……て!なんだ今の!?」

「危なかったの、それは視界を奪う結界じゃ」

「……結界?」

「ああ、望遠魔法への対抗策としてガイザで生み出された技術でな。そのままさらに奥まで村の様子を見ようとしてたら目が潰れていたぞい」

「……マジで?」

 ……怖いことをサラッと言いますね……潰れていたぞい、じゃないんですよ。

「ってか、モンスターにそんなこと可能なんですか?」

 稀に人間の大人に近い知能を持ったモンスターも居るという話は聞いたことがあるけど、魔法や結界なんてそんな高度なものを使いこなした話は聞いたことが無い。

 魔王やその側近の魔族たちは魔法を使いこなすらしいが、魔族は完全にモンスターの上位存在であり、もはや別の生物だ。

 まあ、この村を襲ったモンスターを率いる魔族が居るって言う可能性も否定できないではないけど……こんな辺境の村に魔族が足を運ぶほどの何かがあるとも思えない……んーーーーーわからないことだらけだ。


「さて、どうする勇者様?」

「……意地悪なこと言いますねイジッテちゃん。こんな時ばっかり勇者とか言って」

 実際問題、僕は本当に経験の少ない駆け出し勇者だし、冒険者としても最下層だ。

「正直言いますけど、僕はこんな案件を受けたことはないですし、皆さんからしたら頼りない所有者だろうと思います」

「そうだな」

「そうじゃのう」

「そうね」

 凄いテンポで肯定された!

「――――けど、それでも僕は勇者として生きる覚悟を決めた人間です。ここで、皆さんにおんぶにだっこで全てを任せるなんて、そんなマネはできません。だから――――拙い僕の行動に、付いてきて貰えますか?」」

「……お前は本当に言葉を間違えるなぁ」

「えっ?」


「付いてきて貰えますか?じゃないんだよ。


 ―――――ついてこい、だ。覚悟を決めろ、勇者コルス」


「――――――はい…!!」


 こうして、僕らのグラウ村救出計画は幕を開けたのだった。



 望遠の魔法が使えないのなら、リスクはあるが村に近づくしかない。

 一応、ポーチの中には冒険アイテムがそれなりに揃っていて、望遠の魔法とは比べものにならないが、少し遠くを見られる小さな望遠鏡くらいは入っている。

 それでまずは様子をうかがう。

 何の策も無くただ突っ込んでいくのは、勇気でも覚悟でもなくただの無謀だ。


 幸い、村の入り口は林からそう離れていない、とりあえず林の端までゆっくりと、音をたてないように近づく。

「……侵入者を検知する結界とか無いですよね……?」

 不意に不安になって矛盾コンビに訪ねてみる。

「無くはないが、関係ない」

「なぜですかパイクさん?」

「理由は二つ、さっきのモンスターたちは確実に見張りで、私たちはそれを倒したので、相手側にはここに誰かが向かっていることはもうバレてるし、視界を奪う魔法に望遠の魔法が接触した時点で村の様子をうかがおうとした事もバレている。つまり私たちの存在はとっくにバレている」

「なるほど…………なるほど……」

 うんうん、と何度か頷いて、致命的な事を理解した。

「マズイですね?」

「とっくにマズイ」

 なんてこった……。

「まあ落ち着くのじゃ。存在はバレているじゃろうが、はっきりと居場所を確認されているとも思えん。だとしたら、とっくに襲われてるじゃろうからな。向こうとしては、警戒を強めて村の守りを固めている程度じゃろ」

「それはそれで困ったもんですけどね……」

 理想としては、モンスターたちの目を盗んで街の人たちを救出できればいいと思っていたのだけど、どうやらそれも難しそうだ。

「そろそろ口を閉じた方が良さそうだぞ」

 イジッテちゃんの言葉に前を見ると、木々の隙間から街道が見える。

 確か、この道を一本挟んだ向こうがグラウ村だったはず……。

 音をたてないようにポーチから小型望遠鏡を取り出し、様子を窺う。


 ―――――ひぃぃぃ……村を取り囲むように大量のモンスターが見張りに立っている。とてもじゃないが強行突破なんて出来そうにない。

 とは言え、もちろん諦めて帰る、なんて選択肢はない。

 ポールムちゃんと約束したんだ。実際にどこまで出来るのかはわからないけど、出来る限りの事はやってみせるさ。

 そのためにもよく観察だ。見える範囲の全てを見逃さない勢いで、少しずつ場所を変えながら全体を把握する。

 とは言え、村の周囲が全て林な訳ではないし、村とは言えそれなりの広さがあるので、見えるのはあくまでも村の入り口から中心……いや、3分の1程度だろう。

 その範囲内だけで見つられた微かな光があるとすれば―――――

「外部からの侵入を強く警戒しているから、内部はわりと手薄に見えるかな」

「ふむ、つまりは気づかれずに中に入れさえすれば、中ではわりと動きやすいかもしれないと?」

「けど、どうやって中に入るのかしら?見張りに隙があるようには見えないけどぉ……?」


「それなんですけど、ちょっと考えがあるんです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る